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名盤と人 第2回 ベースの魅力に目覚める 「Royal Scam」 Steely Dan

音楽と人が好きだ。ミュージシャンとミュージシャンとの出会いから別れ、成功と苦悩を名盤を通して書き連ねるシリーズ企画。
多くのスタジオミュージシャンが参加した本作。聴きものはベースである。
当代随一のベーシスト、Chuck Rainey(チャック・レイニー)にスポットを当てて「Royal Scam」 (Steely Dan)を語る。

「Royal Scam」 Steely Dan
Side 1
1. Kid Charlemagne 
2. The Caves of Altamira 
3.Don't Take Me Alive 
4. Sign in Stranger 
5.The Fez (Walter Becker, Donald Fagen, Paul Griffin) 
Side 2
1. Green Earrings 
2. Haitian Divorce 
3. Everything You Did 
4. The Royal Scam 

Royal Scam / Steely Dan

最初に買ったSteely Danのアルバムが1976年リリースの5作目「幻想の摩天楼」(The Royal Scam)である。
1曲目の「滅びゆく英雄(Kid Charlemagne)」を聴いた瞬間にやられてしまいレコード店で即買いしてしまった。

前々作リリース後にジェフ・バクスターなどが脱退し、75年に出した前作「Katy Lied」 で後にTOTOに参加するジェフ・ポーカロ(ドラム)とマイケル・マクドナルドを準メンバーに加えつつ、多くのゲストを迎えることで乗り切った。
そして本作では中核メンバーのドナルド・フェイゲン (キーボード、ボーカル)とウォルター・ベッカー (ベース、ギター)にギターのデニー・ダイアス とメンバーは3人。後は豪華なセッションプレーヤーを投入して理想の音を作る図式が確立されたのがこのアルバム。

Kid Charlemagne」ではギターのラリー・カールトンのあまりにも有名にスーパーソロに度肝を抜かれたが、バーナード・パーディ (ドラムス)とチャック・レイニー(ベース)のリズムセクションコンビの紡ぎ出す怒涛のリズムの洪水にさらに驚愕した。
特にチャック・レイニーの小刻みでうねりのあるフレーズと粒立ちのある音色は今まで聴いたことのないベースで、自分がベースという楽器に目覚めたのがこれがきっかけである。

「Kid Charlemagne」のベースパート動画

ベースは縁の下の力持ちとしてリズムキープに徹するという概念が覆され、曲をリードする主役級の存在に躍り出たのがこの演奏である。
滑らかな音色でゴムまりのように跳ねながら刻むグルーヴを作り出すレイニーのベースを聞き漏らさないように聴くのが、いつしかこのアルバムを聴く流儀になって行った。
天才作曲コンビの楽曲の素晴らしさは勿論だが、このアルバムはチャック・レイニーのベースを聴いていれば没入できる、というベースのための作品と極言してみたい。

Side2の1の「Green Earrings」の細かく刻むベースプレイもまた白眉で異次元の世界に誘うほど強烈。

さて、チャック・レイニーChuck Rainey)は1940年生まれ。今も存命で80歳。セッション・ベーシストとして、黒人音楽をメインにキング・カーティス、アレサ・フランクリン、ダニー・ハサウェイ、クインシー・ジョーンズ、ロバータ・フラックなど錚々たるミュージシャンの作品で名演を披露している。あの細野晴臣も最も影響を受けたベーシストとして上げている。

多くのスタジオミュージシャンを湯水のように注ぎ込むSteely Danだが本作も次作「Aja」でも外部起用のベースはチャック・レイニーのみ。
いかに彼が音の偏執狂のフェイゲン&ベッカーに信頼されていたか。

レイニーのベースに限らず、このアルバムはスーバープレイの宝庫である。
ラリー・カールトンに加えて、Reelin' in the Yearsの名演以来のお馴染みエリオット・ランドール、ディーン・パークス、ヒュー・マクラッケン にメンバーのウォルター・ベッカーと綺羅星のようなギターヒーローのプレイが堪能できる。バッキングボーカルにはDoobieにボーカリストとして参加したマイケル・マクドナルドとEaglesに後に参加するティモシー・B・シュミットも投入。

1977年リリースの不朽の名作「Aja」からは完全にジャズの世界に足を踏み入れてしまうSteely Dan。
最後のロックアルバムとして位置付けられるのがこの「Royal Scam」。
 カールトンのド級のリードギターで自前のメンバーの演奏力では到達できなかったロックバンドとしての極上の音を聴かせて鬱憤を晴らし、ロックとの「サヨナラ宣言」としたのかもしれない。
さらに2-2「Haitian Divorce」では当時のロック界のトレンドであったレゲエも取り入れている。
元々はNY育ちだが、当時の活動拠点が西海岸だったりしたので、イーグルスやドゥービーと一緒くたにされてウエストコートロックのジャンルに入れられたり、日本での位置付けが定まっていなかった。
(同年の1976年 にEagles「Hotel California」、Doobie Brothers「Takin' It to the Streets」発売)

このアルバムから東海岸のセッションプレーヤーが大挙して参加、Ajaからは再びNYに拠点を戻し、Steely Danから西海岸イメージは消え去る。
バンドという形態から解き放たれ、理想のサウンドを追求するユニットとしてのSteely Danが認知され、さらにロックを捨て去りジャズという新しい局面に突入するのが「Aja」である。
Aja→Gaucho→さらにフェイゲンのソロ「Night Fly」とSteely Danサウンドが世界を席巻するプロローグとして「Royal Scam」を聴くと一層深みを感じるのではないだろうか。

さて、最後に「自分はチャック・レイニーを生で観たのか?」と問うてみる。
記憶の糸を手繰り寄せると、一回だけライブで観たのを微かに思い出す。
1978年、TOM SCOTT BAND (トム・スコット・バンド)の芝郵便貯金ホールでのライブ。
スティーブ・ガッド(ドラム)、リチャード・ティー(キーボード)、エリック・ゲイル(ギター)、ヒュー・マクラッケン(ギター)、ラルフ・マクドナルド(パーカッション)というメンバーと共に来日した公演を観ていたのだった。
76年の映画「タクシードライバー」のテーマを演奏して一躍時の人となったトム・スコットのバックとして来日していたのだった。

スティーリー・ダン
ドナルド・フェイゲン - キーボード、ボーカル、バックグラウンドボーカル
ウォルター・ベッカー - ベース、ギター、ボーカル
デニー・ダイアス - ギター

ゲスト・ミュージシャン
ラリー・カールトン - ギター
ゲイリー・コールマン - パーカッション
ヴィクター・フェルドマン - パーカッション、キーボード
ヴェネッタ・フィールズ - ボーカル、バックグラウンドボーカル
ボブ・フィンドレイ - ホーン
チャック・フィンドレイ - ホーン
ポール・グリフィン - キーボード、ボーカル
ドン・グロルニック - キーボード
ジム・ホーン - サクソフォーン
ディック・ハイド - ホーン
リチャード・ハイド - トロンボーン
スライド・ハイド - ホーン
プラス・ジョンソン - サクソフォーン
クライディー・キング - ボーカル、バックグラウンドボーカル
ジョン・クレマー - ホーン
リック・マロッタ - ドラムス
シャーリー・マシューズ - ボーカル、バックグラウンドボーカル
ヒュー・マクラッケン - ギター
マイケル・マクドナルド - ボーカル、バックグラウンドボーカル
ディーン・パークス - ギター
バーナード・"プリティ"・パーディ - ドラムス
チャック・レイニー - ベース
エリオット・ランドール - ギター
ティモシー・B・シュミット - ベース、ボーカル、バックグラウンドボーカル
制作
プロデューサー:ゲイリー・カッツ
エンジニア:ロジャー・ニコルズ






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