記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

「ヴェノム:ザ・ラストダンス」レビュー(ネタバレありです)

 映画館に行くと、思わぬ掘り出し物がある。世間で話題になっているかどうかは関係なく、ふらっと入った劇場で観た映画が自分の人生で触れた作品の中でも大きな存在となる、なんてことが起こるのが映画館という場所だ。特にサブスク全盛期、映画はテレビやスマホで観る時代、さらに映画館に行くとしても、初めから観たいものを予約して行くことが当たり前の現代社会においては、少し珍しい体験かもしれない。

 「ヴェノム」を観たのはほぼ偶然だった。他の映画を観に行ったときに予告は観ていたので存在は知っていたが、観に行こうとまでは思っていなかった。MCUではないようだし、「スパイダーマン3」でこんなのいたなくらいの認識のキャラクターであることもあって、まあ行く機会があったら観ようくらいの感覚だった。その機会がたまたまあったので観に行ったというわけだ。
 正直、劇場で他の作品を確認しても気になるものが個人的になかったので、消去法だった。ところがこの「ヴェノム」、やたら面白い。トム・ハーディの名演による寄生生物ヴェノムと主人公の記者エディ・ブロックの掛け合い、負け犬同士の大義への反逆、他では観られないような変幻自在のアクションなど、見所盛りだくさんなヴィラン映画だった。今のアメコミ映画にしてはやたらとツッコミどころが多く、いつの作品だろうと思ってしまったが、そのユルささえも魅力に思えてくる。これにはまった僕は、「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」も「モービウス」も楽しく観た(「マダム・ウェブ」だけ観ていない。タイミングを逃し、そのままになってしまった)。そして今回の「ヴェノム:ザ・ラストダンス」である。


 結論から言うとこの作品、ヴェノムシリーズの良いところと悪いところ両方が詰まっており、「らしさ」を全力で浴びるものとなっている。勿体ないキャラの使い方、今どき逆に珍しい穴だらけの怪しい組織、なんじゃそりゃと言いたくなるおバカ展開にツッコミつつ、ヴェノムとエディの漫才に笑って、アクションに熱くなり、最後はほろりと泣ける、ユルくて楽しいポップコーンムービーだ。

 正直、悪い点に関しては指摘していくときりがない。チェンさんとダンスして敵に見つかるのはもうギャグとして受け入れるしかないが、陰謀論家族がフェンスの隙間からエリア51に入っていくのは1作目以上にいつの映画だよと心の中でひっくり返った。またこの家族、いいキャラクターたちなのだが、掘り下げがなさ過ぎて好きになれるほどではない(チョコレートのくだりは良かった)。親父がバズーカをぶちかます場面も、本来なら熱くなるシーンなのだろうが、「お、おう」としか思えなかった。
 そして最後にシンビオートを自ら寄生させ変身するあの博士だが、彼女に関しても掘り下げ不足、もしくは蛇足だろう。兄とのエピソードや最後に変身して仲間を救うシーンなどでやりたいことは分かるが、結局ヴェノムたちの物語には関係なく、事務的に描かれるため浮いている。これなら登場させないか、下手に過去のエピソードをやらずに次の登場作品に持ち越すくらいでよかったのではないだろうか。
 他にもシンビオートは寄生先との相性が大切という設定はどこにいったのだとか、マリガン刑事の扱いひどくないかとか、結局暗い部屋で指示してたあいつは何なんだとか、予想はしてたけど結局ヌルは閉じ込められたままかい!とか色々ある。だが、そういったところも結局「らしいな」と許せてしまう空気感を生み出してしまったのが、このシリーズなのかもしれない。

 良いところとしては、やはり主人公二人の掛け合いだろう。ネット上では「イチャイチャ」とすら言われる夫婦漫才のようなやり取りは微笑ましく、今作ではいよいよ駄目オジ感が強くなるエディと、どんどん陽気になるヴェノムの会話はもはやベテランの域に達している。本作は状況的にはシリーズで一番シリアスであるにも関わらず、明るさを失わずにボケたり歌ったり踊ったりするヴェノムと、何だかんだそれに付き合うエディの姿に肩の力を抜いて気楽に楽しむことができるのである。
 アクションも進化しており、先述したように相性は大丈夫なのかという問題はありつつも、様々な動物に寄生して移動するヴェノムや、ラストのシンビオート軍の覚醒とそれぞれのスタイルを生かしたバトルは見応え抜群だ。
 そしてラストのヴェノムが自らを犠牲にしてエディを救う場面では、観ていて思わずうるっときてしまった。エディと同じく、「俺もお前を忘れないよ」と一観客として思えたのは、良い映画体験だったと思う。その後、エディがヴェノムの望み通り自由の女神の前に立って微笑むシーンも、完結編としてベタながら素晴らしいシーンだと言わなければならない。

 エディは、ヴェノムと共に世界を救ったことで(おそらく監視はされているだろうが)追跡から自由の身になる。しかし、彼らの戦いはスーパーヒーローの世界を救うための戦いとは違い、あくまでも彼ら自身のための戦いだ。それこそ『寄生獣』の新一とミギーのようなものと言っていいだろう。ヴェノムは単にエディとその周辺の人間を気に入っただけであり、また1作目で彼のやったことはシンビオート側から見れば裏切り以外の何ものでもない。エディも正義感はあるが決してヒーロー的な人物ではなく、ヴェノムを抑えるためとは言え、「悪人は食べていい」というスタンスはスパイダーマンとは真逆だ。彼らはあくまでも自分達が生きるために戦い、結果的に世界を救ってきたに過ぎない。「モービウス」のラストにも言えることだが、単に主人公たちよりも悪そうなやつが登場するためにダークヒーローっぽく見えるだけで、彼らのモラルから外れたあり方はヴィランなのだ。そしてそのヴィラン的スタンスと二人の絆こそ、このシリーズ一番の魅力だったように思う。


 SSU自体は今後も続いてくようであるし、ヴェノムも復活させることは不可能ではないだろう(本作やノーウェイ・ホームのラストシーンのこともあるし、ぶっちゃけ何もなくてもどうとでも後付けできそうだ)。だが、ヴェノムとエディの物語がここで完全に終了となっても、僕個人としては構わない。2018年のあの日、「ヴェノム」を観て良かったと感じさせてくれたことに感謝したい。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集