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#022 収入は不安定でもここまでやってこれたわけ

 農業は自然と向き合いながらより豊かな生活を送りたいと願う人々にとって魅力的な選択肢。しかしながら安定した月給から、収穫量や市場価格に左右される農業収入への転換は大きなハードルであることは言うまでもありません。理想的な生活を得たと思ったら、収入の不安定さで寧ろストレスを抱えてしまっては本末転倒。

 それに加えて私は大動物を相手にする和牛肥育を仕事にすることを選びました。世間一般の認識では所謂"3K(「きつい」「汚い」「危険」)"仕事に素人が飛び込むわけです。元の職場の上司が心配するのも当然。

 これまでも以下記事でその一端をご紹介してきました。

 今回は2024年の農業収入のタイミングを具体的に例に挙げながら大半の人が選べない(選ばない)仕事をあえて選ぶことで実現した私の幸せ?な状況についてご紹介できればと思います。


〇農業は収入が不安定

1.不安定な要因

 農業は収入が不安定です。それは需給に影響される市場価格によるものと、出荷時期が決まっている事に起因します。多くは労働集約型の形態で規模が大きくなればそれに比例してリスクも大きくなり、自然を相手にするためその影響も大きく収入を左右することになります。

  1. 天候の影響: 農業は、雨量、気温、日照時間など、自然条件に大きく左右されます。異常気象や自然災害は、収穫量に直接的な影響を与え、収入の変動を引き起こします。

  2. 市場価格の変動: 農産物の価格は、需要と供給のバランスによって変動します。消費者の嗜好の変化や、競合農家の増加など、様々な要因が価格に影響を与え、農家の収入を不安定にします。

  3. 病害虫の発生: 病害虫の発生は、作物の生育を阻害し、収穫量を減少させます。防除対策を講じても、完全に防ぐことは難しく、収入に大きな影響を与えることがあります。

  4. 労働力の確保: 農業は、体力的な労働を伴う仕事です。特に繁忙期には、多くの労働力が必要となります。人手不足は、作業の遅延や品質の低下を引き起こし、収入の減少につながる可能性があります。

2.心理的な影響

 営農計画を立てる時点でサラリーマン並みに稼ぐことは非常にハードルが高いことに気づきます。実際に営農しながら計画通りにいかないことを経験してしまうと、繊細な方は大いにプレッシャーを感じることとなります。

  1. 将来への不安: 転職直後は特に収入が安定しないため、将来に対する不安を感じやすく、生活設計が難しくなります。収入計画を立てても諸要因によってその通りにいかないとそれが焦りにつながり、悪循環に陥りがちです。

  2. モチベーションの低下: 収入が期待通りに得られない場合、モチベーションが低下し、農業に対する意欲を失ってしまうことがあります。サラリーマン並みに稼ぐためには初期投資も大きくなり、一人で営農することは難しくなります。

〇今年の山岡牧場

 2024年の収入タイミングをご紹介しながら、農家の収入を具体的にイメージしていきましょう。

1.和牛肥育部門

 和牛肥育は子牛を仕入れて肥育し、出荷する流れで収入を得ますが、下記表の通りほぼコンスタントに毎月出荷があります。需要期である4月、7月、11~12月は出荷頭数が増えていますが、単価は需給で変動するため収入は思うように安定しません。 

表1和牛肥育部門の売上

 上記表を見ると「なんだ、大体毎月出荷があって収入があるじゃないか」と思う方が多いでしょう。しかしながら最初に子牛を仕入れて肥育を行う期間は餌代等の経費はかかるので非常にハードルの高い分野であることは間違いありません。うちの2024年の出荷牛の平均肥育期間は729日。この仕事を始めた祖父には本当に頭が下がります。

生き物相手のお仕事なのでお休みはありません

2.米部門

 先程の牛に比べて米部門は随分シンプル。米は年1度の収穫後に収入が集中するため、諸経費は前もって確保しておく必要があります。農協などでは「収穫期払い」という後払い制度を設けて農家のキャッシュフローを安定化させるよう努めています。

表2米部門の売上

 この表を見ると4~11月まで収入なしというサラリーマンでは考えられない状況になっていることがお分かりかと思います。他の農家では野菜を栽培して収入の柱を増やして対応することが多いですが、その分追加の経費がかかったり、台風などのリスクも増える為、新規参入する場合は農業分野以外の収入源の確保が現実的な対策でしょう。

稲刈りは天気との戦い

〇不安定さを乗り越えるためには

 先程の例の通り、和牛肥育に比べて米は収入機会が限られます。うちは牛と米の組み合わせでほぼ毎月収入を確保できる体制となっていたことは幸いでした。とはいえ就農に際して不安を全く感じなかったかと言えば嘘になります。

1.【就農前】「金こそ精神安定剤!貯金をしておけば安心だ」

 サラリーマン時代から毎月の貯蓄額を決めてから生活費を決めるような性格だったため、ある程度の資金を確保することはできていました。その上インドア派で生活費自体も低燃費だったため、数年無収入でもなんとかなる状態で就農。

 元の生活水準を維持しようとするのではなく、優先度を明確にすることでどこまで実現させられるかを微調整しながら生活リズムを整えていきました。実現したいことのハードルを下げることで、精神的なプレッシャーは軽減されます。一見ネガティブかもしれませんが、今振り返ると準備不足であった中では非常に効果的な精神状態であったかもしれません。

 各地で新規就農支援も活発に行われていますが、こちらも計画通りにいかないと焦りに繋がってしまうことも。どっしりと腰を据えて取り組むには手持ちのキャッシュがモノを言います。

2.【就農後】「余裕資金さえあればあとは改善していくだけ」

 余裕資金を確保しながら、農業の収入タイミングに慣れてしまうとあとは改善していくだけ。実際に少雨や長雨で思うように作業ができないことがあったり、不作で収量が落ちたり、コロナ禍なども経験してきましたが今日まで営農を続けられています。たとえ数値的な改善が見られない年があったとしても、祖父の代からの半世紀以上の営農の積み重ねは「なんだかんだどうにかなったよね」という紛れもない事実であり、それによって不安が軽減できていると思います。

 実際の取り組みとして両親は無借金経営を続けており、もしもの私が戻る際のことも考えて準備をしてくれていました。新規参入であればかかっていた初期投資分を新規分野への投資に切り替えられたおかげでより前向きに仕事に取り組むことができています。

〇金があればすべて解決…?

 このように個人事業主として農業をしていくことは非常にハードルが高いですが、「金さえあればなんとかなる」という結論ではいささか片手落ち感があります。お金があれば不安がなくなるものの、不安がないと農業を続けられるのかというとそうではないからです。

 冒頭でも述べた通り農業は土にまみれて猛暑や極寒に耐えながら行う大変な仕事。そこに魅力を感じなければ続けていくことは困難を極めます。だからこそ農家数は減り続けているわけで。

 でも逆に考えると「競争相手が少ない」ということになります。その中でも私のような元システムエンジニアともなると相当な変わり者。そうやって他の人がやっていないことを経験していくことで自然と差別化されていき、独自色を打ち出しやすくなっていきます。斜陽産業だとしてもちゃんと活躍しているプレイヤーがいるということを今後身をもって示せるように頑張っていきたいと思います。


 最後までお読み頂き、ありがとうございました。12月31日に仕事納め、1月1日に仕事始めを何事もなく済ませ、新年を迎えることができました。今年も着実に事業を前に進められるよう邁進していきたいと思います。引き続きスキ・コメント・フォローなどを頂けますと励みになります。


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