港町とスパイス
水平線がどこまでも続く。
真夜中になると月と星の光が海面に輝き、どこまでもどこまでも続くように見える海。進んでも進んでも見えない陸地。
遥か昔の冒険者たちはどのような気持ちで船を大海原に出していったのであろうか。
灯台の明かりが見えた時の喜びはどのようなものだったのであろうか。
日常が便利になり、行きたいところには行けるようになった今。その時の喜びや驚きを感じることができるのであろうか。
何年か前に、横浜とムンバイが姉妹都市になって何十周年とかで記念のスパイスミックスを作ることがあった。何十年も昔のインドの人々が遥か遠くから横浜を目指し、船を乗り東南アジアを経由してたどり着いた日本、横浜。最初に食べてみたかった料理はなんだったのであろうか。待ちわびた人々と、辿り着いた人々が交わる港町には常にドラマがあったのではないだろうか。
多種多様な人種が集まるように、食材やスパイス、ハーブなども交わり新しい味や、レシピ、料理が刺激しあい生まれていったのではないだろうか。
そんなことを思っているとスパイスとハーブと塩をブレンドした港町のスパイスミックス「ポートスパイス」を作ってみたくなった。海に近いので魚に合うようなシーズニングが良いのであろう。
魚に会うハーブやスパイスとして思いつくのはすっきりとした香りが特徴的なディル。トマトとの相性も良い「マジョラム」そして酸味とも相性が良い「タラゴン」。どれも特徴的で魚料理によく使える。それらを混ぜながらミントに塩、フェンネルにカルダモンなどをブレンドしながらシーズニングを作っていく。爽やかながらもピリッと辛く、クセになるようなシーズニングである。フィッシュフライに焼き魚、グリルに蒸した物にもかけられる。下味にもなるようなブレンドの出来上がりである。少し緑がかったポートスパイスは港町のレストランのテーブルの上に置かれ、潮風が気持ち良いテラスで日焼けした男たちがワインを片手に料理にバシバシとかけている。
長く旅をした人々を歓迎するかのような、気持ちが良い料理とお酒。
その空間をより楽しく、特別なものにしてくれる「ポートスパイス」
海に出た男たちは口々に「きっとまたあの味を食べに戻ってきたい。」
「あの港で食べた料理は最高だったよ。」
そんな素敵な言葉が出てくるようなスパイスをいつかは作ってみたいものである。
わざわざ出かけていってでも食べたいあの味とあの雰囲気。
旅に出ると料理がより美味しく感じるのは、そんな特別な時間もスパイスになっているのかもしれない。