うつでダウンして、バンブル無双した女の休職生活。#10

全部全部、会社がやってくれていた

その日、私は空港で絶望していた。
半泣きになりながら、父親に電話をかけた。

「お金を・・・借してください・・・」

この時まで、知ろうともしていなかった。毎月決まった給与が振り込まれるその裏で、会社がしてくれていたこと。決して月給が少ないなんて言わないけれど、多少なりとも不満は抱えていた。もっと給与が増えないかな、〜ならないかな、〜してくれないかな。
会社は、全部全部してくれていたのに。

休職をする前から、大学時代の友人と2人で韓国旅行に行くことが決まっていた。
休職するなんて思いもかけなかったから、金曜日〜日曜日の休日を使った旅行だ。休職をしている身で、こんなに遊んでいいのかと多少なりとも申し訳なさもありながら決まっていたことだし!と準備をした。行きたい場所、食べたい物、買い物をしたいところ、全部ブックマークして準備は万端だった。

会社からメールが届いたのは空港に向かっている電車の中だった。
『今月の社会保険料について』とタイトルだった。

______
【金額】291487円
【入金期限】〜
______

何が起こっているのか、さっぱり分からなかった。
急に30万円近くの金額を、会社から請求されている?
私は軽くパニックになった。

そのまま空港に到着し、友人を待つ間父親にメッセージで連絡をした。
「社会保険料が云々で、会社から30万振り込むように言われてるんだけど、どう思う?」
「すぐに会社に電話して確認しなさい」

金曜日の昼間で助かった。
緊張しながらも会社の総務部に電話をすると、事務のお姉さんが出た。「担当者に代わる」と言って次に出たのは、私も仲良くさせてもらっている先輩だった。癖の強い総務部の面子の中で、私が唯一話が通じると思っている人だ。

彼女から、「金額に間違いは無い」とはっきり伝えられた。
「休職が始まったのが、先月の中旬。それと今月の分も合わせているから、金額が大きくなっているだけなの。スクリーンでも内訳を確認したけど金額に間違いは無いから、期限までに振り込んでくれると助かるな。」

社会保険料とか、その他税金とか、給与を貰う時考えもしていなかった。
そりゃそうだ。給与から天引きされていたのだから。
会社がやってくれていたことを、休職期間は自分でやらなければと強く意識した瞬間だった。
社会保険料、その他税、社宅なので家賃の半分を含めた金額を毎月振り込まなければいけない。

自慢ではないが、貯金は無い。
韓国旅行に行く前ともあって、今30万円を降ろしたらお金の心配ばかりして何も楽しめないと動揺した。そして冒頭に立ち戻る。

父親は寛大だ。おそらく、自分もそうやって父親(私の祖父)に育てられてきたのだろう。
「子供なんて、親のスネをしゃぶり尽くしてナンボなんだ。俺がボケたら面倒見てくれよ」
そう言って、黙って10万円多く口座にお金を振り込んでくれた。
成田空港のベンチの端っこで、誰にもバレないように涙を拭った。


会社にいると気付けないこと、出ると気づくこと

父親に泣いてすがってお金を借りるなんて、大人にもなって恥ずかしくて顔から火が出そうだった。というか、こんな大人になっているはずじゃなかったと、自分で自分を責めた。

大人になって、自分でお金を稼げるようになったら、こんなことしてあんなことして、お父さんにはこれをしてあげて、お母さんにはこれをしてあげて、2人が住む家だって変えたっていいんじゃないか。色んな親孝行を妄想していた。まさかうつでダウンして、何も叶えられていない未来があるなんて新卒入社ピカピカ1年目の私は思いもしていないだろう。

空港で涙を拭い、前を向くと友人が到着していた。
飛行機のチケットを発券し、搭乗ゲートを抜けた後、ご飯を食べるために2人で和食屋さんに入った。そこで私はさっきの話をした。

実は友人はその時すでに会社を辞めていた。
この旅行からわずか2ヶ月後にはオーストラリアにワーキングホリデーに行くことが決まっていたのだ。(ここまでの経緯も私が関わるので、後日書きたいと思う。)
だから私が休職し、会社にこんなお金を払わないといけなかった、親にお金を借りたと話すと、とても共感してくれた。

「超わかる。
会社にいるときは不平不満ばっか、、、でも無いけど少しは言ってたじゃん?でもさ、会社がやってくれてたことって数知れないんだよね。
私も会社辞めて思った。これもこれも全部、これからは自分でやんなきゃいけないの???って考えたら、頭パンクしそうだった。
でも、その道選んだのは結局自分だから、やるんだけどね。」

学生の頃からそうだった。
彼女は、フワフワしてそうに見えて誰よりもしっかりしている。末っ子なのに人に頼る以上に自分でやらなくてはいけないことをちゃんと把握して動ける人だ。こんな彼女だから距離を近づけることが出来たし、仲良く出来ているし、今でも心から尊敬している。

話しすぎて、飛行機の時間が近づいていることに気が付かなかった私たちは慌てて店を出た。

せっかく念願の韓国に行くのだから。
今だけは、全て忘れて楽しもう。日本に帰ってから色んなことを考えよう。

そう心で折り合いをつけて、搭乗した。

何もかも、失ってから気が付くなんて。
それじゃ遅いんだと思ったら、
今自分は何を持っているのか考えることが出来るはずだ。

メリッサ


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