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政治・経済的転換期。資産形成を考える上で知っておきたい、時代を読み解き、流れを掴む力

世界は今、大きな転換期を迎えています。日本では衆議院選挙で与党が過半数割れを起こし、アメリカではトランプ氏が大統領に復帰するなど、政治的な変動が続いています。物価上昇による暮らしへの影響も深刻化し、将来の不安が高まっています。

このような時代に私たちはどう対応すべきか、また企業はどうあるべきなのでしょうか。30年以上にわたり金融市場での実務経験を持ち、インフレや物価、資産形成に深い知見を有する東京海上アセットマネジメント参与の平山賢一氏(経済学博士)をお迎えし、当社代表の森本、CFOの野崎と共に議論を重ねました。

13世紀から続く資本主義の転換期という大局的な視点から、個人の資産形成や企業経営のあり方まで、先の見えない時代を可視化する示唆に富んだ内容となっています。


今はまさに、資本主義の大転換期 〜金利と物価から読み解く現代〜

ーー 与党が過半数割れを起こし、アメリカではトランプ氏の大統領復帰が近づく※1など、政治的にも経済的にも混沌とした状況が続いています。このような状況下で、株価や物価はどのように変動していくとお考えでしょうか。
※1 本インタビューは2024年11月に実施しました。

平山:私は長年、歴史的な視点から金融を研究してきました。最近出版した「金利の歴史」では古代から現代のマイナス金利解除までを、「物価の歴史」では世界史上の出来事と物価の関係を分析しています。その視点から見ると、現在は過去数千年の中でも極めて重要な転換点に立っていると言えます。

特に金利の動きが注目に値します。主要国の国債利回りは通常2%を下回ることはほとんどありませんでした。しかし近年は2%を大きく割り込み、「ゼロ」やマイナスが普通の時代になる可能性すら出てきています。これは明らかに資本主義の転換期を示しています。

金利とは本質的に、お金の希少性を表すものです。かつては資本が不足していたため、その提供に対して金利という形で対価を支払う必要がありました。しかし現代では、むしろお金は余っている状態です。代わりに希少性が高まっているのは、人材とデータです。企業にとって重要なコストの中心は、セキュリティ対策や人件費に移行しています。

政治的な混乱は確かに気になりますが、それは数十年に一度の周期的な現象にすぎません。13〜14世紀から続いてきた資本主義そのものが、大きな転換点を迎えているという認識の方が重要です。

要するに、お金ばかりを重視するのではなく、人材やデータに着目していかないと、企業も個人も足元をすくわれるかもしれないということです。

東京海上アセットマネジメント株式会社 参与 チーフストラテジスト 平山 賢一氏

森本:経営者の方々との会話でも、危機感は確実に高まっていると感じます。

その背景には大きな構造的問題があります。少子高齢化による人口減少は、否応なく市場を縮小させています。かつての右肩上がりの時代と違い、普通に事業を続けているだけでは売上の維持すら厳しい時代になっています。人材確保も難しくなっており、さらにインフレの定着が経営を圧迫しています。株価は確かに上昇していますが、これは主に大企業のガバナンス改革などの影響で、中小企業の経営実態とはかけ離れていると感じます。

平山先生がおっしゃった資本主義の転換期という話に関連して興味深いのは、今の若い人たちの価値観です。彼らは、資本市場が嫌いというか、信頼していないように思えてなりません。むしろ、ESGやインパクト投資など、社会課題の解決に取り組む企業に関心を示しています。「この会社で働きたい」と思ってもらえる理由も、単なる待遇面だけでなく、社会的な意義を見出せるかどうかが重要になってきているように思えます。

野崎:私は現在の経済状況を、長期と短期の矛盾が極めて拡大している時代として捉えています。前回の平山先生のお話にもあったように、長期的に見れば、情報社会の本格的な到来によって、エネルギーや物質への依存度は確実に低下していきます。人口も停滞あるいは減少傾向にあることから、低成長・低インフレ・低金利が基調となるでしょう。

しかし短期的には、状況はより複雑です。たとえば、米中対立はまだクライマックスを迎えていません。これから想定外の事態が起こる可能性も十分にある。物価を見ても、上昇の中心がモノからサービスへと移行し、インフレの粘着化が進んでいます。

私自身、ファンドマネジャーとして市場を見てきた経験からお話しすると、「あまり良くない状況だな」というのが、実際に何年かに1度は起こるのですが、それはなかなか止まらない。最終的には「セリング・クライマックス※2」、つまり市場が完全に悲観的になって、投資家が一斉に投げ売りをするような局面を迎えることで、ようやくひとつの時代が終わる。私は今、まさにそういう時期に差し掛かっているんじゃないかと感じています。このような複雑な状況下で、個人の資産形成の重要性は飛躍的に高まっているのではないでしょうか。
 
※2:株式相場の下落局面において、予期せぬ悪材料をきっかけに、投資家が大量の売り注文を出すことで生じる大暴落のこと。

市場の変動期を乗り切るための実践的アドバイス

ーー 株価の乱高下が予想される中、新NISAを始めた投資初心者の中には、夏の株価下落時に売却してしまった人も実は多いそうです。皆さん不安を抱えながら投資を始めたものの、急な変化に戸惑い、どうしていいのかわからない状況のようです。私たちはどう対応したらよいのでしょうか。

平山:投資は本来、「ほったらかし」で長期運用するのが理想的です。しかし、実際には投資をほったらかしにできない人の方が圧倒的に多い。そういう方々には、3つのポイントを意識していただきたいと思います。

一つ目に、自分の「メンタルバジェット」を考えることです。要は自分の心理的な許容範囲を考えましょうということですね。

二つ目のポイントとして、相場のチェックは朝にすること。夜に見て、下がっていると不安が募ってしまう。不安になって眠れなくなってしまえば、翌日の生活にも響くし、健康も害してしまいます。

そして三つ目、もっとも重要なのが「仲間」の存在です。投資は一人でする必要はありません。むしろ、同じ志を持つ仲間とネットワークを作り、情報を共有しながら進めていくことをおすすめします。

森本:仲間の存在という点が、実は企業年金の大きな特徴のひとつなんです。たとえば、「はぐくみ企業年金」を会社が導入した時、「これ、やっておいたほうがいいよ」と先輩社員からアドバイスをもらったり、「どうしようか」と同僚と相談したり。自然と仲間と一緒に資産形成について考えられる環境ができるんですよ。

野崎:そうですね。よく「NISAとiDeCoと企業年金、どれがいいですか?」という質問を受けるんですが、企業年金の特徴的な点は、まさにその"仲間"という要素なんです。従業員持株会に似ているところがあって、同じ会社の仲間と一緒に資産形成を考えられる。それが大きな強みになっていると思います。

超人手不足の時代到来。従業員に選ばれる企業になるには

ーー 企業年金のお話が出ましたが、「はぐくみ企業年金」は最近、加入法人数も加入者数も大きく増えていますね。その背景について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?

森本:最初にお話ししたように、経営者は強い危機感をもっています。我々のお客さまは20~30人規模の会社も多いのですが、特に中小企業の経営者は、将来への備えとして、しっかりとした資金を確保しておきたいというニーズを強く持っています。

さらに重要なのは人材の問題です。人を採用できない、人が定着しないために倒産する企業さえ出てきています。そのため、従業員に長く働いてもらうための福利厚生として、「はぐくみ企業年金」を活用していただいているケースが増えています。

株式会社ベター・プレイス 代表取締役社長 森本 新士

野崎:経営者の方々は、これから起こる変化を肌で感じ取っているのだと思います。間違いなく超人手不足の時代が来ます。森本が言うとおり、経営課題の核心は「人の定着」と「人の確保」です。だからこそ、「はぐくみ企業年金」を選択する企業が増えているのではないでしょうか。

平山:歴史を振り返ると、労働人口が減少する時代には必然的に賃金が上昇する傾向があります。しかも、一般的な物価上昇率を上回るペースで賃金が上がっていきます。実は1966年に厚生年金基金が整備されたのも、高度経済成長期における人材確保の課題に対応するためでした。

現在も同様の状況が生じています。新入社員の初任給は、ここ数年で数十パーセント上昇しています。ただし、この賃金上昇は年齢層によって大きな差があります。特に就職氷河期世代は、なかなか転職もせず、賃金上昇の恩恵を受けにくい状況が続いています。

かつての日本企業は、地方から高校卒業者を集団就職で都市部に連れてきて工場で働いてもらうことができました。しかし今は、地方でも人材が枯渇しており、企業は従業員に選ばれる必要があります。そのためには、しっかりとした働く環境に加えセーフティネットの整備が不可欠です。「はぐくみ企業年金」が選ばれている理由の一つは、まさにここにあるのではないでしょうか。

森本:本当に若い社員の賃金上昇率は、凄まじいです。一方で就職氷河期時代の人は非正規雇用のままであったり、賃金も上がらずに大変な思いをしたりしているわけです。格差の拡大は、私たちの目の前で着実に進行しています。キーワードになってくるのは「格差」なんですよ。

確定拠出年金やNISAなどの制度を活用できている人は、着実に資産を増やすことができています。一方で、そうした機会を持てない人は、置き去りにされています。特に20〜30代の若い世代は、マンション購入すら視野に入らない状況に置かれています。

当社の社員でも、40代後半以上の世代は比較的安価な時期に住宅を購入できましたが、若い世代は1億円を超えるような価格設定の中で、購入をあきらめざるを得ない状況です。低成長時代に入れば、長期投資による資産形成も容易ではなくなる可能性があります。若い世代の不安と不満は、切実ですよ。

平山:格差という観点でいくと、きちんと人にスポットライトを当てた企業であるかどうか。私が知る限りでは、御社はそれを実現しつつあると思っています。

森本さん、どうでしょう?

森本:当社では最近、持株会を始めたのですが、参加率が96%に達しています。これは、社員が会社の将来性に期待を寄せている証だと考えています。企業文化の良さ、カルチャーの共有が、今後ますます、企業の成長や、人材確保の点でも重要になっていくと思っています。

野崎格差是正の動きは、確実に世界的なトレンドになっています。企業評価の基準も大きく変化し、人材を大切にする企業が高く評価される時代になってくるのではないでしょうか。

これからの資産形成と企業経営

ーー 先が見通せない時代において、私たちはどのように資産形成を考えればよいのでしょうか。また、企業はどのような変革を求められているのでしょうか。

平山:最も重要なのは、意識と行動のギャップを埋めることです。投資の必要性は広く認識されていますが、実際の行動に移せていない人が圧倒的に多い。まずは一歩を踏み出し、積立投資を始めることが重要です。

ただし、現在の株価はかなり高い水準にあります。だからこそ、一度に大きな金額を投資するのではなく、積立投資で時間分散を図ることが賢明です。冒頭でお話ししたように、仲間と一緒に投資について相談したり話し合ったりしながら、過度な不安感に陥ることなく、地道に続けていくことも大切です。

一方、企業のあり方は大きく変わっていくでしょう。「顔の見える」関係が重要性を増し、適性な企業規模は、むしろ縮小していく可能性があります。昭和時代の「大きいことはいいことだ」ではなく、「小さいことが望ましい・心地いい」に変わっていくわけです。
私は「同心円型アメーバ組織」という概念を提唱しています。これは、中心に共感できる理念があり、その周りに賛同する人々が集まる形の組織です。環境の変化に応じて柔軟に形を変えられる、そんな組織が求められるでしょう。

森本:企業としても、全国同一賃金制度の導入など、新しい働き方を積極的に提供していく必要があります。当社でもDXを進め、テレワークしやすい環境を整備しています。地方でも都市部と同じ賃金で働け、なおかつ生活費を抑えられる。これからはそういった選択肢を提供できる企業が選ばれていくのではないでしょうか。

野崎:2040年以降、人口減少が本格化する中で、経営のあり方も大きく変わっていかざるを得ません。逆説的かもしれませんが、資産形成だけに注目するのではなく、自分を磨く、自己投資の重要性が増していると思っています。

投資に関して重要なのは、欲をかかないことです。「損をしない」「必ず儲かる」という思い込みは、かえって適切な判断を妨げます。これからの時代、資本による利益は限定的になる可能性が高い。むしろ、自己投資や人と人とのネットワークを広げていくことに注力するほうが、より賢い選択になるのではないでしょうか。そして、もっとも重要なのは、資産形成を通じて、自分の金融資産を保全し、守ることだと思います。

株式会社ベター・プレイス 取締役CFO 野崎 始

平山:企業のあり方について、つけ加えるならば、規模の経済よりも「共感」や「シンパシー」が重要な価値となっていくと思います。アダム・スミスが『道徳感情論』で説いたように、目を合わせることができる範囲での自由主義、つまり顔の見える関係での経済活動が、新たな形で実現されるのかもしれません。

実際、1970年代のように変化の大きな時代には、小型株のパフォーマンスが大型株よりも良好だったというデータがあります。大企業は環境変化への対応が遅れる一方で、小回りの利く企業の方が適応力に優れているんです。これからの時代、大企業よりも、適正規模を保っている企業の方が成長機会を捉えやすいかもしれません。

森本:そうですね。私たちの経験からも、規模を追い求めることよりも、会社のカルチャーを大切にすることの方が重要だと実感しています。社員同士が互いをリスペクトし合いながら仕事を進められる。ただの仲良しクラブではなく、プロフェッショナルとして切磋琢磨できる。そんな企業文化を持った会社が、これからの時代は選ばれていくのではないでしょうか。

ーー 本日は貴重なお話をありがとうございました。資本主義の大きな転換期にあって、私たち一人ひとりが、そして企業も、新しい価値観や行動様式を求められているということが、よく理解できました。

平山賢一氏の著書はこちら


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