海辺の散歩者

■ ある占い師の感覚と思考■ 港町に暮らすある占い師の日々を、書き綴っています。時々ち…

海辺の散歩者

■ ある占い師の感覚と思考■ 港町に暮らすある占い師の日々を、書き綴っています。時々ちょっと不思議なことも起きますが、普通といえば普通の生活です。急拡大する占い業界にも、ふれていますよ。

記事一覧

ブルーチーズが食べたいと、デリカテッセンへ - 占い依存症 - 

夕方に近い午後、デリカテッセン(Delicatessen)に立ち寄ってロックフォールを買う。ブルーチーズの一種で、マイルドな塩味が特徴だ。そのあとパン屋でバゲットを買って事…

海辺の散歩者
21時間前
74

占い師を”技術者„と呼べば、反感を買うだろうけれど

用心深そうな声で、電話がかかってきた。 「浮気されてると思います。話もしてくれなくなって」 20代後半の女性からだだった。浮気をしているのは彼女の夫だ。彼女の名前を…

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見えないものを見る、についての体験と考察

3つの分類+αの占術占いは、その手法によって、大きく3つに分類できる。絶対的分類というより、ひとつの考え方ととらえたほうがいいだろう。とにかくそれによると、命術…

海辺の散歩者
3週間前
223

メタリックな音と、ピタゴラスの数秘と、草野球

占いというものは、知識や技術であり、同時に思想でもある。 僕はもともと占いにはまったく興味がなかった。ところがあるとき、数秘術について書かれたものを読むことがあ…

海辺の散歩者
1か月前
243

レモン色の柑橘と、ユングの星座

占うという漢字は、画数こそ少ないが、複数の字の組みあわせで構成されている。つまり、会意文字ということになる。分解すれば「ト」と「口」からできていて、トは占いにあ…

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海辺の散歩者
1か月前
197

占術師口上 -乱世に思う-

我、占術師にして流離人。 官学に学ぶも野に下り、名を借り名を潜めて世を渡る。幾多の世事俗事に関わる事を生業としつつ、占術師になりてのちは出世蓄財金策など外事の相…

海辺の散歩者
1か月前
283

シュルレアリストたちの骨牌 続・トランプの来歴

マルセイユという響きには、どことなく懐かしさがある。 ここを訪れたのは2度、滞在期間にすれば1か月足らずだけれど、地中海に面したこのフランス第2の都市に不思議な…

海辺の散歩者
2か月前
293

タロットの起源である、トランプの来歴

「タロットで、見てほしい」 という依頼を、ごくたまにうけることがある。 占い手法を指定しているわけだ。一般的にはクライアントにとって、手法よりも結果が気になるとこ…

海辺の散歩者
2か月前
304

センチメンタルな旅、古本屋の午後

「そういえばここに、小さな本屋があったな」 と思う。 何度も文庫本を買ったことがあるし、雑誌の立ち読みもした。私鉄沿線の大学町の街角だ。本屋の横にはクリーニング店…

海辺の散歩者
2か月前
259

ヒメジョオンの花で思いだす、京都の美人占い師

5月が深まるころ、ヒメジョオンの白い花が斜面を埋めつくす。地面から1メートルほどの高さまで真直ぐに茎を伸ばし、いくかの小さな花をつけている。それらが風でゆらゆら…

海辺の散歩者
2か月前
216

四月が残酷なのは、芽吹きの苦悩なのか

冷たく晴れて、風の強い日だった。 午後、運河になった狭い海に、ノコギリの歯のような白い波が立っている。 僕は自転車に乗って、運河沿いの公園を走っていた。青葉になり…

海辺の散歩者
3か月前
219

自己紹介 début/海辺の散歩者

はじめまして。 海辺の散歩者、と申します。よろしくお願いします。 気どった名前にしてしまって気恥ずかしいですけれど、これは数万年前にアフリカ南西部に暮らしていた人…

海辺の散歩者
3か月前
336

僕は占い師になる前に、猫と出会った

孤独な都市生活者にとって、猫は素晴らしい友人である。 それはたぶん、猫が侵しがたい孤独を抱えているからだろう。だから寂しがって近寄ってきたとしても、気づけばふっ…

海辺の散歩者
3か月前
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ブルーチーズが食べたいと、デリカテッセンへ - 占い依存症 - 

ブルーチーズが食べたいと、デリカテッセンへ - 占い依存症 - 

夕方に近い午後、デリカテッセン(Delicatessen)に立ち寄ってロックフォールを買う。ブルーチーズの一種で、マイルドな塩味が特徴だ。そのあとパン屋でバゲットを買って事務所にもどる。コーヒーをいれながら、ナイフでバゲットを切って、そこに薄く切ったチーズをのせる。小腹がすいたときにはちょうどいい。
こう書くと優雅そうだけど、そうではない。雑然とした事務所のなかで、コーヒーもごちゃごちゃしたデスク

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占い師を”技術者„と呼べば、反感を買うだろうけれど

占い師を”技術者„と呼べば、反感を買うだろうけれど

用心深そうな声で、電話がかかってきた。
「浮気されてると思います。話もしてくれなくなって」
20代後半の女性からだだった。浮気をしているのは彼女の夫だ。彼女の名前を仮に麻友さんとしておこう。出産のあと、麻友さん実家に帰っているあいだに、どうやら夫の浮気がはじまったらしい。
電話のむこうの麻友さんは、あまり言葉数が多くなかったけれど、かなり神経が痛んでいるのはわかる。

鑑定してみれば、たしかに浮気

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見えないものを見る、についての体験と考察

見えないものを見る、についての体験と考察

3つの分類+αの占術占いは、その手法によって、大きく3つに分類できる。絶対的分類というより、ひとつの考え方ととらえたほうがいいだろう。とにかくそれによると、命術と卜術と相術の3つにわけられる。それぞれどのような特徴があるのか、ざっと見ておこう。

まず命術ついて。これはその人が誕生した生年月日・時間・場所など、不変的な情報をつかって占いをする。占星術、四柱推命、数秘術などがここに含まれ、その人の性

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メタリックな音と、ピタゴラスの数秘と、草野球

メタリックな音と、ピタゴラスの数秘と、草野球

占いというものは、知識や技術であり、同時に思想でもある。
僕はもともと占いにはまったく興味がなかった。ところがあるとき、数秘術について書かれたものを読むことがあって、「ちょっとおもしろいな」という感じをもった。数秘という名前からして、ちょっと惹かれるものもあった。英語でいえば numerology 、つまり「数字の学問」という意味だ。

起源をたどると、かなり古くからあるようだ。きちんとした文献は

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レモン色の柑橘と、ユングの星座

レモン色の柑橘と、ユングの星座

占うという漢字は、画数こそ少ないが、複数の字の組みあわせで構成されている。つまり、会意文字ということになる。分解すれば「ト」と「口」からできていて、トは占いにあらわれたものをさし、口は神のお告げをうけとる器という意味である。
どちらも古代中国で生まれた亀卜という占いがある。読み方は「きぼく」。文字通り亀の甲羅をつかったもので、これに錐で穴をあける。そこに熱した棒を突き刺し、それで生じたひび割れなど

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占術師口上 -乱世に思う-

占術師口上 -乱世に思う-

我、占術師にして流離人。
官学に学ぶも野に下り、名を借り名を潜めて世を渡る。幾多の世事俗事に関わる事を生業としつつ、占術師になりてのちは出世蓄財金策など外事の相談から、結婚出産跡継という内事の悩み、さらには夫婦親子嫁姑の諍いに至るまでを扱うこと多数。

なかでも色恋艶事濡事はとりわけ多くの女人にとって身を焦がし身を捩るほどの最大事なり。已むに已まれぬ事態となりて、行く場所を失い心の支えを無くして、

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シュルレアリストたちの骨牌 続・トランプの来歴

シュルレアリストたちの骨牌 続・トランプの来歴

マルセイユという響きには、どことなく懐かしさがある。
ここを訪れたのは2度、滞在期間にすれば1か月足らずだけれど、地中海に面したこのフランス第2の都市に不思議な親しみを覚えている。ここには大都市の喧騒はなく、多くのヨットが停泊する旧港付近はむしろ人情深い下町の感じと、港町らしい荒くれた気配が相まってぞわぞわした。

ずいぶん前になるが、ある夏の日、このマルセイユの路上で、彫金などの飾りや手編みの手

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タロットの起源である、トランプの来歴

タロットの起源である、トランプの来歴

「タロットで、見てほしい」
という依頼を、ごくたまにうけることがある。
占い手法を指定しているわけだ。一般的にはクライアントにとって、手法よりも結果が気になるところだろうが、タロットへの思いが強い人もいるのだろう。たしかにこのカードがもつ妖しさは独特のものがある。

ただし歴史は意外にあたらしく、15世紀ごろにキングゲーム用のカードとして開発されたといわれている。ルネサンス期が始まろうとする時代で

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センチメンタルな旅、古本屋の午後

センチメンタルな旅、古本屋の午後

「そういえばここに、小さな本屋があったな」
と思う。
何度も文庫本を買ったことがあるし、雑誌の立ち読みもした。私鉄沿線の大学町の街角だ。本屋の横にはクリーニング店もあったが、それももうない。町が寂れたわけではなく、移り変わっているということだろう。僕も雑誌の立ち読みはしなくなった。

思えば、新刊書店が数をへらすまえに、古本屋が姿を消していった。
ところが最近、都市部ではこだわりの古本屋をあちこち

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ヒメジョオンの花で思いだす、京都の美人占い師

ヒメジョオンの花で思いだす、京都の美人占い師

5月が深まるころ、ヒメジョオンの白い花が斜面を埋めつくす。地面から1メートルほどの高さまで真直ぐに茎を伸ばし、いくかの小さな花をつけている。それらが風でゆらゆら揺れていた。
僕はときどきマンションの裏のベランダにでて、ほんのわずかな時間、頬杖を突いて、この群生を眺めている。繁殖力の強い野草だ。花のあとに実を結ぶと枯れてしまうのだけれど、1株がつくりだす種は膨大な数にのぼる。毎年、この花が斜面をおお

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四月が残酷なのは、芽吹きの苦悩なのか

四月が残酷なのは、芽吹きの苦悩なのか

冷たく晴れて、風の強い日だった。
午後、運河になった狭い海に、ノコギリの歯のような白い波が立っている。
僕は自転車に乗って、運河沿いの公園を走っていた。青葉になりはじめた桜の並木がゆらゆら揺れて、木漏れ日がまぶしかったのを覚えている。なんだか気持ちがざわつくのを感じていた。いまから2か月ほどまえのことだ。

   四月は残酷きわまる月

そう書いたイギリスの詩人がいる。その詩の一節ががふと頭に浮か

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自己紹介  début/海辺の散歩者

自己紹介 début/海辺の散歩者

はじめまして。
海辺の散歩者、と申します。よろしくお願いします。
気どった名前にしてしまって気恥ずかしいですけれど、これは数万年前にアフリカ南西部に暮らしていた人類の愛称です。その人骨が海辺で発見されたのですね。現地のアフリカーンス語では strandloper。英訳すれば beach walker です。なんとも詩情溢れる名前じゃありませんか。

彼らはいまの人類、つまりホモサピエンスよりかなり

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僕は占い師になる前に、猫と出会った

僕は占い師になる前に、猫と出会った

孤独な都市生活者にとって、猫は素晴らしい友人である。

それはたぶん、猫が侵しがたい孤独を抱えているからだろう。だから寂しがって近寄ってきたとしても、気づけばふっと目の前からいなくなってしまう。群れではなく単独の狩猟者がもつ静寂に、むやみに立ち入ってはならない。

猫はボーダーの領域にいる存在だ

僕が単身の都市生活者だったころ、一匹の猫を拾ってきたことがあった。夏の夜で、雨の降ったあとだった。夜

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