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あのひとの

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noteでみつけた、すてきな写真や絵、そして文章をあつめています。
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2015年7月の記事一覧

かつてきみと渡った橋は

だれもが立ち去ることができる街角までともに歩いた。川の底にある小石のことばで語りかけることができればきみをひきとめることができると信じたかった。きっと見送ることができないという理由でひきとめたかった。

かつてきみと渡った橋はほんの一瞬のキスにすぎなかったが、背後には暗がりがひろがっていて、私たちの後ろ姿はその暗がりに刻印されていて、でもふり返るだけでは見ることができない、それは夜の中の夜なのだと

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彼女の残像

彼女の残像

プールで人魚が跳ねるのを見た。陳腐な比喩として言っているわけではないし、薬物による幻覚を見ているのでもない。バイト帰りの深夜。金網の向こう、弱い光に照らされて空中で一瞬静止したその姿は紛れもなく、
人魚だ。
シリアルキラーが獄中で描いたイラストみたいにグロテスクで美しい。
人魚は再び水中に消えた。ところで僕が最初に人魚を見たのは9歳の夏のことだ。田舎の祖母の家に遊びに行った日、裏山の泉で人魚を見た

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