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【エッセイ】過去のレシピ#休日のすごし方
趣味:お菓子作り
「趣味はお菓子作りです」
私の経験上、そう話すと、男女ともに受けがいい。だが、彼らがイメージしているお菓子作りとは何だろう。おそらく、月に1,2回休日に愛らしいエプロンをしてクッキーでも焼いている姿なのかもしれない。そしてお茶の時間に優雅なひとときを楽しむのだ。
だが、月に1,2回作ることを趣味と言って良いのだろうか。月に1,2冊本を読むだけで、趣味は読書だと言ったら、ガチな読書家にキレられる気がする。社会人であれば、月3,4冊程度から、まあ認められるかもしれない(ガチな読書家には鼻で笑われるだろうが)。
話を戻そう。私の趣味はお菓子作りだ。なお、家族には受けが悪い趣味である。理由は頻度と内容だ。時期にもよるが、多い時は月10~15回くらい、ほぼ同じものを作り続ける。
そのうえ、作る8割は失敗している。だから失敗の理由を考え改善し、もう一度作る。出来上がったものは形にはなるがまだイマイチだ。だからさらに改善して、もう一度作る。多少美味しくなったが物足りない。さらに改善して、もう一度作る。何故かは分からないが別の問題が発生して失敗する。再度改善して、もう一度作る……といった具合だ。
また作るものによっては、卵黄と卵白を分けて使う。バターや小麦粉等は日持ちするが、卵は一度割ってしまうとそう持たない。卵黄だけを使うお菓子を作り続けている時には、卵白だけを使うお菓子もまた作り続けることになるのだ。
そのPDCAサイクルを回そうと思うと、休日だけでは時間が足りない。一応社会人なので日中は仕事をしているが、家に帰り適当に夕食を取るとそこからキッチンに立ち続ける。また休日は長時間取れるため、他の用事が無い限り、朝から夜までキッチンにいる。
一応、追記しておこう。そうはいっても多くて月10~15回くらいだ。残り20日くらいはPDCAのPlanとCheckに充てられている。もちろん文章を書くことにも。
恋とはどんなものかしら
ここ数年は、バレンタインデーに周囲に配ることを目標にしている。それまでの期間でテーマを決め、再考を重ね、ラッピングをして手渡す。本格的に着手するのはだいたい半年前の8月。今はちょうどその期間であり、まさに先の記述のような日々を送っている。
現在卵黄だけを使うレシピを作るため、卵白が余りがちになっている。先日、その卵白でマカロンを作ろうとして、その過程で生まれたイタリアンメレンゲに心奪われた。まさに恋に落ちるという感覚だった。あまりの美しさに見惚れ、彼女のためなら永遠にホイッパーを回し続けても構わないと思うほどだった。
あまりお菓子作りをしない人にはピンとこないかもしれないので、簡単に解説しておく。
メレンゲとは卵白をクリーム状に泡立てたものだ。卵黄と一緒に泡立てたときはふんわりとしたマヨネーズみたいな感じになるが、卵白だけを泡立てると大量に空気を取り込み雲っぽくなる。
メレンゲの作り方はいくつかあり、一般的には冷えた卵白を泡立てながら砂糖を加えていく。逆に、温めた卵白を泡立てる方法もある。そして、私の恋したイタリアンメレンゲは、泡立てた卵白に110℃くらいまで砂糖と水を熱したシロップを加え、泡立て続ける方法だ。最初は温かかったメレンゲが次第に冷えてきて、艶が出てもったりとした生クリームのような見た目へ変化していく。
ずっと前にもイタリアンメレンゲを作ったことはあった。だが、ここまで撹拌し続けなかったのだろう。白磁器のような滑らかさに、時間を忘れてうっとりと眺めた。
レモンタルト
イタリアンメレンゲと言えば、レモンタルトだ。
そう思った私は、最近使っていなかった型を取り出し、タルト生地の配合をネットで検索しながら考える。そして丁寧に型に敷き詰めオーブンで焼き、失敗したことに気付いた。
重石を置いたにも関わらず膨らみ、型にくっつきすぎて外すときに割れてしまうくらい脆い。生地単品を伸ばしてクッキーやサブレとして食べれば悪くないが、そこからさらに加工するタルトとしては扱いにくい。
不格好なタルトを眺め、固いかもしれないが確実なレシピでリトライすることにした。
学生時代に書き留めていたレシピを引っ張り出して作り直す。ちょうどこの時にもレモンタルトにハマり何度も作っていたことを、レシピ集を開いて思い出した。皿状に焼いたタルトの中に詰めるフィリング(レモンクリーム)とイタリアンメレンゲの配合まで書き留めてある。
15年前のレシピに従うと、十分及第点のタルト皿が焼きあがった。
驕り
生地をタルト皿に敷き詰める頃には、すでに頭の中では様々なことを考えていた。
焼く前の生地は最初に作った生地よりも扱いやすく配合も覚えやすい。焼成温度も時間も良く、焼き色も綺麗だった。
初めにレモンタルトを作ろうと思ったとき、何故このレシピを見なかったのか。
レシピを引っ張り出すのが面倒だったのではない。これは、驕りだ。
15年前の私よりも、今の私の方が何度もお菓子を作っている。知識もある。だから今の私が考えたレシピの方が優れている、という思い込みだ。
だったらこの1、2年で何度タルトを焼いただろうか。2,3回、多くて5回が良いところだろう。15年前にレシピを書き留めた私が、その1,2年で何度焼いただろう。覚えていないが、30回は下らないことは確実に言える。
どうして、今の私が過去の私より優れたものを作れると思い込んだのだろう。
あの時の私は今よりもずっとタルト作りに打ち込んでいた。とにかく手を動かし、記録を取り、考え、また作っていた。ただ年を取っただけの人間が、真面目に愚直に作り続けている人間を超えることなどできるわけがない。
様々な思いの中、レモンタルトは無事完成した。15年前の私にとってこの上の無い出来だろう。今の私にとっても、勿論良い。だが、さらに質を高めるべき点は見える。年を取った私がすべきことは、ここからさらに上を目指すことだ。決して過去を否定することではない。過去の私がたどり着いたポイントに立ち、そこからまた上を目指して歩き出す。
レモンの酸味が、“やっていた”つもりになっていた私の目を覚まさせ、身のしまる体験となった。
note公式のフェスのことを今更知りました。
これなんだろなーと思いながらスルーしてましたすみません。
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