詩集『夢の佐比』(入沢康夫、書肆山田)の感想
私には愛してやまない長編詩が3つある。1つは与謝蕪村の「春風馬堤曲」、もう1つは稲川方人の『2000光年のコノテーション』、そして本作入沢康夫の『夢の佐比』だ。本作との出会いは18歳の市民図書館。とびきり素敵な実験アニメーションを見たような驚きと感動をよく覚えている。
素敵といえば本作の造本もすごく素敵だ。茶色い細長い外観。箱から取り出すとなんとM字型をしている。M字型の前半(天をこちらに向けた場合の右側)は「夢の佐比」、後半(左側)は「異稿群」となっている。スタイルからして攻めているのである。
そして、「夢の佐比」の開始のしかたがゴリゴリだ。ベタなたとえだが、はじめにヘヴィで前衛的なリフで開始し、同じテーマがふたたびうつくしいストリングスで演奏されている印象だ。本作のすごさは実際に読んで確認してほしいが、私のベタなたとえの検証もさせてほしい。以下に引用を。
これが「夢の佐比」、だいぶアングラな迫力です。
これが「異稿群」。こちらは種明かしのような終局のような印象です。
重なりながらずれ、ずれながらほどけ、そして『夢の佐比』の物語は、ホラーやSFをも取り込みながら、世界の秘密を恋人にささやくように閉じていく。入沢康夫といえば「凶区」同人にして日本を代表する現代詩人だが、その言葉の匠が、物語のエッセンスを凝縮させた「譚詩」が本作なのである。