見出し画像

名盤と人 第5回 終わりなき友情  「Laid Back」 Gregg Allman  

音楽と人が好きだ。ミュージシャンとミュージシャンとの出会いから別れ、成功と苦悩を名盤を通して書き連ねるシリーズ企画5回目。

Gregg AllmanとJackson Browne。前者はサザンロック、後者は西海岸のシンガーソングライター。一見すると接点が無さそうな2人が堅い友情で結ばれていたのは意外である。2人の絆の原点を探る。

Laid Backの意味


1973年10月にリリースされたAllman Brothers Band(オールマンブラザーズバンド)のGregg Allmanのソロデビュー作品。
本連載の第一回で掲載したAllman Brothers Band「Brothers and Sisters」も同じ1973年にリリースされ、こちらは8月と少し早い。

さて、まずはタイトルの「Laid Back」について検証して見たい。
「くつろいだ、リラックスした」という意味で使われるカジュアルな言い回しだが、70年代にはロックにおいて、流行りのテイストとして一世を風靡する言葉でもある。
グレックがその流行りを上手く先取りしてタイトルにしたのだと思われる。
が、今ではLaid Backサウンドと言うと、1974年にリリースされたエリック・クラプトンの「461 Ocean Boulevard」を上げる人が多いだろう。
さらに、クラプトンがお手本にしたのが、JJ Caleの「Naturally」であり、リリースされたのが1972年だから、Laid Backが70年代前半のトレンドであったのは間違いない。

ただ、グレッグの「Laid Back」は現在我々がイメージするLaid Backサウンドとは趣を異にする。
当時は言葉さえなかった「AOR」の先駆的なサウンドとなっていて、グレッグがやると洗練され過ぎず、Allman Brothers Bandよりもくつろいでゆったりとしたブルーズ調のAORサウンドになっている。

選曲は「Midnight Rider」「Please Call Home」Allman Brothers Bandのセルフカバーが2曲
バックもJai Johanny Johanson ,Butch Trucks,Chuck Leavellと3人がオールマンから参加しているがオールマンとは意図的に違う音作りだ。

最も聴きどころは、晩年のLIVEでも定番だった「Queen of Hearts」。
自作のバラッドをストリングスとホーンを背景に、オールマンではできなかったゴージャスなサウンドを展開している。
イントロのギターはFusionの先駆けFull Moon、Larsen-Feiten Band で活躍したBuzz Feiten。この辺の人選はAOR的なサウンドとリンクする。

グレッグとジャクソン


バック・ミュージシャンで主軸になっているのは、この時19歳の若手キーボードのChuck Leavell。
彼はこの作品について「Laid Backは心からの憂鬱なバラードに焦点を当てAllman Brothers Bandと比較して『よりまろやかで、激しさの少ない』アルバムを作成することが主題であった。 一言で言うなら『メロディック』。これはよりメロディックなレコードだった。」と思い出している。

Leavellの活躍を評価したグレッグはオールマンに推薦し、加入のきっかけを作っている。
Leavellは終生このことを感謝し、グレッグの死に際して追悼メッセージを寄せている。
「ありがとうグレッグ、あなたの創造性、あなたの才能、あなたとの強固な友情、そしてあなたの素晴らしい人間性に感謝しています。あなたとの友情、何度もあなたとステージで共演したこと、時を経ても聞かれ続けるアルバムのレコーディングに参加できたこと、永遠に感謝し続けます。あなたはいつも私のヒーローであり、私はあなたの一番のファンです。安らかに、私の兄弟。」

オールマン解散後Chuck LeavellはSea Levelを結成し、その後はオールマンの再結成を蹴って、Rolling Stonesのバンドメンバーとなる。
ツアーでは音楽ディレクターとしてストーンズ後期を主導したわけなので、経済的には正しい選択だった。

さて、今回の主題である嫉妬と裏切りが渦巻くロック界において、滅多にない友情物語の話。
Side-Bの一曲目、Jackson Browne作曲の「These Days」
この「These Days」は「Laid Back」、そしてほぼ同時期に発売された作者ジャクソンの2作目「For Everyman」にも収録されている。

グレッグはオールマンが結成される前、兄のデュアンと共にロサンゼルスで1967年The Hour Glassというバンドを結成。そのデビューアルバムにはJackson Browneの曲「Cast Off All My Fears 」も収録されていた。
実はその頃、グレッグとジャクソンは一時期同居していたこともあるほど仲が良かったらしい。

「These Days」は16歳の時に書かれ、67年にヴェルヴェット・アンダーグラウンドのNicoによって録音されていた。

ジャクソンは「Laid Back」で録音されたグレッグの編曲に感銘を受けて、「For Everyman」でセルフカバーしている。
自分はジャクソンが既にリリースした「These Days」をグレッグがカバーしたのかと思っていた。
が逆で、ジャクソンが発表できずにいた昔の曲をグレッグが素晴らしいアレンジで世に出したと言うのが真相だ。
彼等が同居している頃にジャクソンはグレッグにThese Daysを聴かせていたようで、2人の親密さが伺える。

その後も2人の交友は続き、2014年Gregg Allmanのトリュビュートライブ「All My Friends」においてこの「These Days」を共演している。
バックバンドの中にはChuck Leavellの姿も見える。

All my friends

https://youtu.be/cRCQRTLjsgE

そして、2人にも別れの時が訪れる。
2017年5月、Gregg Allmanが逝去。

同年9月にリリースされたグレッグの遺作「Southern Blood」にはジャクソンの「Song for Adam」が選ばれていた。

「彼が亡くなる1週間前にちょうど彼と話す機会があったんだ。そして彼の音楽と彼の音楽が僕にとってどれほど意味のあることだったのか伝えなければいけなかった。彼は最近、僕の初期の曲 “Song for Adam” をレコーディングし、彼とドン・ウォズが歌入れをして欲しいと送ってきたんだ。そして僕は歌ったんだ」by Jackson Browne


Laid Back/Gregg Allman

Side-A
1.Midnight Rider
2.Queen Of Hearts
3.Please Call Home
4.Don't Mess Up A Good Thing
Side-B
1.These Days
2.Multi-Colored Lady
3.All My Friends
4.Will The Circle Be Unbroken

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?