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宮本浩次氏エレファントカシマシ感想Ⅳ

 ヒットチャート第1位を記録したカバーアルバム『ロマンス』。昭和の名曲中心の女性の歌を蒐め宮本浩次氏の歌の凄さが炸裂した名盤で超おすすめなのだが、それと同じくらいおすすめなカバーが「スローバラード」だ。

 2015年11月にNHKで放映された「The Covers」でエレファントカシマシがカバー曲に選んだのはRCサクセションの名曲「スローバラード」だった。この曲は聴くものの胸さえしめつけるような「ある終わり」を描いた歌だ。

 舞台は市営グラウンドの駐車場。登場人物は恋人たち。おそらく、車ひとつで家を飛び出して、泊まる金もなければ向かうべき目的地さえもたない2人の物語。かれらじしん終わりが見えていてもおかしくない状況だ。

 しかし、そんな駐車場の夜を男はこう感じる。ここには悪いものはなにもない。全てが満たされていて、本当に幸せであると。そして、ラジオから彼らをつつむように流れる歌が「スローバラード」だったというのだ。

 「スローバラード」は夜が明けてしまえば終わるかもしれないほどあやうい、だがその瞬間に確かに存在していた愛の物語だ。忌野清志郎は明るいピアノとホーンのなかでシャウトする。失われたものへの慟哭をこめて。

 私はRCサクセションの「スローバラード」をずっと名曲だと思ってきていた。しかし、宮本浩次氏の歌をきいてあらためて神がかった名曲だと感じた。氏はまっすぐにこの曲を、どこまでも丁寧にやさしく歌いあげる。

 そのやさしさが物語を書き換えていく。失われたものと思ったものがいまここにはっきり感じ取れること。夜露が街をつつむような自然さでそれがあること。奇跡のように輝かしい時間はいまもあると信じさせる歌唱なのだ。

 エレファントカシマシの「スローバラード」は、そこに忌野清志郎への愛を読みたくなるほどに、大切なものは失われたのではない、いまもそれとつながって私たちがいるという、生きる不思議さをも感じさせる絶唱だ。

追記:この曲の途中宮本浩次氏がふるえる場面も見逃せない。全霊でうたうものがいましかない輝かしい手ごたえを感じて、なおいっそう歌唱に没入しようとするときのふるえだと思う。私はこんな武者ぶるいをはじめて見た。

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