北の丸備忘録:忘れられた歴史を重ねて
たまには散策帳として雑記していくのも良いだろうと思い、穏やかな秋日の北の丸公園について書いていく。
帝都東京のまんなか千代田区の由来ともなった江戸城が現在の皇居であるわけだが、その北側には日本武道館の立地する北の丸公園がある。
足を踏み入れれば、喧騒から一転して森林公園の如く静寂な環境がひろがる。南の空にビル群を見付けると、ここが東京の中枢だとやっと思い出すほどに長閑だ。
現在の皇居および東御苑の境には、代官町通りが通過して、東西方向のバイパスとして自動車が行き交う。ここが江戸城であり、宮城であったころの面影と、丸の内方面に立ち並ぶ重厚長大なオフィス街の対比も面白い。
ほとんどの通行人も気にとめず過ぎ行く一角に、煉瓦の近代建築を見出すことができる。旧東京国立近代美術館工芸館であったこの建物こそ、百年以上まえの明治に建てられ、近衛師団庁舎として帝国時代に使われた大変歴史のあるものだ。
現在では一般に開かれておらず、柵の向こうに往時の風情を思うことしか出来ないが、まさに知られざる文化遺産である。当然、観光スポットとしては認識されていない。
西日がさす通りを抜けて内堀通りにぶつかると、森の向こうに歴史が折り重なることを忘れるほど賑わしい夕暮れ時だった。