深淵を踏んだその後に【ツインスター・サイクロン・ランナウェイ感想】
小川一水『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』の感想です。初めに宣言しておきますけど私別に百合好きというわけではないです(嫌いではないですし目覚めかけましたけど)。
SF、百合、スペース漁業、謎ギミックの宇宙船、など語るべきことはいろいろあるでしょうが、私はラストセンテンスがとてもとても好きです。
と、言いますのもこの物語、遠い未来、未知の巨大生物「昏魚」が住まう巨大ガス惑星軌道上の大船団での生活、といった開放的な要素しかないはずなのにいざ蓋を開けてみれば因習にとらわれた各氏族、「伝統」や「継承」を何よりも尊び、当たり前のように役割を課し、それをおかしいとも思わない、思うことすら許されないただ広いだけの村社会といった雰囲気が終始緩やかに、確実に漂っていまして...。
その極致ともいえるセリフに「深淵を踏め、小娘」というものがあり(いわゆる「地獄に堕ちろ」的な意味合いです)、最初この世界観ならこういう言葉選びになるだろうな、くらいの感想だったのですが、ラストシーンでこの言葉に力強く中指を突きつけ、踏みつけ、誰よりも何よりも高く飛び上がっていく主人公二人の姿に、何か爆発的なエネルギーを浴びせかけられたように感じました。
欠点らしい欠点といえば続編がないことくらいですね、私は二人のその後がとても見たい。
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