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キャロルガーデンと言う場所
NYに決めた理由は、ただ家賃の問題だった。
前のパートナーから私の子供ではない子供が出来たことをカミングアウトされる。10数年の生活が走馬灯のように駆け巡り、会社の為、家族の為と、昇進を重ね、土日も深夜も働くのにいきなり嫌気がさした。
その時の私はもう日本に居るのがすっかり嫌になってしまった。
そこで、いい機会だから精神のリフレッシュと海外に1年住むと決め、候補地探しの為に有給を取り1週間滞在してみる事を思いついた。
まず言葉の問題があるので、英語圏であることは外せない。
ここ数年、ラスベガス、ドバイ、カリブ海などリゾートカジノにばかり行っていた為、そう言えば普通の町には行っていない事に気が付く。
百聞は一見に如かず。
2015年の秋に第一候補のイギリスへ行くことにした。やはりここはイイな。
ハロッズの地下で一人、ワインを飲みつつキャビアを食べながら優雅に考える。
当時の私はアメリカに対して何の思いも無かった。
ラスベガスに旅行で言ったり、LAに仕事で行くぐらい。そのイメージ。
折角行くならアメリカも候補に入れてみたら?と前のパートナーに言われ探したのはサンフランシスコ。ITの本場に近いところに行きたい。そう思ってまた1週間ほど滞在する。ネックがある。何といっても家賃が高い。
3000$は下らない、結構繁華街から離れているのだ。
この狭さで3000$か。と思っていた所、
それならNYも見てみればいいじゃない?と提案される。
別にNYに思い入れが無いから特に興味が無いと思っていたが、また有給と祝日を合わせ、NYへ。
そう言えば向かいの知り合いが一人NYに居たなと思い連絡をする。
⁻ 家を探しているんだよね。
⁻ 一人暮らしで犬2匹が居るんだよね。
同席していた、知人のパートナーが言う。
それなら、マンハッタンはお勧めしないな。あそこは犬に対してあまりいい場所じゃないな。ブルックリンのキャロルガーデンがいいよ。
明日不動産屋さん見てみれば?
キャロルガーデン。なんぞやそこは?
マンハッタンから電車で30分程度。
何と無くいい響き。
その日は彼らと別れ、次の日朝から場所を探して行ってみる。
不動産屋のメールアドレスを聞き、フォームに記載しいい物件があったら教えてと言ったが、ここでまた問題が出た。
⁻ 引っ越しいつ?え?9月か10月?まだそんな物件出てないよ。今5月だよ。
そう言えば日本でもそうだが、いい物件は空きが出たらすぐ埋まる。
2週間ぐらいで大抵みんな探すと言う。
不動産屋が続けて言う、
⁻だってNYだよ?いいものが出たらすぐに埋まっちゃうよ。
確かに。
さて、帰りにふらりと街を歩く。なんと閑静でのどかな場所だろう。
メインの通りは二つあり、歩くと小さい骨董屋、バー、花屋、ケーキ屋、服屋などが並んでいる。そして並木通り。小さい時に初めて行った国立の思い出が強く、並木通りにはいいイメージがある。
さてせっかくなので、今日もバーに立ち寄る。そこにもいいバーがあった。Zombie Hatと言う。
カラン。
店に入り、カウンターに座る。まだ4時30分だ。誰も居ない。
いや、一人いた。野良猫みたいな女の子がもう氷もほぼ溶けて何も入っていないグラスを片手にWifiを使って宿題をしていた。
バーテンも暇だったのか、話しかけてくれる。
⁻ 観ない顔だね。どこから来たの?
⁻ 日本。東京。住む家を探してこの辺りを見ていたんだ。
⁻ ああ、そうなの!?ここはいい場所だよ。治安はいいし、人はいいし、近所の人が楽しむ町って感じなんだけど、静かだし。
ペラペラと近所の事情を話してくれる。楽しかった、いい酒だった。
勘定の時に、
⁻ じゃあ、いざ住む時はまた立ち寄らせてもらうよ。
⁻ ごめんね、僕ここの仕事、今秋までなんだ。来週にはヨーロッパに帰るよ。でも他の人も楽しい人ばかりだから心配はいらないと思うな。
OH....
兎に角、場所の辺りはついた。それが2016年の5月頭。
すっかり好きになったその場所に住むことを決めて、私は日本に帰った。
バーの場所
273 Smith St #4739 , Brooklyn, NY 11231
2020年現在まだあるようだ。