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「お客様に育てられる」というホテル業界で働いていて感じた仕事の魅力

ホテリエ(ホテルマン)をしていた頃、仕事のやりがい・魅力ってなんだろうとふと考えたことがある。

おそらく誰しもが、自らの仕事について少なからず考えたことはきっとあるだろう。

世間一般的に言われている仕事のやりがいや魅力は、今ではネットで探せばいくらでも知ることができる。
でもそれは、ある意味その業界の多くの人たちが感じていたことの集約の中から共通項を見出した平均値的なものだったりする。

うんうん。確かに。と思うことだらけだが、個々の現場のコンテクスト(文脈)の中にあるエピソードが元になったやりがいや魅力も、興味があった。

ホテルで働くといえば、イメージではやはり「接客」。
接客でお客様に喜ばれた時に得られるやりがいが一番に思いつくし、それが魅力であることは確か。

しかしホテルの仕事も多岐に渡る。そしてホテルの種類によっても仕事内容は大きく違う。

ホテルは、観光地や景勝地に作られたリゾートホテル、都市の中心部などに作られたフルサービスを行うシティホテル、宿泊特化型と表現されるビジネスホテルといった種類がある。

リゾートホテルやシティホテルは、フロント、ベルスタッフ、ドアスタッフといった宿泊部門、レストランの料飲部門、婚礼などの宴会部門に分かれていて分業化されている。
宿泊サービスの中でも、予約部門とサービス部門が分かれていたり、予約受注は営業部が受け持っていたりとホテルによって様々。

それに対して、ビジネスホテルでは、予約受注や販売販促、営業、経理などもフロントスタッフが行うマルチタスク制だったりする。

私は後者のビジネスホテルを経験している。
フロント業務として接客も行っていたが、ホームページ作成やプランを作成したり料金設定を行う販売販促、請求書作成といった経理業務も担当していた。旅行会社との予約受注や、パンフレットの校正、採用面接に同席もしていた。

責任者もしていたので、フロントにあまり立てず事務所で事務作業を進めていることも多く、結構接客を客観的に眺めている時間があった。

そのため、お客様に喜んでいただいて得られるやりがいよりも、自分自身が感じているやりがいやホテル業の魅力への視点が、少し違っている気がしていた。
だから冒頭の通り、「仕事のやりがい・魅力ってなんだろうとふと考えた」わけである。

入社してすぐにお世話になった支配人は、一流のシティホテルで長年ベルマンをしていた方だった。
その支配人に、「ホテルマンはお客様に育てられる」「お客様の要望を深読みして動くことが大切だ」と教わっていた。

責任者だったため、お客様からお叱りを受けることやクレームの対応をすることがたくさんあった。
こうした直接的にお客様からご指摘を受けたことによる学びもたくさんあった。

さらに、そうしたご指摘を通して、お客様の気持ちを汲み取ったり、なぜお怒りになるのか、なぜお喜びになるのか、何に安心してくださっているのかといったことをひたすら考えされられることが多々あった。

事務仕事に追われてバタバタしている様子。
退勤時間が近づくにつれて疲労して笑顔が減ってくる状態。
デスクにばかり視点がいき、お客様と目が合っている時間が短くなっている現状。

全て、お客様には不快に思わせてしまうことですが、それをお客様からお伝えしてくださることはない。
でも、お客様にとっては大切な日の宿泊だったり、様々な思いを持って来館しているのには変わりがない。
もしかしたら、自分の対応がせっかくのホテルでの思い出を台無しにしているかもしれないと、ホテリエは全て自分で気づかなければならない。

このように、客観的に自分自身を見ることも実は接客のうちであるのである。

そう考えていくと、支配人から教わった「ホテルマンはお客様に育てられる」という言葉は、とてもリアルでホテルの仕事を象徴する言葉だと思った。

お客様から直接教わること。
お客様から見た自分のサービスはどうかといった間接的に教わること。
業務の始まりから終わりまでずっとお客様を中心にホテリエの学びが続いているわけである。

私は、3年間のホテル業界の経験を通して、これがホテル業の仕事の魅力であると感じている。
常にお客様を中心にホテリエの学びが続き、お客様に育てていただいて一流のホテリエになっていく。
サービスを提供する立場でありながら、そのサービスを通して様々な学び、それも接客スキルだけではなく人間的な成長も得ていく。

そして、その自分自身の変化=成長のスパイラルが”やりがい”になっていたりする。

そのような世界で働けたことは、振り返ればかけがえのない財産になっていると感じている。

ホテル業界って奥が深い。


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渡辺 裕也
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