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スパイスパレード

 スパイス売りを始めた頃は1人で夜行バスや夜行列車に乗っては全国各地に行ってスーパーやデ パートの片隅で試食販売をしていたものである。日本を飛び出し、香港やシンガポールなどに 行って試食販売をしていた時期もある。試食販売をしながら稲村ガ崎の海の目の前にあった「稲 村ガ崎食堂」にて月に一度、ベジタリアン料理とチャパティとチャイを提供する「移動チャイ 屋」なるものを始めた。旬の野菜とチャイ。今やっている季節の野菜の料理教室やオリジナルの チャイミックス作りなどはこの時からやっていたのであろう。毎度違う野菜と向き合うことでス パイス使いの柔軟さも身につけていったような気がする。移動チャイ屋を始めたら様々なところ でも声をかけてくれるようになり、移動に弱い移動チャイ屋は各地に行っては野菜とスパイスの 料理やカレーとチャイを振る舞ってきた。時にはジャズやフラメンコ、バイオリンやカリンバなど の生演奏とともに楽しむ「移動音楽チャイ屋」も定期的に開催していた。1人で列車などに乗って 動き回っていた試食販売の時から気づいたら一緒に動く仲間が増えていった。移動チャイ屋も キャラバン隊のようになり、料理を作るもの、ドリンクを作るもの、時には音楽を奏でるものも 一緒に回った。

キャラバン隊はだんだんと行くところの人々を巻き込んでいきながら、様々な人たちと出会 い、大きくなっていく様がパレードのようであるから最近では「スパイスパレード」と呼んでみ ることにした。観客も巻き込んでいきながら様々なところを練り歩いていく、夏の海や大都会、 冬の雪山。どこかの港町。砂漠やジャングルなどにもいってみたい。
そういえばカレー作りもなんだかスパイスのパレードのようだ。ホールスパイスをパチパチと 油で熱して香りをだすのがパレードの始まりである。芳醇な香りに玉ねぎやトマト、お肉やお 豆、様々な野菜たちが集まってくる。観客のようにいたキッチンや冷蔵庫の野菜たちも楽しそう な香りの楽曲に引き寄せられ気づいたらパレードに参加している。豊かな食材がカレーのパレー ドをより盛り上げてくれる。パレードの中盤で盛り上がりを見せるのがパウダースパイスたちの登 場である。パッと刺激的な香りがさらに観客であった人たちを寄せ付けてきて1人で作っていた キッチンにはカレーを食べたい人たちが集まっている。スパイスと食材と人々。楽しそうなスパ イスパレードは今日も世界中のキッチンで開催されている。

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