トップトレーナーが明かす秘話の数々〜矢作芳人「馬を語り、馬に学ぶ」を読んだ。
こちらの本を読み終えました。
自分が紹介する本としては、珍しく最新のもの。
感想としては、本の最初の方に出てくるレジェンド級のコントレイルやリスグラシューなどより、中盤のモズアスコット、リアルスティール、グランプリボスなどのパートの方が面白かった。
これは、これらの馬の方が競争成績の浮沈が激しく、そのぶん裏話がより面白く感じられたからという気がする。
モズアスコットの、引退後の種馬としての箔をつけるためのダート戦線への挑戦や、リアルスティールの、年々表面化する気性の問題にどう対応していったかという話など、引き込まれて読んだ。
あとは、この本の読み応えがある部分としては、牧場やセレクトセールに足繁く通い馬を仕入れる仕事がどのようなものなのか、また、矢作厩舎に馬を預ける各馬主との信頼関係を物語るエピソードも興味深かった。
なかなか、現役調教師がここまで裏話を交えて語ってくれる本はないと思う。
中には、関係が決裂してしまった林正道オーナーとの事の顛末についても語られている。このエピソードは特に面白く、林オーナーの馬主としての姿勢(採算を重視する一方で、馬に対して深い愛情を持つ)など、なかなか一競馬ファンからは窺い知れない話だと思う。
また、G1馬や、重賞勝ち馬以外でも、厩舎運営の節目の思い出の馬たちについて一頭一頭語られている部分も良かった。(つまり、最初から最後まで面白かった。)
つい先日ドバイで国際G1を勝ったパンサラッサや、重賞を勝ったステイフーリッシュ、バスラットレオンなども登場する。この本の中ではそれほどページを割かれていないこれらの馬が、本の出版後に軒並み海外レースに勝ったことにも驚かされる。
ただ、この本に対する不満ではなく、「こんな本が読みたいな。」という希望となるが、矢作芳人調教師の仕事については、もっと競馬界全体を俯瞰した物語の中でどれだけすごい成果を挙げているのか語られた方がより広い読者層に響くのでは、という気がする。
(この本は、ある程度競馬について知識を持っている競馬ファン向けに書かれていると感じた。)
ノンフィクション作家の筆による矢作調教師の物語を読んでみたいと思った。