うつでダウンして、バンブル無双した女の休職生活。#9

つきまとう罪悪感

「休職生活」と聞いて、どんな生活を思い浮かべるだろうか。
元気が無く、ずっと横になって寝ている?部屋で1人泣いて過ごしている?
あるいは、公園でボーッと物思いに耽って夕陽をながめている?

全部正しい。そうやって休職という限られた時間を過ごす人もいるかもしれない。
だが大抵の場合、休職生活はもっともっとアクティブに動けていたりもする。

私もそうだった。
眠れない日が5日近く続き、体力と精神力の限界を感じて、休職を咄嗟に申し出た。上司にメールをしなくとも、勤務システムに入力をせずとも、会社を休めることになってしまった。
最初の3〜4日は、体力も食欲も無く、何かを口にして寝るのがやっとだった。家族や友達と電話をしたり、Netflixを観たりして時間を溶かしていた。

そしてだんだん元気になってくる。
寝不足は回復し、少しずつ食べられる量も増えてくる。疲れやすい体ではあるものの、頭が混乱して何か大切なことを忘れたり、ミスをしたりすることもない。ミスをしたとしても、「まぁいっか」と自分を責めることは無くなった。

確実に元気になってきている。そう感じた。
けれどもそれは、会社に行かなくて良いこの環境が生み出した産物なのだと、同時に強く意識した。

私がこうして家族と話している間にも、今会社では先輩が私が作るはずだった人事リストを作成し、神々(執行役員)たちに報告をし、会議のお弁当を発注し、大量の資料を印刷している。この時期だから新卒採用の面接をしているかもしれない。
単純に業務が回っているのか、少し心配になってしまった。
そして、私は本当に休んでいて良いのか?(今は元気なのに)と思うようになってしまった。

休むことの難しさ

これは恐らく刷り込みだ。
我々は、働くことが正義で、休むことを悪として教育されてきた節がある。
童話”アリとキリギリス”の話だって、キリギリスのように怠けることなく、アリのようにせっせと働くことで幸せになれる。と謳われて育った。
キリギリスのように、楽しむ人生があっても良いというのに。

そんなに思い悩むなら、復職すれば良いじゃないか、と思うかもしれない。
でもそうは考えられなかった。
会社に戻ることを考えると、途端に億劫になる。
働けるけど、働けない。働きたいけど、働きたくない。
色んな感情が交錯して、じゃあ今何をすべきなのかが分からなくなった。

そして私はカウンセラーに電話でこの胸の内を話した。
友人や同僚、家族のような自分の身の上をよく知っている人より、自分のことを全く知らない人に対しての方が深刻な悩みを打ち明けられることがある。女の子が占い師に人生相談をしたり、美容師さんにはなぜか何でも話してしまうあの感覚に似ていると思う。

会社と提携しているカウンセリングサービスの事務所は、休職者の生活の様子を伺い、本人の口から伝えにくいことがあれば会社に伝言してくれたりもする。しっかり、カウンセリングの役割も担っていて、悩みや休職の原因、体調不良の根本原因を分析したり、考えたりもしてくれる。
私の担当者は自分より少し年上くらいの、優しい声の女性のカウンセラーさんだった。

「どんどん元気になってきているけれど、休むことに罪悪感を感じる」
「ズル休みしている気分になる」
「戻らなければ、と思うけれど、戻りたくない」

そう伝えると、電話口で優しく相槌を打っていたカウンセラーさんはゆっくりとこう話した。

「メリッサさんがそう思うこと自体、まだまだ休みが必要だという証拠だと思います」

自分を許すことは難しい。
自己肯定感という言葉をよく耳にするが、日本では間違った意味で広がっているという。
”自己肯定感が高い状態”というのは、いつも自分が1番!自信満々!大好き!という状態ではない。自分の良いところも悪いところも、清濁飲み込んで、「良いだろう」と思えている状態のことを言うそうだ。
自分の悪いところも、理解できているということがポイントらしい。

そう思えば、私はまだ自己肯定感が著しく欠如した状態にある。
自分で自分を許せていない。
でも、自分で自分を許し、明るく前に進むにはどうしたら良いのか、さっぱり見当もつかなかった。

「メリッサさんの今の状態で復職したとしても、同じように数ヶ月後に休職をまた繰り返す可能性が高いです」

そう言われると、怖くなる。同じ過ちを繰り返すことは避けたい。
どんどん及び腰になっていった。

そして、周りの働いている人たちが本当に偉いと感じるようになっていた。
外食で同じ夕飯を食べていても、彼彼女たちは働いているけれど私は何もしていない1日だった…と少し落ち込んだりもした。

物事を全てを良い悪いの判断基準で見ること自体、あまり良い方法ではない。それでもこの時の自分は、その物差しでしか世界と自分を図れなかった。
カウンセラーさんに言われた言葉で、少しは胸のつかえが取れたような気がしたものの、本当の自分がこの時何を考えているか、
私はまだ自分と向き合い切ることが出来ていなかった。

メリッサ

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