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産業動物の現在と未来〜獣医師が担う役割とは?~Beyond VET 2021 Vol.3 開催報告~(前半)~

こんにちは!Beyond VET事務局です。
夏休みはみなさんどうお過ごしになったでしょうか。

さて、先月30日に今年度第3回目のイベントを開催しました。以下開催報告です。

参加登録者分析

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・参加者所属
麻布大学、北里大学、東京農工大学、日本大学、日本獣医生命科学大学、
宮崎大学、山口大学、酪農学園大学、小動物臨床獣医師

今回のイベントはBeyond VET史上最高満足度でした!!
今後もBeyond VETは、イベント、コミュニティともに、みなさんにより楽しんでいただけるコンテンツや有用な情報を提供していきます!

トークセッション

第3回の Beyond VET のテーマは『産業動物の現在と未来〜獣医師が担う役割とは?』ということで、寺内先生、井上先生をお招きしてトークセッションとワークを行いました。
このnoteでは、前半のトークセッションをお届けします。
なお、今回は海野がモデレーターを務めさせていただきました。

登壇者プロフィール

寺内 宏光先生
寺内動物病院
2012年日本大学卒業。当時は牛とペットの両方を修行し、小動物臨床をメインにするつもりでいた。
北海道の(株)トータルハードマネジメントサービスでの勤務で産業動物の面白さと将来性に衝撃を受け、家畜診療と農場コンサルティングを叩き込む。
2017年より栃木県で家業を継承。現在は牛専門(乳牛、繁殖和牛、肥育肉用牛)で、①診療、②AI・ET、③繁殖管理、④予防、生産獣医療、⑤採卵を主な事業とする。
最近は、podcast「らくちっくラジオ」配信、水産獣医療、獣医師×SDGsプロジェクト運営など、人と動物の関わりの未来を考える活動を精力的に行う。
井上 貴幸先生
2011年 麻布大学獣医学部獣医学科卒業。
現在グローバルピッグファーム株式会社 獣医コンサル部所属。
養豚現場を約3年の経験経て、養豚経営コンサル業を行っている。
秋田・山形・新潟・石川・長野の5県で約30農場の担当をしている。
現在では同社で、スマートアグリ事業への挑戦をしている。
「日本人らしいモノづくり」をテーマに仕事が恋人の状態である。趣味はアウトドアと料理。

今の仕事を選んだきっかけ・普段の業務

海野:産業動物の現場で活躍されているお二人ですが、元々学生時代から牛や豚の獣医さんを目指されていたのですか?
寺内先生:最初は犬猫の獣医さんになるつもりでした。
僕の祖父の代から牛の動物病院をやっており、僕は3代目なんです。
学生時代は、畜産業界は高齢化が進んでおり、これから衰退していくイメージを持っていました。
そのため、将来は犬猫をメインに診察しようと思っていました。
しかし、当時、病院のお客さんに農家の方がいたので、牛もざっくりですが勉強していました。
悩みましたが、まずは新卒で牛の勉強をしようと思い、北海道に修行に行きました。
すると、牛の世界に見事にハマり、犬猫は診ず、牛だけを診察しよう!と思うようになりました。
寺内先生:もちろん獣医師として牛の病気を治すことは重要です。しかし、「牛を健康にする」だけでなく、「農家(生産者)の経営をよくする」「消費者へ安全な畜産物を安定的に供給する」という三者(牛・農家・消費者)全員がハッピーになるように解決策を考えることが獣医師の使命だと考えています(下図)。
獣医師として牛の健康を守ること、消費者に安全・安心なお肉や乳製品を届けることは想像しやすいと思います。
ではなぜ農家の経営を守る(儲けさせる)ことが必要なのでしょう?

経営の安定した農家は牛のいる環境を良くしたり、良いエサを使用することできますよね。すると牛が病気をしにくくなり、結果的に生産性や動物福祉が向上するといった良いサイクルが生まれることにつながるわけです。

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井上先生:獣医師として、養豚専門のコンサルタントを行っています。
しかし、僕も最初は犬猫の獣医師を考えていました。
寺内先生と同じマインドで嬉しいですね(笑)。

普段業務をする上で大切にしていることは、消費者意識を忘れないことです。みんなが食べたくなるような健康な豚肉を生産することを常に意識しています。
井上先生:ところで養豚獣医師とはどんなことしてると思いますか?
もちろん飼育管理をしているのですが、外科手術など臨床的なことはあまりしないんです。
(出産数や事故率などを数字で表した)データをよく見て、今後の方針を決めるのが養豚獣医師の特徴です。
1時間で300頭にワクチンを投与するなど、もちろん豚に直接触れることもあります。
しかしそれはメインではなく、成績低下の原因を調べたり、いくらで豚舎を立てられるのかなど、経営方針を考えることがメインの仕事になります。

これまでとこれからの産業動物獣医療

海野:ありがとうございます。
お二人とも最初は小動物臨床獣医師を目指されていたのですね!
それでは、これからの産業動物獣医師の役割についてお聞かせいただけますか?
寺内先生:これからは、プロダクションメディシン(生産獣医療)が重要になると考えています(下図)。
以前までは個体診療が重要でしたが、獣医師の指示の下であれば、ある程度の治療行為は農家の方が行うことができます。
つまり注射などの一般的治療は専門性が低く、今は重要ではなくなってきているのです。
今後は、「群全体が病気を出さないような管理群管理」と、「診断・治療がハイブリッドしたプロダクションメディシン」、つまり病気をなくすだけでなく、農家さんの成果を上げることが今後獣医療として求められます。
その例として、僕は最近では、牛舎の設計や牛のベッドの管理に関わっています。
病気がなくなると儲からない獣医師は時代遅れだと思います。

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井上先生:養豚の分野でも同じですね。
治療という行為がマイナスをゼロにするくらいの仕事であり、ゼロからマイナスになるのをまず無くし、そこからプラスになるよう、PDCA回すことが重要になります。
緊急出動は恥ですよね。それだけ管理ができていないってことですから。
前回のBeyond VETのイベントでもお話しましたが、暇な獣医さんほど偉いんですよね。(詳細:2020年度第三回イベントnote参照)
寺内先生:豚とは違って牛は個体の価値が高いため、病気なら治療します。時には帝王切開などの難産の治療が必要です。
再生医療などの高度医療もやりつつ、病気をなくす生産獣医療の両方ができるのが豚との違いかなと思います。

これからの産業動物現場で活用されていくデジタル技術について

海野:なるほど。動物を治すだけでなく、病気にならないよう、しっかり管理したり、成果を上げるために農家さんにアドバイスすることも重要なのですね。

さて、現場では様々なデジタルを用いた機械が使用されていると聞いたことがあるのですが、実際はどのように使われているのですか?
寺内先生:例えば、直腸検査をする時に、ゴーグルでエコー画像が見えるシステム(以下URL参照)を使用しており、その画像がタブレットにも共有されます。
そのため、大きな画面で農家さんにエコー画像の説明ができますね!
日本にも徐々に普及してきています。
寺内先生:また、血液検査としてポータブル血液検査機器(以下URL参照)を使っています。
これを利用することで、一般生化学や血液ガスなどをその場で調べられます。
しかし全項目を計測するとコストがかかるため、本当に測るべき項目を絞って検査をします。
外注して確定診断を行うこともありますね。
このカートリッジは2分で結果出るのでスピーディーです。
井上先生:養豚獣医師は初めに農場研修を行います。
だいたい1年ほど行う方が多いですが、僕の場合は前職と合わせて3年間現場経験しました。
デジタル化している部分も多く、離乳舎はウィンドウレス豚舎として、温度や湿度を機械で調整しています。
井上先生:養豚の世界ではデータ管理が重要です。
分娩から出荷までの予測が立てられ、売り上げ予測からこれくらいお金かけられそうなどのシミュレーションができます。
この農場は巡回行くべきか、この農場は調子いいから大丈夫だななど、データを見つつ訪問するべき農場を選びながら、必要時に農場の巡回を行います。

ところで、豚一頭分のお肉はいくらになるでしょう?
(ちなみにイベント参加者の回答は4~100万円まで様々でした。正解は調べてみてください)
井上先生:次に海外の農場についてです。
海外では「妊娠豚の群飼を行わなければならない」と、アニマルウェルフェアで決まっています。
一頭一頭給餌管理しないといけないので、個体給餌のためにマイクロチップで管理をしています。
また、離乳子豚もたくさん食べると下痢をすることも多いので、個体給餌器を利用しながら管理します。
井上先生:また、豚は枝肉重量がとても大切です。
そこで、豚が餌のある場所で、自動で体重をはかりながら出荷できる豚の背中に色をつけて振り分けてくれるオートソーター(以下URL参照)というシステムもあります。
それにより画像でも管理を行い、ももの部分が大きい豚はこの店舗に出した方が売れる、などの出荷先の選別も可能になります。
他にも餌タンク量把握や、設備稼働状況、肺炎などの呼吸器症状の遠隔管理が可能です。
寺内先生:牛の世界でも自動化は進んでいます。
自動で搾乳を行うロボット(以下URL参照)により、搾乳量が確認できるため、病気の早期発見が可能になります。
また、乳汁の黄体ホルモンの濃度の測定による妊娠鑑定を行うことで、コストも抑えることができます。

業界の今後と獣医師が担うべき役割

海野:たくさんのデジタルの技術が現場で使われているのを知り、驚きました!かなり自動化されているのですね。
最後に、今後産業動物獣医師として活躍するにあたって、どのようなことが必要になりますか?
井上先生:やはり僕らの仕事はコンサルタントです。
コンサルタントには問題解決を請負うという役割と、チャンスをどれだけ経営に活かせるかの役割があります。
これからも獣医師としていろんな獣医学にとどまらず様々な勉強をしていく必要があります。
さらにデジタル技術を使い、養豚についてあまり知らない方たちとうまく仕事をつなぎ、業界を良くしていくことも養豚獣医師の役割になるんじゃないかと思います。
寺内先生:今、牛の獣医師のあり方は変わってきている段階です。
牛が病気であることを前提としてシステムが動いていることが問題だと考えています。
つまり病気がなくなっても、農家とともに繁栄できる診療所でなければならないと思います。
そのため、獣医師として今後もどうあるべきかを考えていかなければなりません。
新しいことを開拓していくことも必要でしょうし、それにも魅力を感じています。
海野:今後もますます産業動物分野が盛り上がっていきそうですね!
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、どうもありがとうございました!

以上、現場でご活躍するお二人のご対談でした。
これまでの獣医師のあり方と、今後の獣医師のあり方は段々変わりつつあります。今後獣医師として、ただ動物の診察・治療を行うだけでなく、農家を含む畜産分野全体の活性化に向けて活躍することが求められると感じました。

最後に、このイベントに参加した参加者の皆さんからの感想です!
(一部伐採)

・大動物臨床でも様々な機械が導入されていることを知り、とても驚きました!
・農家さんに獣医師が技術を教えてるなんて知りませんでした。
獣医療と経営の割合を考えたときに、もっと獣医療が占める割合があると思っていたので、さらに畜産に興味湧きました!
・獣医療の提供だけを考えることに執着しないことが世界を広げるのにすごく大切だと実感しました。
・農家と消費者と共に発展していくことが必要なんだなって思いました。
ビジネスって面白いなと思いました!

次回はイベント後半のワークについてお届けします!お楽しみに!

このようにBeyond VETはイベントも行っていますが、コミュニティとしても運営しております。ちょっと興味あるな!雰囲気だけでも知りたい!って方は、Beyond VET公式TwitterまでDMいただくか、beyondvet.info@gmail.comまでメールでご連絡ください。個別に対応させていただきます⭐️

Beyond VET事務局



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