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面白い医師と出会えた話
ながらく痛みを抱えていてどうしようもなくなり、ペインクリニックを教えてもらったのでとりあえず駆け込んでみることにした。日本は思い立ったその日に診察を受けられる科が多い。つくづく素晴らしいと思う。
痛いところに丸をつけると言う項目で、手指ひじ、膝、足首、太腿、上腕すべてにマーク。医師が早速どういうことやと驚きながら診察。
あーだこーだと事情を説明すると、彼の見立てによれば筋肉の疾患が隠れているかもしれないという。
だって、握力15だ。
あちこち痛くて、でも強がりなので杖のみで診察室に入ったが早速先生が「老人だよこんなの」と笑う。
勉強していること、仕事をあきらめたこと、過去の学校の話を採血の間話していると、彼の専門分野ではないはずの学問について熱弁してくれる機会ができた。
痛みに即効性はなくともとりあえずやってみよう、と管をつながれて、両手も足も使えないまま施術が終わるのを待つその間、先生が診察室からやってきて、これを学ぶならあの人はしっているか、この本は読んだか、これはどうだと次々と語ってくれた。
きっと不思議な患者が突然現れて面白かったのだと思う。なんだか、祖父のような人だった。
メモしたいけれど管が邪魔で携帯がさわれないのであとでもう一度文献を教えてください、読みたい、と伝えると、先生はそそくさと診察室へ戻っていく。
少ししてメモを持って帰ってきた。
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「これを読めばいい。こっちの本はーーこれはーー」とまた熱弁。
海外から帰ってきて心臓弱めてあちこち痛くなって、英語だけ上達しちゃあ何もしていないのと変わらないよ!と先生が怒るような口調で言い残していったが、私はああいう愛情が大好きだ。彼なりの心配の仕方で、昭和の日本らしい心遣いの方法なんだと思う。
たくさん話をしてくれる彼の表情はマスク越しでわからなくても、その面影にはかつて沢山勉強をしていた彼がいた。目を合わせずああだこうだと文句を挟みながら言う姿は、なんだか一人の勤勉少年がそこに立っていたように見える。
これから彼が筋肉の疾患を調べて、神経科に回されるという先の話まで聞かせてもらえた。アメリカで簡単にEDSだと結論づけられたが実は違うものもあるかもしれないと疑ってくれる医師がひとり存在することに、言い表せない嬉しさを感じている。初めて、きちんと話を聞いてもらえた。
この先どんな病と戦うにしろ、こういう人生の先輩方を支える活動は絶対に諦めたくない。誰かのために生きることが楽しみになる瞬間だった。