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日々是分岐─セガサターン名作「街」の総監督が語るサウンドノベル回顧録・第一回「サウンドノベルの原型と誕生」 麻野一哉
セガサターン30周年を迎える2024年。
そのセガサターンの名作として必ず名前の挙がるサウンドノベル「街」。
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「街」の総監督を務めた麻野一哉氏のインタビューでは、麻野氏が生み出した数々の名作のエピソードが語られました。
名作の当事者自身による回顧録シリーズとしては「グランディア」の回顧録「グランディア冒険奇譚」も好評連載中ですが
「街」が生まれるまでの開発現場の詳細なやりとりを麻野一哉氏自らが語る新連載「日々是分岐」が始まります!
後世に遺す貴重な記録として、ぜひみなさんもご覧ください。
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1. ドラシポ
サウンドノベルの発端は、麻野がチュンソフトの中村光一社長に飲みに誘われたことに始まる。
▼参考
1980年代半ば。当時のチュンソフトは、ほぼすべてのスタッフが『ドラゴンクエストV』の開発にたずさわっていた。しかし、パブリッシャーとして初のソフトを出そうと、ドラクエの仕事のかたわら、新ゲームの企画会議も行っていた。メンバーは、中村社長、中西営業部長、Y開発部長、グラフィック・チーフのFさん、麻野だ。
初めてのオリジナル企画ということで、会議はいつも盛り上がった。盛り上がったが、話がどんどん大きくなり、途方もない方向に進んでいた。当時売れていて、かつ、一番身近なゲームがドラクエだった。自分の会社で作っているので身近もなにもないが、みんなにとって無視できない上にとてもおもしろいゲームだったので、「ドラクエみたいなRPG要素は是非入れよう」ということで意見は一致していた。
ああ、思い出してきた。自社でやるなら、アクション系か非アクション系かという話もしていたような気がする。チュンソフトは、『ポートピア連続殺人事件』を作り、『ドラゴンクエスト』を作ってきた。過去に『ドアドア』というアクションゲームも作っているが、どちらかというと非アクションで成功しているので、そのアドバンテージを活かすなら非アクションだろう、という話が初期の段階で出た……ような……気がする。もう、30年以上前なので記憶があいまいだ。
なんにせよ、シナリオが入っていたり、RPG的なジャンルの方がいいだろうという話になり、他にも、その頃出はじめたシミュレーションゲームも俎上にのぼった。『シムシティ』と『ポピュラス』だ。両方とも、アミガというコンピューターで動いていて、たまたまチュンソフトにはアミガがあって、遊べた。
『シムシティ』は、自分が市長になって街を経営するゲームだ。プレイヤーは商業地や住宅の建設、税金の上下、鉄道の敷設をする。そうすると、自然と人口がふえて街が発展する。直接自分が手を下すことなく、ゲームが勝手に進展していく。そんなゲームシステムが当時はとても新しかった。このゲームは、その後、続編がいくつも作られたので、知っている人は多いと思う。
かたや『ポピュラス』。これは、宗教がテーマになったゲームで、プレイヤーは神となり、自分の信者をふやす。敵のコンピューター側も神となり、信者をふやす。つまり、コンピューター相手に一対一で戦うゲームだ。戦うといってもアクションの要素はあまりない。自分の信者をふやすと文明が発達する。文明が発達すると神の能力があがり、地震や疫病を起こせるようになる。そういう脅威の力で敵に災いを起こして勢力をそぐ。最後にハルマゲドンを起こし、プレイヤーかコンピューターのどちらかが勝利する。
自分の信者をふやすには、大きな建物を作る必要があり、そのためには、凸凹した土地を平らにしなければいけない。つまり、広い平野を作ったもの勝ちという話で、プレイヤーは、マウスを使ってずっと土地を平らにしつづける。それが、プレイのほぼ9割といった変わったゲームだった。今思うと、当時はマウスというデバイス自体が目新しかった。だから、ゲームシステムもさることながら、その操作そのものが楽しかったのかもしれない。
これら、「ドラクエとシムシティとポピュラスの要素を全部いれたい」というのがみんなの思いだった。ゲームの仮タイトルは、頭をとって、『ドラシポ』といっていた。とても安易だった。
ゲームが大好きな20代の若者が集って、好きなゲームを作ろうという話だから、企画会議は大いに盛り上がる。ドラクエみたいなゲームだから、山や森、街や村もある。シムシティの要素をいれたいから、訪れた街はどんどん成長する。ちょうど、『ドラクエⅣ』で成長する街はすでに作っていたから、なんとなくできそうな気もしていた。ポピュラスの要素も入れたいから、天変地異も起こる。
ちょっとまて、主人公は勇者じゃないのか? 市長? 神? RPGだから、やはりレベルがあがると成長するよな。職業はどうする? シナリオもあるから、街の人と話したりするよな。天変地異がおきたら、村人死ぬのか……。
こんな要素もいれよう、あんな要素もいれようと、毎日風呂敷を広げまくっていた。会議が終わると、なにか、とてつもない大仕事をしたような満足感があった。しかし、心の片隅では、こうも思っていた。「こんなもん、ホントにできるのか?」。
今思い返すと、一種のうっぷんばらしをしていたのかもしれない。日々ゲームを作っていると、疲れてくるし飽きもくる。片方で、こんなゲームを作りたいという夢はふくらむ。つまり、企画会議は夢を語る場になっていたのだ。
こんな、楽しくはあるが、地に足がついていない会議を何度か重ねたある日、社長の中村光一に「飲みに行かないか」と声をかけられた。
2. 「テキストアドベンチャー、興味ある?」
中村光一社長のことは、ずっと社長と呼んでいたので、ここでも社長という表記にさせてもらう。
飲み屋の名前はなんだったか。「ぼんや」だったかなあ。違うかもしれない。新宿3丁目のビルの2階だったように思う。テーブルではなく、奥行きの深いゆったりめに座れるカウンターだった……気がする。大皿に料理をたくさんのせていて、それを見ながら店員さんに注文できるような店だったような……気もする。
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