【映画】夜空はいつでも最高密度の青色だ
映画感想文感想文「夜空はいつもで最高密度の青色だ」
どこかの誰かが言っていた「この映画、とてもいいよ。特に都会で生活している人にとってズシンと来る映画だよ」と…
都会で生活する人にズシンと...それだけでもう映画を観なくてもわかるような気がした。
それでも観た。
たぶん、いいことばかりではないだろう、いやいいことなんてこれっぽっちもないかもしれないとは思うが、時には棘のようなものに刺されてみたいという願望が私の中にある。そうしないと心も体も頭も緩慢になってしまうかもしれないという怖さがあるからだ。
私は20代前半から今までずっと都会に住んでいる。
この映画の舞台になっている東京にも居た。
そしてそこで人生で一番過酷な時を経験をした。
そんなことは自慢にはならないが、この映画に出てくる若者や大人や老人たちと同じように、もがき苦しんでいたことに間違いはない。
それがわかっていながら、あるいは全くわかっていないのかもしれないが、
なぜ人々は都会を目指すのであろうか…という思いで観始めた。
物語は…
石井裕也監督が、注目の詩人・最果タヒの同名詩集をもとに、都会の片隅で孤独を抱えて生きる現代の若い男女の繊細な恋愛模様を描き出した作品。
地方から東京に出てきた美香は看護師としての職を持っているが、夜はガールズバーで働いている。
病院で日常的に遭遇する人間の死。その度に「こんなことすぐに忘れる」と自分に言い聞かせながら喫煙所でタバコをふかしている。
工事現場で日雇い労働者として働く慎二は常に死の気配を感じながらも希望を求めてひたむきに真面目に生きていた。
美香と慎二はガールズバーで出会い、お互いに気になる相手となるが、すぐに恋に落ちることはなかった。ふたりとも排他的な都会の街で素直に人を信じられなかったし、世の中を信じられないでいた。
そして美香は、恋愛なんてものにうつつを抜かしている人々を馬鹿にしていた。
美香が映画内で語る詩がとても印象的だなと思った。
一部書いてみる。
「青色の詩」
都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ。
塗った爪の色を、きみの体の内側に探したってみつかりやしない。
夜空はいつでも最高密度の青色だ。
きみがかわいそうだと思っているきみ自身を、誰も愛さない間、
きみはきっと世界を嫌いでいい。
そしてだからこそ、この星に、恋愛なんてものはない。
冒頭にこういう詩が美香の口から発せられる。
それが映像とリンクして観ている方もとてもやるせなくなる。
ふたりの関係は少しずつ近づきならも、
美香は「恋してる女は見苦しいよ」「どこもかしこも恋愛ばかりで馬鹿みたい」と口走る。
いつまで経っても甘い恋愛がふたりには訪れない。
はっきりしたストーリーがあるようでない。誰がどうして最後はこうなりましたというのは見つけれられない。
でも生きるってそういうことかも、虚しいと思いながら仕事に行き、ご飯を食べ、寝て、起きて、また虚しいと思いながら仕事に行く。それが現実だ。
もっと充実した人生を送っている人もいるにはいるのだろうが、そういう人たちはもがき苦しんでいる人間とは一線を引き、見ないようにしている。
残された美香や慎二やその周りにいるような人たちは、「がんばれ。なんとかがんばれ自分」と言い聞かせながら生きているのだと思う。
最後まで映画やドラマなどよくある「幸せな結末」というものはない。
でも物語が進むにつれて美香や慎二なりの少しの進歩というか「ちょっとした安らぎ」みたいなものは感じられた。
私はそれでホッとしたが、またいつこの安らぎが壊れてしまうか一抹の不安がよぎるのもあるにはある。
最果タヒさんの詩は、いつも読ませてもらっていつもドキッとさせてもらっているのだが、映像になるとそのドキッとした感覚が痺れてくる。
病みつきになる痺れ感だ。
かっこいいとか、美しいとか、迫力あるとか…
そういう映画ではないが、若者も大人も観て知ってほしい感じてほしい、
いい映画だと思った。
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