「不適切」な機械翻訳
先日「人手翻訳vs.機械翻訳ガチバトル!」という記事を書かせていただきましたが、今回はその記事で出したクイズの正解と、機械翻訳の問題についてご紹介したいと思います。
0. さて、私の翻訳はどれでしょう?
こちら↑の記事で挙げた英訳は、それぞれ①DeepLによる翻訳、②Google翻訳、③ウチダによる訳、④ChatGPTの訳という順番でした。
さて、それぞれ精査してみていただけるとお分かりになるように、それぞれの機械翻訳には次のような誤訳がありました。
以下にもう一度原文を挙げますので、ひとつずつ見ていこうと思います。
1.「パーキングポール」の誤訳
DeepL、Google翻訳、ChatGPTに共通する問題として、「パーキングポール(ラチェット機構の爪を指す)」をparking pole(車止め)と誤訳していました("push(es) the parking pole 40 out of the parking gear 44")。これは日本語独特の難しさかも知れませんが、機械翻訳は同音異義語を区別できない、すなわち文脈の意味をくみ取ることができない、という問題点があります。
2.「カム機構96を介して」の訳抜け
これはGoogle翻訳に特殊な問題でしたが、「押出し荷重がカム機構96を介してロック部材42に加えられると」の「カム機構96を介して」の部分を訳し忘れていました。そして"by force"という原文にない語句が追加されています。「機械翻訳は機械だから訳抜けをしない」というのは思い込みだと言うことを常に念頭に置いておいていただければと思います。
3.「挟圧される」という語句の訳
これは必ずしも「誤訳」とは言えないかもしれませんが、DeepL、Google翻訳、ChatGPTは、「挟圧される」をそれぞれis squeezed, clamped, sandwitchedと訳しています。これらの単語は、この明細書の文脈で伝えようとしていることと意味がずれてしまっているように私には思えてなりませんでした。
具体的には、squeezeは「圧縮する、(果物などを)絞る、恐喝する(搾り取る)、すし詰めにする」という意味の言葉です。スポンジやフルーツなど、柔らかいものを押しつぶすイメージでしょうか。また、clampは「かすがい、やっとこ、万力、止め金具などで挟んで支持する、位置をしっかりと保つ」の意味になります。そもそもそのような工具のことを指す名詞なのでどちらかというと「挟まる」というより「挟む」という意味合いが強いように思います。最後に、sandwichは、「サンドイッチのような状態にする、狭いところに挟む、2つのものの間に挿入する、挟む」の意味。「サンドイッチ」という言葉の示唆するように「固いもの」をあまりイメージさせないのではと考えます。
私の訳例では「歯ぎしりする」「こぶしを握り締める」という「固いものに圧がかかる」という意味のclenchという動詞を使ってみました。(この訳語選択が良いかどうかはさておき。)
また、どのシステムもbe動詞+過去分詞という単純な受動態(例:is clamped…)で訳されていますが(原文がそうなっているので正しいのですが)私の訳例では、
①坂路に車を駐車する
②坂になっているため車の重みにより押出し荷重が発生する
③その押出し荷重がロック部材42に加わる
④ロック部材42がサポート部材30側に押し出されるがストッパ66が両者間にあるために、その荷重の一部を担う(荷重が直接ロック部材42にかからない)
という一連の流れが明確になるように、become clenchedと変化をあらわすbecomeを使って訳してみました。
4.「後退」という語の訳
3つの機械翻訳システム共通の訳語として、「後退」をretractと訳しているのに気が付きました。retractは「ひっこめる」「撤回する」「取り下げる」という意味の言葉で、車が好きな人は「リトラクタブルヘッドライト」などの言葉をご存じかも知れません。したがって、「動作の主体が引っ込める、引っ込むようになっている」という、意味合いをもつ語になります。したがって「ロック解除位置側へ後退する方向の力」という外部の力によって「後退」するケースには不適切と考えます。
私の訳では単純に、
「ロック部材42をロック解除位置側へ動かす(move back)押出し荷重」と訳しました。
他にも多数気になる箇所があったのですが、それはまた別の機会に。