べてるの家のオンラインマガジン「ホップステップだうん!」 Vol.298
・夏休み「それで順調!」 江連麻紀
子育て当事者研究会の仲間内では、「夏休みがくる」と恐れられいた時期の真っ最中です。
特に保育園も学童もお休みのお盆をどう過ごすか研究のテーマになることも多いです。家族旅行や帰省などの世間のムードに疲弊してる人もいます。
べてるの家の理念のひとつ「それで順調!」と声をかけ合って、夏休みの終わりの子育て当事者研究会では労いのわかちあいができたらいいなー。
べてるの理念のひとつ「それで順調」
べてるは、いつも問題だらけ。今日も、明日も、あさっても、もしかしたら、ずっと問題だらけかもしれない。組織の運営や商売につきものの、人間関係のあつれきも日常的に起きてくる。一日生きるだけでも、排泄物のように問題や苦労が発生する。
しかし、非常手段ともいうべき「病気」という逃げ場から抜け出して、「具体的な暮らしの悩み」として問題を現実化したほうがいい。それを仲間どうしで共有しあい、その問題を生きぬくことを選択したほうがじつは生きやすい。べてる が学んできたのはこのことである。
こうして私たちは、「誰もが、自分の悩みや苦労を担う主人公になる」という伝統を育んできた。だから、苦労があればあるほどみんなでこう言う。
「それで順調!」と。
・文/写真:江連麻紀
・べてるまつり2024開催についてのご案内
日時:2024年10月4日(金)・5日(土)
場所:北海道浦河町文化ホール
プログラムの内容:浦河べてるの家、40周年記念企画お楽しみに!
<宿泊場所について>
例年、町内のホテルや宿が満室になることが予想されております。町内が満室の場合は、多くの方は隣町の施設を予約されることが多いです。
各ホテルの空室状況については、直接各施設へお問い合わせくださいませ。(ウェブではなくお電話での空室確認をお勧めします)
浦河への交通手段・宿についてはこちらをご参考ください。
・日本精神障害者リハビリテーション学会 第31回東京お台場大会のご案内
学会名称:日本精神障害者リハビリテーション学会 第31回東京お台場大会
テーマ:多様性と調和 ~台場シティで調(ととの)う~
会期:2024年12月14日(土)~15日(日)
会場:東京有明医療大学(〒135-0063 東京都江東区有明2丁目9番1号)
参加者数:約1,200名
開催目的:本会は精神科リハビリテーション学に関する研究発表、連絡、提携、及び研究の促進を図り、これらの進歩、普及に貢献することを目的とする。
大会長:肥田 裕久(医療法人社団宙麦会ひだクリニック 理事長/院長)
副大会長:角田 秋(東京有明医療大学看護学部看護学科 教授)
佐々 毅(医療法人社団宙麦会ひだクリニックお台場 院長)実行委員長:中田 健士(株式会社МARS 代表取締役)
主催:日本精神障害者リハビリテーション学会
・参加登録受付中!
精リハ学会は、2010年に浦河でも開催した学会です。
今年の東京大会はべてるからもメンバー・スタッフがたくさん参加する予定です。みなさん、東京・有明(お台場)でもお会いしましょう!
●新刊「弱さの情報公開」
2023年10月発売の最新書籍です。
2020年に発売しご好評をいただきました「弱さの研究」の続編。
不寛容な社会での孤立と孤独「つながり」を考える。
一部では、カーリング日本代表の吉田知那美選手とべてるの家の人や
向谷地生良氏との「強さと弱さ」についての対談。
二部では人と人の「つながり」を各章で考察、依存症、認知症の孤独について、本当の「つながる」ことの意味を考える。
<目次>
まえがき―「弱さの情報公開」の源流
一部 弱さの情報公開
一章 弱さの情報公開
二章 弱さを認める
三章 行き当たりバッチリ
二部 つながる
四章 わたしが「ダメ。ゼッタイ。」ではダメだと思う理由
質疑応答
五章 「認知症と繋がる」ということ
六章 あいだは「愛だ」
七章 地域と人と苦労で繋がって(向谷地生良氏最終講義)
●大反響増刷中!
『子ども当事者研究 わたしの心の街にはおこるちゃんがいる』
本体価格:990円+税、出版社:コトノネ生活
・「北のバラバラな日々」 (51) 笹渕乃梨
突然ですが、台風のお盆の少し前わたしはとんでもないことに気がついてしまいました。
じつはわたしは娘を産んで以来「娘のこと、大事だけどなんかうまく愛せないんだよねー」というような感覚をずっと抱えておりました。
おやすみのキスは「したほうがいい」ような気がしていたし、おはようのハグも「えいや!」とがんばってしていたのです。生活の場面において自分を犠牲者のように扱う思考のクセもある。どうしてそうなっちゃうのかわからなかったけど、とにかく娘への愛情表現に関わる行動をしようとするとウッと苦しさに似た何かがわたしを襲うのでした。ウッとガマンするから、おのずとイライラも募りがち。
娘のほうはわたしに対して惜しみない優しさで接してくれるのに、母親であるわたしの方は表現するのも受け取るのもぎこちないのです。このことについては困り感はあったものの、日々に忙殺されて対症療法が関の山。根本的な解決策を探すにいたらず、そこはかとない罪悪感と不全感を携えたまま暮らして10年が経ったのでした。
ところが先々週のある日、娘と夕飯を食べているとき、ふと「あれ。わたし、みどりが大きくなって巣立っていくときに寂しくなりすぎないように何かを制限してるかも?」みたいなことが頭に浮かんだのです。こんなことが頭に浮かんだのは初めてのことでした。ちょっと戸惑ったけど無視しないほうがいいような気がして、このことを手帳に書き留めてその日を閉じました。翌日、さらに「制限していたのはみどりに対しての『かわいい』とか『愛おしい』とかそういう感情と、それを表現する行動かもしれない」ということが浮かんで、はっきりと言語化されたのです。タイプライターにパチパチとタイプする映像まで脳内再生されて、戸惑いを超えてギョッとしてハッとしました。
つまりわたしは、空の巣症候群予防のために、はじめから愛しすぎないように用心していたようなのです。理由はわからないけど、とにかく自分が傷つきすぎないために、子どもへの愛を出し惜しみしていたらしい。母親としてどうかと思います。まじで。
そういうわけで、わたしはこの気づきを活かして実験をしてみることにしました。
「空の巣症候群予防のために娘への愛を出し惜しんでいた」と仮定して、「空の巣症候群を患ってもOK」と自分に許可を出したら、娘への気持ちや接し方、日常生活での感情に変化はあるのか。という実験です。
とりあえず2週間記録をつけてみることにして、きょうで10日目。
途中経過ではありますが、変化したことは以下。
○娘とのスキンシップに義務感を感じないどころかうれしく感じる。
○娘とマリオカートをプレイするのがたのしい。
(今まで一度もやったことなかった)
○一人きりの時間がたくさんとれなくても渇望感がない。
○家事をしていても被害者意識になっていない。
○日光湿疹がでるようになった。
日光湿疹については、立て続いた墓参遠距離ドライブでの疲れと思います。そのほかのことについては、想像以上のうれしいことばかり。
毎日の暮らしがなんとなく機嫌がいい感じ。しっかり呼吸できる感じ。
わたしにこんな日が来るなんて。と、けっこう感動しております。
世の中には自分の想像では追いつかないような心地よさやうれしさがあるんですね。自分でも気づいていない自分でかけた呪い(魔法?)は、まだまだあるのだと思います。裏を返せば、それを解いて自分を幸せにしてあげられるチャンスがまだいくつも待ってるってことじゃない?すごー!
当事者研究の理念「主観・反転 “非” 常識」のことを思い出しながら、世紀の大発見みたいな気持ちで一人で喜んでおりますが、みんなとっくに気づいてるのでしょうか。知らなかったのはわたしだけなんでしょうか。
わたしを苦しめていたのは、やっぱりわたし自身だったんですね。ああ、もっもっと幸せを感じられるわたしになりたいです。とほほ。
笹渕乃梨(ささき・のり) 自己病名は『境界線ぐちゃぐちゃ症候群サトラレ型変化球言葉タイプ(現在は枯れている)』
北海道で小学生の娘と二人暮らしをしている。趣味はゆるめの野遊び、スキー、工作、手芸など。精神科のお医者につけてもらった病名はうつ病とADHD。現在は無脳薬で約3年。
「子ども当事者研究」、「子育て当事者研究」、「なさ親」などで活動中。22年4月より「nasaLAB(なさラボ)」のWebラジオ「つまり、きりがないラジオ」パーソナリティ。
○「nasaLAB(なさラボ)」の登録はこちら↓
・続「技法以前」 234 向谷地生良 「『治す(直す)』よりも『活かす』」
当事者研究の四つ目の理念は、「『治す(直す)』よりも『活かす』」です。当事者研究がはじまるきっかけとなった統合失調症も、そして、「語る力」と、「仲間の力」の大切さを知る大切なヒントになったアルコール依存症などの精神疾患は、いわゆる「怠け者」でも「人間的、人格的な欠陥」を有する人でもなく、「病気」なのであり、だから「治療」をすればいい。そして、一日も早く、精神病が、他の疾患と同じ普通の病気として認められ、身体障害者などと同様に、生活支援の根拠となる福祉法のサービスを受けることができるように、長い間、私たちは運動をしてきました。そして、まだまだ不十分ながら、精神病は、心臓病や癌などと並んで「国民病」として認知され、総合支援法も整備されました。
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