無抵抗主義は犯罪に対して有効か?(海外で通用しない日本の常識)
はじめに
海外赴任の話が回ってきたらどう思いますか。ワクワクするでしょうか。それとも断る理由を探すでしょうか。行きたい気持ちがあっても、漠然と海外は怖いと二の足を踏む人も多いでしょう。そんな海外の治安状況がどんなものか、そして、自分の身を守るために必要なことについて、述べてみたいと思います。
筆者の海外経験
1991年にアフリカのザンビアという国に青年海外協力隊員として赴任して以来2019年まで、アフリカやアジアの国際協力の現場で働いていました。その中には、治安の悪い国もありましたが、幸いなことに犯罪に巻き込まれることもなく、無事に過ごしてきました。それは、個人的に複数の武道を学び、防犯に対する関心が比較的高いことも関係していると思います。一方、同業者達が犯罪に対して無頓着であったり、逆に、必要以上に恐れている様子を見て、違和感を覚えました。それは、日本人特有の暴力に対する態度に起因するものと思います。これについて、少し説明します。
無抵抗主義の流布
日本では他国に比べると正当防衛の要件がとても高いです。世界的には、自宅に侵入した者を銃殺しても罪に問われないような国はたくさんあります。一方、日本では木刀で殴って怪我をさせると過剰防衛に問われる危険性があると聞きます。こんな国柄もあって、国際協力の現場でも、長年「無抵抗主義」が推奨されてきました。その理由は、侵入者の目的は金品であるから犯人の要求に従えば、身体に害を加えられることはないというものです。でも、これには問題があり、最近では、「無抵抗主義」という言葉の使用は控え気味になりました。
テロには通用しない無抵抗主義
無抵抗主義の一番の問題は、犯人の目的がテロ活動の場合、全く効力がないことです。1991年に私が国際協力の業界に初めて入った頃と比べると、どこの国も空港ばかりではなく、ホテルやショッピンセンターなどでも入場時に荷物チェックがされるほど、テロが一般的になってしまいました。こうした場所でいきなり銃を持った集団が入って来たとき、無抵抗主義で犯人の指示に従ったらどうでしょうか。良くて人質、悪ければ、すぐに殺害されます。
起こってしまった悲劇
2016年7月1日、バングラデシュの首都ダッカでレストランがイスラム過激派の襲撃を受けて、日本人7人を含む20人が死亡しました。いくつかのメディアによると、被害者の一人は「我々は日本人だから殺さないで」と叫んでいましたが、すぐに殺害されました(週刊新潮 2016年7月14日号より)。私にとっては、自分にも、こうした不幸が降りかかりかねないので、取り上げるには重い事件です。でも、テロには無抵抗が通用しない事例として分かり易いので、あえて取り上げさせていただきました。そして、この事件後、国際協力の現場でも「無抵抗主義」という言葉が控え気味となり、アメリカ式の「Run, Hide, Fight」が安全管理研修でも教えられるようになりました。
様変わりした安全管理研修
上記を書いていて思い出したのですが、私が3年間ケニアに派遣されたのは2016年10月からでした。その前、8月に安全管理の研修を受けたときは事件から1ヶ月が経過したのみでした。その影響か、研修では座学だけではなく、身を低くして物陰に隠れながら走って逃げる実技も習いました。それまで、派遣前に聞かされることは「無抵抗」ばかりだったので、だいぶ現実に即した形式になったと、ホットしました。でも、参加者の中には、こうした実技をやらされることに不満を漏らす人もいました。その方は、何度も現場に出られたベテランだったのですが、そうした人にとっても、テロ対策は何か映画やドラマと思えてしまうのでしょう。
一般犯罪と無抵抗主義
では、テロではなく、金品が狙いの一般犯罪を想定した場合には、無抵抗主義は有効でしょうか。回答としては、ある程度は有効だけれど、最善策ではないと言わざるを得ません。なぜならば、いざというときに無抵抗であれば良いといった心構えは、普段から犯罪に対して備えなくて良いという態度につながりかねないからです。そうした警戒心のない状態で、犯罪発生率が日本より高い街中を歩いていたらどうでしょうか。おそらく、ターゲットを探している犯罪者から見れば、格好の獲物でしょう。また、襲い易い家を探している押し込み強盗にとっても、格好のターゲットです。つまり、無抵抗主義は、犯罪者を呼び寄せてしまうのです。
抑止力による防犯
1991年のザンビアの田舎で青年海外協力隊をしていたのが、初めての国際協力の経験でしたが、そこで、私は3代目の協力隊員でした。私は、彼らが使った家屋をそのまま引き継ぎましたが、前任の方々は数回にわたって、空き巣や強盗に入られました。一方、私の任期中は、一度もありませんでした。その理由は簡単で、上記と逆に、私は恐れられていたからです。家の外にある木にサンドバックを吊るし、毎日、叩いていましたし、日本から持ってきた模擬刀を庭で、毎日、振っていました。友人に聞いたところによると、「あの家に泥棒が入ると真っ二つにされる」と噂されていたことが分かりました。これが抑止力になったのです。
まとめ
今回は、無抵抗主義という考え方が、海外での防犯には、あまり役立たないことに焦点を当てました。そのため、具体的に防犯がどうあるべきかについては、自分の体験から、一例を簡単に触れるのみになってしまいました。もっと役に立ちそうな経験は色々あるので、考えがまとまったら、次の機会に書きたいと思います。
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