うつでダウンして、バンブル無双した女の休職生活。#5
あの時のままの部屋
1つの病院にしかかかったことが無いので、確かなことは言えないが、精神科のクリニックは病院ぽくない場所が多い。
部屋のインテリアやコントラスト、先生の服装、色んなところを見渡してもあまり診察室には思えない。
木を基調とした落ち着いたテイストの家具、先生も白衣は着ずにYシャツの上にセーターを着ていたり、ラフな格好だ。
よく分からない小さな猫や月のオブジェもたくさん置いてあるし、独特だけれど落ち着く部屋。
先生の後ろを見れば、「精神科の〜」「医療から見るこころの〜」などといった本が棚にぎっちりとはめ込まれているけれど、そこに目が行かない限り、ここを診察室には思わない。
そのくらい、"病院"であることを患者の意識から遠ざけて、話をすることに配慮していることが分かる。
この部屋に戻ってきてしまったと、先生の前に腰をかけながら思った。
先生はこのクリニックの院長で、年齢は見た目的におおよそ50代半ばといったところだろうか。
穏やかな語り口で、高圧的でもなく、話を聞くときはしっかりとカルテの手を打つのをやめて私に向き合っていたのが印象的だった。
質問にも丁寧に答えてくれるし、分からないことに関しては「医学的なエビデンスが無いので、回答が出来ないのですが」と前置きをしてあくまでも推測の範囲だと言うことを強調して話をしてくれる。
何よりも、薬の量をむやみに増やそうとしないところが私にとっては信頼のおける先生だった。(私がそこまで重篤な患者ではないということも多いに関係しているが。)
「どうされましたか?」
2年前と変わらず、先生は穏やかな口調で私に何があったかを聞いてくれた。
眠れないこと、けれどその原因が分からないこと、悪いイメージばかり頭に浮かんでしまうこと、日常生活にも仕事にも支障をきたすほど頭が混乱すること、倦怠感、疲れやすさ、やってはいけないかもしれないが、昨日は友人にもらったデエビゴを2錠飲んでやっと眠りにつけたこと。
原因を掘り下げる質問をされる。
「何か日々の中でストレスに感じていたことはありますか?または大きなイベントがあったとか。」
特に大きなライフイベントはない。プライベートは充実していた方だと思うし、先日の大型連休も沢山遊んで過ごした。上司は優しいし、パワハラセクハラの類は、自分の会社には無縁の風土だ。恵まれた環境にあると思う。
ただ、仕事に満足がいっていないことは確かだった。
やりたいことが出来ていない、自分の才能をもっと発揮したい、こうなっていたかったのに、理想と現実との乖離、周囲の変化と自分の変化の無さ、会社に優しい人はいてもこうなりたいと思えるロールモデルがいない。
これは後筆するが、私にとって重要なキーとなる心の声だった。
咄嗟に出た言葉
先生の診断はこうだった。
「何か一つの大きなストレスが原因となって、というよりは複合的な原因、例えば仕事のことでの悩みや連休の疲れなどが重なって発症したものだと思われます。うつを治すお薬、それから睡眠導入剤も出しますから、これを飲んで様子を見ましょう。」
寛解してから2回目の診察にしては、だいぶあっさりと終わるものだなという印象を受けた。ここで書く以上に、色んなことを聞かれて答えてはいたものの、体感としては「あ、それだけ?」と言いたくなるほど簡単に終わった。
けれど私はそこで、口をついて言葉が出た。
先生の診断は置いておいても、自分のために言っておこうと思った。
「しばらく休職をしたいと思っているのですが、診断書は書いていただけるのでしょうか」
先生はその言葉を聞いて、少し驚いた様子だった。
(「あ、そう?そんなに辛いの?」)と心の中で思っていたのかもしれない。
それでも、「休職ですね、分かりました」と言ってすぐに診断書の用意をしてくれた。
少し話をしただけなのに、結構かかるな、とお会計をしながら思いつつ薬局で処方箋をもらう。
「あぁ、メンタルの薬ってこんな小さかったわ」
と2年前に初めて薬を処方された時のことをまた思い出した。
”病名 うつ病” と堂々と書かれた診断書を手に入れた私は、すぐに会社の総務部に連絡を入れた。
「診断書が出ました。休職手続きを教えてください。」
こうして私の夢にも見なかった休職生活は幕を明けた。
メリッサ