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川端康成『みずうみ』(新潮文庫)の感想

 風俗店の密室で男が回想することは、ハンドバッグの大金をうばったことと女のあとをつけることに対することへの奇妙なまでの執着だった。この男のリアルが明らかにされていくだけでなく、つけられた女の物語、別の執着にとりつかれた男の物語などが不思議な層としており重なる(ただし当初の構想が中断したかのように後半の収束部分でその要素は薄まる)。

 後半に、男の幻想と過去と現在のいりみだれかたが、水面に光が映るような見事な揺れで語られる部分は必読。それにしても、川端康成の女性や恋愛の機微の描きかたはヨーロッパ的センスを感じる。『雪国』とかもよく考えるとフランスを舞台にした物語にしても三味線いがいはしっくりくると思う。最後に、『みずうみ』は不思議とハッピーエンドとして読めます。

 このごろでもときどき、母の村のみずうみに夜の稲妻のひらめく幻を見る。ほとんど湖面のすべてを照らし出して消える稲妻である。その稲妻の消えたあとには岸べに蛍がいる。岸べの蛍も幻のつづきと見られないことはないが、蛍はつけ足りで少し怪しい。稲妻の立つのはだいたい蛍のいる夏が多いから、こういう蛍のつけ足りがあるのかもしれぬ。いかに銀平だって蛍の幻をみずうみで死んだ父の人魂などと思いはしない(p130)

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