うつでダウンして、バンブル無双した女の休職生活。#16

ハラスメントが無くたって病む

自分で言うのも難だが、就活は周囲を見回していても比較的楽勝だった。

特に秀でた学歴があるわけでもない。
けれどある程度のコミュニケーション能力があって、自分の言葉で何かを説明出来て、人前であまり緊張もしない。
いわば面接に非常に向いている学生だった。

面接官が何を欲しているか、手に取るようにとまではいかないが分かるし、「あ、今うまく答えられたな」「今の言い方はまずかったから後で訂正しよう」といった風に頭の中で計算が出来た。

また、選んでいた企業も良かった。
一般的に名前があまり知られていないような、だけれどもある程度収益があって安定しているBtoBの企業。そういうところばかりを狙っていた。

そんな風でいたから、早々に内定を貰って熟考することもなく快諾し、就活用の真っ黒いスーツはすぐに脱ぎ捨てて大学4年生のほとんどはバイトに明け暮れていた。

ただ、就活をそこまで粘らなかった理由がもう一つある。
色んな角度から自己分析をして気がついた。

”私、会社員に向いてる人間なんだろうか”

特に(会社という組織に属して)やりたいと思うこともない。
けれど、ここで就職せずに大学院に行ってまで学びたいと思う分野も無い。

新卒カードを思い切って捨てて冒険する、なんてことは出来なかった。

だからとりあえず、みたいな形で入社した。


新卒の会社を選んだ理由は、面接や懇親会で会う社員の人柄がいい人が多かったからだ。
この会社に入れば、セクハラやパワハラ、その類で悩むことは無さそう。
離職の原因の7割近くは人間関係、なんて言葉を聞いたこともあるから私にとって企業にどんな人間がいるのかはとても重要なことだった。

その目論見は、私の予想通りだった。

社員は皆いい人だった。
誰かを蹴落とそうとか、自分のことだけを考えて行動する人がいない。
嫌味なことを言う変な人も少ない。人間関係で悩まされるようなことは私は一切無かった。

4月に入社し、集合研修を経て何を見込まれたか人事部に配属され業務をこなした。
1年目の仕事は、全てが楽しかった。
会社ってこんな所なんだ!と目を輝かせて仕事をしていた。
失敗も成功も全てがネタになると思ったし、"社会人""会社員"という肩書を気に入っていた。見るもの全てが新しくて、仕事が出来る人だと思われたくて頑張っていた。

ただ、その当時の上司は少しばかり仕事の裁量を上手に振るのが苦手な人だった。
「なんでもいいからやります!やれます!」という新人に、どこまで託していいのか、何をさせればいいのかを上手く把握出来ていない様子だった。

けれども、そんな状況を「今暇なんですけど」と大きな声で言って忙しくしているチームのメンバーをギョッとさせたくも無かった。
”社内ニート”という言葉を知ったのはこの時だ。
あぁ、私のことかもしれないと感じた時、苦しくなった。

そしてコロナがやってきた。とうとう私はやることが本当に無くなった。

給料泥棒は私のことを言うんだろうなと、強く強く感じたのはこの頃だ。


全ての矢印が自分に向く

コロナ禍の憂鬱は病院に通いながら克服し、室長を含め執行役員にも自分のことを少しずつ話しながら(時には号泣した)解決の糸口を探っていた。

ただ、この時に今も忘れられない上司の言葉がある。

私が仕事の悩んでいることをポツポツと話した時に、当時の執行役員が言った言葉だ。

「私は、メリッサさんたちの仕事を誰でも出来る仕事だと思っていないし、もっと創造性のある仕事だと思っている。だからそんな風に自分を責めないで欲しい。」

とてもショックだった。
なぜなら、私はそんなこと一言も言わなかったからだ。

そこで気がついた。あ、この人は私たちの仕事を誰でも出来る仕事だと頭のどこかで思っているんだな、と。
それに気がついた時に、とてもやるせなくなった。
涙も引っ込んだ。この時の気持ちはいまだに鮮明に覚えている。

もしかしたら、私の話の中からそういうエッセンスを汲み取ったのかもしれない。それでも、それを言語化されてぶつけられると耐え難いものがあった。


3~4年目になると転職を考えだした。

けれど、特に会社でやりたいと思うことがない。新卒の自己分析の時から変わっていない動機だ。

福利厚生が良くてある程度のお給料が貰える今の仕事、何が不満なのかと聞かれるとハッキリと答えられなかった。
人も良い、環境も良い、仕事だってある、任されることも増えてきた。
なのにどうして、何に満足いっていないんだろう。

他社に勤めている周りの友人知人を見渡せば、仕事に忙殺されて死にそうな人もいれば、セクハラで悩む人も、上司と折りが合わなくて悶々としている人もいた。

それに比べれば、自分はなんて恵まれた環境にいるんだろうと本当に思う。
けれども、だからこそ、これは自分が悪いんだと考えるようになった。

全てあるのに、何も出来ていない自分が悪い。

矢印が全て自分に向いた。

熱湯に入れられたカエルはすぐに鍋から飛び出すが、
水からぬるま湯になり、だんだん熱くなるお湯の中ではカエルは煮える。

辞めたいと思っているのに辞められない。
働くことは好きだけど、特にこれがやりたいと言うこともない。
臆病者。意気地無し。結局は努力ができないだけじゃないか。

「メリッサさんはもっと頑張れると思うんだ」
そう室長に言われたこともある。
自分でもそう思う。けれど力が出なかった。

自分が100%やりたいと思えることにしかエネルギーを費やせないと気がついた。

良くも悪くも、私は自分に正直でヘタレで、行動力の無い人間なんだと自分を毎日責めていた。

日々デスクに腰をかけるたびに、自分が嫌いになっていた。
自分に嘘をついて、会社にも嘘をついて、それでもお給料は貰って。

こんな社会人になりたかったのか?

その爆発が、うつの再発に繋がったんだと今ならそう思える。


メリッサ


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