コーチに求められる知識①「専門的知識」
前回の記事では、CoteとGilbertによる2009年の論文から、コーチングにおける「専門的知識」「対他者知識」「対自己知識」の3つの知識をご紹介しました。今回は、その中から「専門的知識」に焦点を当てて掘り下げていきたいと思います。
スポーツ選手の競技力向上を目指す際、コーチとして最も重要なのは、よく「技術」と呼んでいる運動動作を的確に伝えることです。この「技術」には、言葉で表現して伝わるものだけでなく、いわゆる「コツ」や「感覚」といった感覚知も含まれます。これら「技術」と表現しているものは、大きく「宣言的知識」と「手続き的知識」の2つに分類されます。
宣言的知識とは?
まず、「宣言的知識」とは、言葉で説明できる知識のことを指します。これは、客観的に判断できるもので、たとえば野球における投球フォームに関する指導では「膝が下がらないように投げる」といった、具体的に言葉で表現できる知識を指します。言語化しやすく、他者に伝えやすいという特徴があります。
手続き的知識とは?
一方で「手続き的知識」は、言葉で説明するのが難しい感覚的な知識です。これは、選手が自身の中で感じ取るものとも言え、自らが獲得した感覚のため他者に伝えるということが非常に難しいという特徴があります。例えば、元巨人軍監督の長嶋茂雄さんが「スーッと来た球をガーンと打つ」と表現したような、感覚的な部分がこれに該当します。プロレベルの選手は、この手続き的知識が非常に発達しており、それが競技力を支える要因ともなっています。
両者のバランスが重要
しかし、宣言的知識と手続き的知識はどちらか一方だけが優れていれば良いというわけではありません。効果的なコーチングを行うためには、指導者はこの両方の知識をバランスよく持つことが求められます。選手に正確な指導を行うためには、理論的な説明(宣言的知識)と感覚的な指導(手続き的知識)の両方をバランスよく習得していることが重要です。
宣言的知識と手続き的知識の実践的な活用
現在、スポーツに関する書籍やインターネットの記事、SNSの投稿、動画サイトなどでは、主に宣言的知識が紹介されています。実際、このコラムも宣言的知識を提供しています。しかし、コーチとしては単に宣言的知識を集めるだけでなく、「コツ」や「カン」といった感覚知の習得にも努める必要があります。実際に自分自身がプレーしてみる、もしくは様々な選手が言語化している感覚を自分なりに落とし込んでみることを繰り返すのが良いかもしれません。
かねてから守破離と表現されることがありますが、蓄えた宣言的知識を実践しながら自身の中でかみ砕き、感覚知として染みつけていくプロセスを繰り返し続けることで、指導する選手の「感覚(=手続き的知識)」の効果的な習得方法を検討することができるようになるでしょう。
体験を通じたコーチングの進化
コーチとして選手や子どもたちと共に体を動かし、指導の中で新たなヒントを模索し続けることは、効果的なコーチング実践において不可欠です。日々のコーチング実践を通じて、両方の知識をバランスよく活用し、選手が最大限のパフォーマンスを発揮できるようサポートしていきましょう。