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「自由を扱う」をテーマにした練習の実践録(その5:まとめ①)

記事をお読みいただきありがとうございます。
ここでは、これまでにまとめてきた「自由を扱う」という練習のまとめをしていきたいと思います。

この練習テーマを企画した意図

この練習テーマを企画した意図としては、3点あります。
まず1点目は、所属していた大学野球部の当時は選手主体での練習の進行を行うようになりつつある時期だったことにあります。当時の監督は大学職員であり、練習に来れない日もある状況でした。こうした状況下において、選手自身で練習を行い、パフォーマンス向上を目指していくために、練習メニューの設定、計画も選手中心に行うという方向へと変更しつつある過渡期でした。
そのため、その選手中心の活動方針を推進していくための方法として、このような練習を行い、主体的活動の浸透を図ったということが意図の一つです。

2点目は、私自身も選手主体の活動に重きを置いていたことにあります。
近年ではトップダウンボトムアップというように、指導の在り方について2つの対立軸に分けて語られることが多くなっています。この2つの対立軸に置かれている指導の在り方は、どちらが正しいなどといったことはありません。しかし、指導の方針を考える上に当たって、私自身はこれまでの経験を通してボトムアップ型といった選手が主体となって活動を行うことに重きをおきたいと思っています。

競技活動を行う上において最高の成績を目指すには、トレーニング方法やパフォーマンス発揮における思考法、チームスポーツであればチームとしての在り方や団結等、あらゆる点について包括的に考え、計画し、実践に移していく必要があります。またその実践に対して評価をし、改善していくPDCAサイクルを回していく必要もあります

こうしたプロセスは、コーチの手に任せることが合理的かもしれませんが、特に学生・生徒というある程度の失敗が許される環境下で試行錯誤する経験を積んでおくことが非常に重要であると考えています。競技活動の成功のためにはある程度の先を見通し、そして根拠ある判断の元に準備(トレーニングなど)をしていく必要があります。これは学校の教科の中での学びとはまた異なっており、かつ学校の教科で得た知識を生かすこともできます(例えば数学で学んだことを生かし、データを元に統計分析を行なうなど)。

選手が主体となってこれまでコーチが行ってきた役割にも取り組むことで、競技活動を通した経験から得られる学びが最大化され、またそのプロセスはデュアルキャリア(競技活動中から次のキャリアへの準備をする二重路線型の考え方)形成にも役立つのではないでしょうか。
このような意図をもとに、選手主体の競技活動の在り方を望むようになりました。

3点目は前述したボトムアップ型の指導が実践されている現場を実際に目にしたことでした。
ボトムアップ理論」という指導の在り方を提唱されている畑喜美夫先生をご存知の方も多いのではないでしょうか。私が大学4年生の時、指導の勉強として複数のチームに実際にお伺いしてきましたが、そのうちの1チームが畑先生率いる広島県立安芸南高校のサッカー部でした。畑先生が執筆した著書もありますので紹介いたします。

https://books.rakuten.co.jp/rk/eb141d7276c13eb7863e4c9666babf6e/?l-id=search-c-item-text-02

https://books.rakuten.co.jp/rb/15036656/?l-id=search-c-item-text-08

安芸南高校へお伺いした時、生徒の雰囲気は非常にしっかりしている大人のような印象を持ちました。お茶出しをしてくださった女子マネージャーは非常に爽やかな明るい笑顔で、「今日は暑いですね。お疲れ様です。」と一言添えてお茶を入れてくださり、高校生なのに自然な対応ができていることにこれは素晴らしいチームだと思いました。この見学の機会が一層ボトムアップ型の指導を行いたいという考えを強くしました。

指導に対する考え方

私の考えの中では、競技活動と人間教育は両立し得るものだと捉えています。人間教育の定義づけ次第では分けて考えるべきだ、と思われるかもしれませんし、また競技活動と人間形成を混同しないようにする考え方もあるようです。こればかりは、指導に立つ人の考え方と文脈(指導対象のチームのニーズや年代、背景など)によって考え方を変化させる必要があるのかもしれません。

しかし、一つの指導に対する軸となる考え方としては、競技活動を通した最高の成績を得ることと、それを通した学びから人間的成長を遂げることを目指したいと思っています。例えばチームの活動方針やスケジュール管理、トレーニング内容を決定することにおいて、集団スポーツであれば多くの選手の意向を踏まえて決定していく必要がありますが、人には様々な考えや思惑、目的があるため意見対立が生じる場合は大いにあります。こうした対立を通して、互いの意見を認め折り合いをつけていくことから協調性を高めたり、意見をまとめていくことでファシリテートする能力を高めたり、また集団をまとめることの難しさそのものを体験することも大切な学びであると思います。これは、競技活動をより良いものにするために行われる行為ですが、そのプロセスを通すことで競技以外にも生かされる汎用的能力を習得できると考えると、競技活動と人間教育は両立し得るものと思います。
意見対立のなかで、他人に対する言葉遣いや接し方などを観察すれば、コーチが介入するべき教育的機会も生まれることでしょう。そうしたポイントポイントでコーチが手を差し伸べることで、貴重な学びを得ていくことができるはずです。

こうした考え方が私の中の根底には存在しています。指導に対する考え方として、こうした競技活動を充実させるプロセスの中で人間的成長も遂げていくことを目的としているため、上記にある練習テーマを企画した3点の意図を持ったということです。

まとめ

競技活動を最高のものにするための、そのプロセスから人間的成長を遂げる。このことを重んじているからこそ、「自由を扱う」というテーマ設定を企画しました。今後の記事では、どこかで理論的背景なども扱ってみようと思います。

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渡辺 裕也
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