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野良猫のあの子みたいに⑤
こんにちは。id_butterです。
↓よろしければこちらもご覧ください。
初回:野良猫のあの子みたいに①
第二回:野良猫のあの子みたいに②
第三回:野良猫のあの子みたいに③
第四回:野良猫のあの子みたいに④
引っ越し先を探すのは、大変だった。
通勤時間を考えると、そんなに遠くにはいけない。
そして、猫は5匹いるので、敷金を覚悟しなくてはいけない。
結局、たどり着いたのは古い一軒家だった。
1階はキッチンとトイレ、お風呂がありフローリングだった。
2階は和室だったので、そちらを人間用にして1階を猫スペースにすることにした。
けっこう広かったので、5匹いても余裕だったし周りも一軒家だったので、あまり気を使わずに済みそうだった。
5匹を移動するのもまたそれなりに大変だった。
ケージに子猫たちとチビを詰め込んでタクシーで運び、もう一往復でギーを運ぼうと思っていた。
けれど、その前日1匹子猫がいなくなった。
ぶーちゃんという猫だった。
その子は生まれたときとてつもなくブサイクでトロくて目立っていた。
いつもいつもおっぱいにたどり着けないので、何度も他の子と入れ替えた。
他の子はシュッとした顔立ちなのに、なぜかその子だけピンクの鼻がつぶれていて「ぶーちゃん」と呼んでいた。
だけど、1ヶ月経つと、ぶーちゃんはとびきりかわいくなっていた。
毛がふわふわして、目がウルウルして、つぶれたピンクの鼻がなぜか愛らしいチャームポイントになった。
ぼんやりしているところが天然キャラの女の子にもにて、ひたすら癒し系だった。
里親探しをする中、その子が欲しいという声がチラホラ入ってきていて、引っ越したらと約束をしていた。
けれど、前日ちょっと目を離したスキに、チビと一緒に外に出てしまったらしい。帰ってこない。
探し回ったけど、もう家を明け渡すタイムリミットだった。
しょうがなく2匹の子猫とチビを詰め込んで、新しい家へ向かった。
心配していたけれど、チビはそんなに気にしていなかった。
子猫たちのスペースをきちんと整えてあげたら、すぐにそばに落ち着いた。
もしかしたら、ぶーちゃんはどこかの家にもらわれたのかもしれないな、とそのとき思った。
チビを可愛がってくれる家は他にもあったはずだから、あり得る話だった。
もう一度ギーを連れて行かなくてはいけなかったから元のうちに戻ったけど、やっぱりぶーちゃんは見当たらなかった。
あきらめることにした。
悲しい気持ちはあったけれど、絶対だいじょうぶだとなぜか思った。
ぶーちゃんは愛されるために生まれてきたみたいな子だったから、うちの子じゃなくてもやっていける。
それから新しいうちにうつった。
チビと子猫たちの心配ばかりしていたけれど、一番慣れないのはギーだった。
毎晩毎晩「ワオォォン」と悲しい感じでないていた。
まだ外に慣れていないので、窓から外を見せてあげるのだが、その度に悲しそうな声で嘆いていた。「ファオン」
この子は連れてきちゃいけなかったのかもしれない。
野良猫だから、縄張りみたいのがあって、もしかしたら彼女でもいたのかな?
とはいえ、小さいころから餌をやっていて、一人前の野良としてやっていけるほどの実力があるとも思えないのだった。
1週間くらい経って、チビが外に行きたいそぶりを見せたので、出したらすぐに戻ってきて、チビは外出の時間が少しずつ増えていった。
けれど、ギーはちょっと不安だったので、出さなかった。
そうしたら10日後くらいだっただろうか、ギーは玄関のドアが開いたスキにすごい勢いで飛び出していって、いなくなってしまった。
古い一軒家だらけの路地が多い街で、区画整理なんかされておらずゴチャゴチャしていた。歩いていっても行き止まりだったり、急に道が細くなって自転車が通れなくなる、そんな感じ。
スナックとか古い中華屋さんとか、チェーン店とかコンビニはなくて個人がやっているようなスーパーとか肉屋とかがしまってるか開いてるのかすらわからない感じで並んでいる。その間に入り組んでいる路地を一本一本探し回ったけれど、ギーは見当たらなかった。
他の猫には、会った。
でも、待っていれば帰ってくる、そう思っていた。
けど、ギーは帰ってこないままだった。
心配で心配で、仕事の後はぐるぐる回り道をしながら帰った。
ギーの消息がわかったのは、それから一年くらい経った後だった。
やっぱり仕事の後、路地を歩いていた。
古い中華屋の前に、夜だけテーブルが並ぶ。
立ち飲みしながら、餃子をつつく仕事終わりのおじさんたち。
その周りにご相伴にあずかる野良猫たちがたむろしている。
その中に、ギーがいた。
「ギー?」
びっくりして、思わず叫んだ。
すると、ギーらしき猫がびっくりしてピョン、と30cmくらい真上に飛んだ。
そのジャンプが、ギーだった。
子猫たちに驚いたときとまったく同じだった。
「生きてたんだ、よかった。」
だけど、ギーは完全に野良猫になってしまっていた。
「ギーギー」「ウアー」
警戒と甘えが入り混じる、複雑な鳴き声。
迷っているようだったけど、1m以内に近づかせてはくれなくなっていた。
ギーも近づきたそうだった。
だから、余計に悲しくなった。
それから、通勤の時はギーの好きだったカリカリのエサを一袋ポッケに入れて歩くようになった。
その後4回くらい、ギーに会えた。
「帰ろう」と声をかけた。
一回だけ触らせてくれた。
ゲージを持っていって、1時間くらいそこに座ってみた。
どうしてもゲージに入ってくれないから、こっちにきてといったけど、ついてきてくれなかった。縄張りのせいだったのかもしれない。
あのときのことを思い出すと、今でも悲しくなる。
野良猫たちをうちの子なのかもしれない、そう思って覚悟して、5匹と一緒に暮らそうと思って引っ越したら3匹になっていた。
何か、間違っただろうか。
でも、今でも猫は飼いたくないし、買いたくない。
野良猫が、どうしても好きだ。
人間のそばにありながら、猫として生き続ける野生的なその様を愛している。
憧れに近い。
とはいえ、まだ猫はいるのです。
ということで続きはまた今度。
こんな風になりたい
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