すっごい晩餐るでぃねしゅぺーるLeDinerSuper! numero3
2月下旬にちょっと不思議な出来事がありました。オペラ・ガルニエの近くに、その昔、ナポレオンの愛妾が住んでいたという貴族の館があって、今は、そこが会員制のプライベートクラブになっている。そこは、政府の役人が秘密裏に交渉するとか、ちょっとした賭け事をして遊ぶ場所みたいになっていて、留学生や旅行客が入れる場所ではない。そこに、なんだか知らないうちに誘われて潜入してしまった。
そのクラブの入口で、パスポートを食事の間、保証として取られ、中に入ると、ナポレオン時代の内装、家具が普通に置かれていた。 フランスの夕食会なので進行がのろく、全員が揃って、アペリティフを飲み、煙草をのみ、落ち着いた頃食事のテーブルに着席したのが23時。しかしこの食事が、たまらなくおいしかった!お腹の調子が、とっても食べ頃であることを差し引きまくっても十分に美味しい超高級フランス料理っていう奴でした。
ワインは後で調べてみたら怖くなるほど高いもの。2本飲んで、1本はグリュオー・ドゥ・ラ・ローズというボルドーの赤。30年もので、瓶の蓋のところはその古さと表すように埃が付き、ラベルは剥がれかけていた。もう1本はシャトー・ペトリュスという、これもボルドーの赤で、1本30万はするという代物。ワイン通に言わせると、ボルドーの赤がやっぱり美味いらしい。私は白ワインが好きだったけど、これらの素晴らしい赤ワインたちはやっぱりおいしかった。特にペトリュスはおいしくて、口をつけた時は、甘く感じて、口の中でちょっと置くと程よい赤ワインの渋みが感じられ、喉元を過ぎた時には、すっと後味も残さず消えていくっていうワインだった。相当なワイン通も、この何十年も置いたワインたちを飲む事は稀な事らしく、私はなかなかいいワインに出会ったらしい。
そして、メインディッシュは、シャロレイ牛のローストビーフ!この牛は、日本で言う松坂牛みたいなもので、最高級の代名詞みたいな牛肉。それも一番たかい部位をローストしてあった。まんなかは血が滴り落ちているぐらい生で、まわりだけちょっと焼いてある。1,2回噛んだか噛まないかぐらいで、すっととろけていってしまうやわらかさ。そして、3年熟成した生ハムは、生ハムって本当においしいんだなぁと改めて実感するぐらいのものだった。
こんな高そうな食事(ひとりいくらか知らないが…)を貧乏留学生の私が支払えるわけもなく、招待だったのでちゃっかりごちそうになりました。上に書いたワインの名称や牛肉の名前や値段については食事をした後で調べてわかったものだから、私自身、こんなものぺロッと食べてよかったんだろうか…?とちょっと怖くなってくる感じ。このディナーでワインのおいしさにちょっと目覚め、もともとお酒を味わって飲むのが好きなのも手伝って、パリで毎年2回フランス全国から集まるワイナリーの見本市があり、そこでまた、フランスのお酒を楽しむ技を教えてもらった。
その催しでは、シャンパン、赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、コニャックなどを所狭しと100ぐらいのワイナリーが展示と同時に販売もしている。シャンパーニュ地方のシャンパーニュ(言ってみれば本当のシャンパン)を出来るだけ試してみようということにして、さまざまなシャンパーニュを飲み比べると、これが一つ一つぜんぜん違う表情をもっている。シュワ~っと出る泡のきめ細かさ、舌の痺れ具合、香り、味、甘さ辛さ、全体から感じるパンチ力が、同じワイナリーの中でも、名前で、年代で、等級で全く違うのである。
これで、飲み比べが面白くなってきたので、こんどは白ワインの飲み比べをし始めた。同じワイナリーの同じ名前の白ワインなのに、その年の葡萄の出来具合で特徴がはっきりと変る。ワイナリーの人が直接そのスタンドにいるので、その特徴を言ってくれる。この年のワインは味がフルーティーで花の香りが強いと聞いて、私にその違いがわかるかなぁと思いながら飲んでみる。その次に、前のワインの2年後に収穫した葡萄で作った同じ白を飲むと、今度は甘みがつよく、さっき飲んだワインのフルーティーさ、香りとの違いがはっきり認識できたのである。
このようにしてワインを知りだすと、以前はキザかはったりの胡散臭い物言いに思っていた、‘何の何年もの’という言い方が、やっぱりおいしいものを言い表すのにしょうがない言い方なんだなと気づいた。 不思議な夕食会で出会って、赤ワインに俄かに興味を持った私は、赤ワインのワイナリー巡りに挑戦しはじめると、なかなかおいしいと思えるワインにぶつからない。挙句の果ては、ワイナリーの人がいる前で吐きそうになるような馬糞の匂いのする赤ワインまで登場する始末。やっぱり赤ワインは年数が若いと、味に深みを与えるのは難しいんだろうなと思った。それだけ、年数を置いてじっくり味を落ち着かせた赤ワインの評価が高まるわけなんだ、とその値段と忘れられない匂いともに納得できたのである。
貧乏留学生である身ながら、このような機会に出会えて、フランスの食文化の深みにズズイっと潜入出来たことは、とてもいい経験だったと思う。日本には日本酒がワインに匹敵する存在として君臨しているので、日本酒の見本市なども若いひとたちや一般の人たちに開かれた形で行われる機会があれば、是非とも試してみたいものである。 私の行った、パリのワイン見本市には、10代後半からおじいちゃんまで、一般人から業者の人まで、少々千鳥足風になりながら、ワイナリーの人たちからいろいろ情報を聞き出し、楽しんでいました。
※この文章は、2014年3月6日に書いたものです。
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