KPIの設計_Vol.5 KPIの優先順位をつける
「KPIで予算達成度とその再現性を高めよう」シリーズとして、前回は、KPIツリーを細分化していく方法「KPIの設計_Vol.4 KPIツリーを細分化するコツ」について書きました。
KPIツリーを細分化すればするほど、KPIの数が多くなってきます。
今回は、そうしたときのKPIの優先順位のつけ方について書いてみたいと思います。
そもそもKPIは絞るべき?
KPIツリーをつくった後の運用パターンとしては次の2つがあります。
パターン①:KPIツリーをそのまま運用する
パターン②:KPIツリーの中から重要なものだけをピックアップして運用する
メリットとデメリットは次の通りです。
オススメはパターン①の「KPIツリーをそのまま運用する」、つまり、「KPIをいきなり絞らない」です。
まずはKPIツリーでできるだけ洗い出して、パターン①で運用していく中で絞っていくという2ステップがオススメです。
健康診断で考えるとイメージしやすい
健康診断を例に考えてみます。
健康診断では、必ず血液検査をされます。
血液検査を受けるとき、結果が10個の項目(血小板、赤血球、白血球など)で診断されているのと、100個の項目で診断されているのと、どちらが安心できますか?
100個の項目で診断されている方が、より細かく分析され、健康診断の効果も高まりそうです。
しかし医師は、100個の項目の検査結果が出てきたとしても一つ一つの項目の数値について詳しく見ることはありません。
詳しく見るのは「よくない数値」と診断された項目だけです。
つまり、健康を維持するためにはモニタリングする項目はたくさんある方がよく、しかし、その「すべての項目」に注目するのではなく、「異常値を示す項目」に注目することが、より効果的かつ効率的に改善していくことにつながるのです。
KPIツリーでたくさんのKPIの項目を抽出した結果、たとえば100個出てきたとします。
「そんなにたくさんのKPIを運用できない」という声が聞こえてきそうですが、先ほどの血液検査の項目と同様に、このすべてが重要なわけではありません。
これらの項目について継続的に数値をモニタリングしていきますが、その中でも重要なKPIや異常値になっているKPIにフォーカスして、議論し、改善施策を考えて行動していくのです。
ただし、たくさんのKPIを継続的にモニタリングする際に表計算ソフトを利用すると、フォーカスすべきKPIを見つけるのに手間がかかり抜け漏れも発生しやすいので、手前味噌ですが、KPI管理に最適化されたScale Cloudを活用することがオススメです。
KPIの優先度をつける
運用する KPI が少なすぎるとKPI管理の効果が上がりにくいですが、逆に、たくさんの KPI を運用するのは大変です。
運用する KPIの数が増えれば増えるほど、その数だけ KPI のデータを取らないといけないのでデータ集約に時間と手間がかかります。
もともと社内に存在するデータならそれらを集めるだけでいいのですが、そうでない場合は、そのデータ取得のために業務フローを見直さなければならず、運用コストが重くなります。
そうなると、KPI管理が形骸化したり、運用されなくなるおそれがあります。
これらについてはシステム化することでおおよそ解消できるでしょう。
一方で、同時にたくさんの KPI を追いかけることは難しいからといって、追いかける KPI を絞り込んだとしても、優先度の低いKPI を追いかければ効果が上がりません。
KPI は Key Performance Indicator、つまり「重要な業績評価指標」を意味します。
KPI ツリーで登場する KPI が仮に 100 個あったとして、そのすべてが「等しく重要」な指標ではないでしょう。
または、すべて「等しく重要」な指標だったとしても、数が多ければ優先度をつける必要があります。
いずれにしても、100 個の KPIを運用しながら、運用する中で、その中から KGI への影響が特に大きいKPI を見つけ出し、重点的に取り組むことが大切です。
そこで、KPIの優先度をつけるといいでしょう。
KPIの種類を整理してみる
優先度をつける時に気をつけたいことの1つとして、「コントロール可能か」ということが挙げられます。
たとえば、契約単価について、1つの商材で定価での販売しかしないという会社の方針があれば、営業担当者にとっては「コントロール不可能」ということになります。
また、成約率については、自分自身の努力としてコントロールできるところはあるものの、相手が自分の思うように動いてくれるかどうかは相手次第なのでコントロールできないところも大きいです。
一方で、テレアポの数であれば、おおよそ自分自身でコントロールできるでしょう。
このように「コントロールできるKPI(変数)」と「コントロールできないKPI(定数)」のどちらであるかを見極めながら、コントロールできるものの優先度を高めるようにします。
優先度をつける前に、4種類のKPIについて整理します。
KPIを4種類に区分して、それらの特徴を整理した上で、KPI の優先度について考えてみます。
まず、KPIは、結果指標と先行指標、または、量指標と質指標に分けることができます。
「結果指標」と「先行指標」
売上という KGI の達成に向けて、次のようなプロセスがあるとします。
売上
L 販売単価
L 成約数
L 成約率
L 商談数
L テレアポによる商談数
L アポ獲得率
L テレアポ数
L Webからの商談数
時の流れは、下階層から上階層へと流れていくので、成約数は結果指標で、商談数はその前段階の先行指標です。
商談数という先行指標が悪くなれば、そのうち成約数という結果指標も悪くなる可能性が高いといえます。
この先行指標の状況を早めに把握することで、結果が出る前に先手先手でコントロールしていくことができます。
さらに、次のように、商談数よりもさらに先行する指標であるテレアポ数を早めに把握することができれば、より先手先手で結果をコントロールできる可能性が高まります。
このように KPI には、結果指標としてのKPI と、先行指標としてのKPI があり、結果指標の KPI ばかりに注目するのではなく、先行指標のKPI を重点的にコントロールしていくことが大切です。
「量指標」と「質指標」
「商談数を増やそう」としたときに、AとBの 2 つの選択肢があったとします。
テレアポ数のように行動や結果の「量」をあらわす KPI を量指標、アポ獲得率のように行動や結果の「質」をあらわす KPI を質指標と区別できます。
「量」は「○○数」というKPIで行動や結果の「量」を表し、「質」は「○○率」「○○単価」というKPIで行動や結果の「質」を表します。
売上 #
L 販売単価
L 成約数 #
L 成約率
L 商談数 #
L テレアポによる商談数 #
L アポ獲得率
L テレアポ数 #
L Webからの商談数 #
このKPIツリーで言えば、#が量のKPIで、それ以外が質のKPIです。
一般的には、量のKPI が増えるに従ってコストが連動して増えていきます。
たとえば、テレアポの数を増やすほど、その分、テレアポをする人の工数が増えていくので人件費などのコストが増えます。
リスティング広告を出している Web サイトのクリック数が増えれば、広告単価を乗じた分だけ広告費が増えていきます。
商談数が増えるに従って、営業をする人の工数やそれに伴う営業経費が増えていきます。
一方、質の KPI の方は、アポ獲得率を高めるために、たとえばトークスクリプトをつくり直す工数はかかるかもしれませんが、量の KPIのように連動して工数が増えることは少なく、一般的には質の KPI を改善する方がコストパフォーマンスが高いことが多いです。
KPIの優先度を決めるときのポイント
このような KPI の種類と特徴に注意しながらKPI の優先度をつける8つのポイントについて以下に整理します。
先行指標のKPIと質のKPIの使い分け
一般的には、結果指標のKPIや量のKPIが注目されがちで、そうした KPIを重点的にマネジメントしているケースが多いです。
しかし、それだけでは本来の KPI マネジメントの効果が十分に発揮できません。
先行指標のKPIで状況を早く把握して、先手先手で未来の成果をコントロールしていく。
そして、コントロールするときは、まずは量のKPIで活動量をコントロールしつつも、質のKPIで質をコントロールしていくことで、KPI管理の本領発揮につながります。
先ほどのKPIツリーでは、成約数が最も注目されがちですが、KPI管理をする上では先行指標である(たとえば)テレアポ数が大切になります。
しかし、テレアポ数が増えれば増えるほど、それをこなす人が必要になってくるのでコストが増えていきますし、現状のリソース(時間など)ではテレアポ数にも限界があるはずです。
そうなるとアポ獲得率がとても大切になります。
リソースの状況
リソースに十分余裕があるのであれば量のKPI を増やすことを優先し、余裕がなくなれば質の KPI の優先度を上げるというように、経営資源の状況に応じて優先度を変えます。
たとえば、商談数を増やしていくために、担当者の工数に余裕がまだあるのであればまずはテレアポ数を増やすことを優先し、その余裕がなくなってくればアポ獲得率を改善していくという具合です。
インパクトの大きさ
KGI の目標値の達成に対して効果が大きいかどうかも1つの判断基準です。
同じような大きさのインパクトであったとしても、量のKPIは増えれば増えるほどその分コストがかかるので、コストパフォーマンスという点も踏まえると質の KPI の方がインパクトが大きいことが多いです。
ギャップの大きさ
現状の実績値と計画値の差(ギャップ)が大きいかどうかもポイントです。
ギャップが大きい KPI の方が改善の余地が大きい可能性があります。
変動幅の大きさ
KPI ごとの過去の実績推移を見たときに、変動幅が大きいものほど、コントロールできたときの振れ幅(効果)も大きい可能性があります。
コントロール可能性
たとえば、「料金の単価は変えないし値引きもしない」という企業としての方針があれば、料金の単価は組織として追いかける KPI になりえないので、優先順位付けから外れます。
数値の入手可能性
KPI の数値を入手しやすいかどうかも重要です。
入手しやすい KPI の方が状況に応じて迅速に対応できるので優先度は高くなります。
たとえば、販売単価とテレアポ数を比べてみましょう。
販売単価は実際に販売できないと出てこない数値ですし、仮に成約が月末に集中するのであれば、数値の入手は遅くなります。
一方のテレアポ数は毎日数値がわかるので入手もしやすく、かつ、すぐにわかるので、日々の活動をチェックするにあたっては優先度を高くすることは「あり」でしょう。
競合優位性
難易度は高いですが、競合他社はどの KPI が強いのかがわかるといいでしょう。
競合他社に対して優位性を築くべき KPI がどれなのかも重要です。
KPI を継続的に運用していると、「1%でも改善すれば KGI が大きく改善する KPI」もあれば、「10%も改善したのに KGI があまり改善しない KPI」もあることがわかってきます。
そうすれば、KGI の目標達成に向けて重要な KPI も判断しやすくなるので、最初から完璧な優先度を探り当てようと肩肘を張り過ぎず、KPI を運用しながらアップデートしていきましょう。
このようにKPIの優先度は一度決めたら終わりではなく、PDCAを繰り返しながら重要度の高いKPIや施策を絞り込んでいったり、変更していくことが必要です。
次回に向けて
さて、これまで5回に渡って「KPIの設計」について書いてきました。
次回からは、「どのように運用していけばいいのか?」という「KPIの運用」について書いていきたいと思います。
「KPIの運用_Vol.1 KPIでPlanをたてる」をぜひご覧ください。
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