海辺の散歩者

■ ある占い師の感覚と思考■ 港町に暮らすある占い師の日々を、書き綴っています。時々ちょっと不思議なことも起きますが、普通といえば普通の生活です。急拡大する占い業界にも、ふれていますよ。

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最近の記事

銭湯と刺青、あるいはコーヒー牛乳にまつわる三つの話

学生のころは銭湯にかよっていた。毎日いくのはもったいないし、面倒でもあったので、2日に1回。かといって銭湯が嫌いなわけではなく、むしろかなり好きな部類だと思う。といっても施設の充実や機能の高さは問題ではない。ポイントは風情である。下町情緒のようなものですね。そういう場所を探して、あちこちの銭湯を巡ったりもした。 巡るといっても探求したり、こまめに銭湯コレクションをするという感じではなく、気がむいたときにふらっと立ち寄るという程度だ。知らない町を訪ねたときも、銭湯があって気がむ

    • 蝶はあの河をわたったのか -多重夢から覚めて-

      私鉄に乗って、大きな川にかかった鉄橋をわたっていた。二十歳のころだ。 都市圏を流れる川だが、河川敷には草の生えた土手があり、どこか寂しげな雰囲気が漂っている。僕は電車の扉にもたれるように立って、川を見おろしていた。よく知っている風景だ。すると幼い少年がひとり、河原で石を積んでいるのが目にはいった。 「おやっ」 と思った。なんだか奇妙な感じだなぁ、という気持ちのまま見ていると、その少年の顔が見えた。心臓をつかまれたような衝撃が走った その少年は、幼いころの自分自身なのである。

      • ミミズクの沈黙、てのひらの目

        アルジェリアの言い伝えでは、「眠っている女性のてのひらにワシミミズクの右目があったとき、その女性は知りたいことをなんでも知ることができる」という。 フクロウの仲間であるミミズクは、古くから世界各地で知恵や神秘の象徴として扱われてきた。そのミミズクが人にみずからの右目をあたえ、未知なるものを見通す力や予言能力を授けるというのだ。 とはいえ、てのひらにワシミミズクの右目、という状態がどんなものなのか、容易には想像しにくい。実際の目がそこにあるのか、ある種の痣のようなものなのか、

        • 砂漠を背負った街と「大地の占い」

          アフリカ北部にアルジェリアという国がある。地中海をはさんでフランスの対岸に位置し、国土の多くをサハラ砂漠が占めている。僕がはじめて滞在した外国が、このアルジェリアだ。正確にいえば、ストップオーバーでパリに1泊しているが、それは滞在とはいいがたい。 仕事でもなく観光というわけでもなく、ただぶらっといってみた。それがアルジェリアだというと、怪訝な顔をする人もいる。自分なりに理由があったとはいえ、いまとなってはやはり奇妙な感じもある。 サハラからの風とアルジェの港滞在したのはおも

          ブルーチーズが食べたいと、デリカテッセンへ - 占い依存症 - 

          夕方に近い午後、デリカテッセン(Delicatessen)に立ち寄ってロックフォールを買う。ブルーチーズの一種で、マイルドな塩味が特徴だ。そのあとパン屋でバゲットを買って事務所にもどる。コーヒーをいれながら、ナイフでバゲットを切って、そこに薄く切ったチーズをのせる。小腹がすいたときにはちょうどいい。 こう書くと優雅そうだけど、そうではない。雑然とした事務所のなかで、コーヒーもごちゃごちゃしたデスクの上で飲んでいる。それに面倒なときは近くのコンビニでサンドイッチを買ってくる。で

          ブルーチーズが食べたいと、デリカテッセンへ - 占い依存症 - 

          占い師を”技術者„と呼べば、反感を買うだろうけれど

          用心深そうな声で、電話がかかってきた。 「浮気されてると思います。話もしてくれなくなって」 20代後半の女性からだだった。浮気をしているのは彼女の夫だ。彼女の名前を仮に麻友さんとしておこう。出産のあと、麻友さん実家に帰っているあいだに、どうやら夫の浮気がはじまったらしい。 電話のむこうの麻友さんは、あまり言葉数が多くなかったけれど、かなり神経が痛んでいるのはわかる。 鑑定してみれば、たしかに浮気のリスクが高いときだ。彼女の運気も悪い時期に突入している。しかし、夫の浮気はやが

          占い師を”技術者„と呼べば、反感を買うだろうけれど

          見えないものを見る、についての体験と考察

          3つの分類+αの占術占いは、その手法によって、大きく3つに分類できる。絶対的分類というより、ひとつの考え方ととらえたほうがいいだろう。とにかくそれによると、命術と卜術と相術の3つがあるとされる。それぞれどのような特徴があるのか、ざっと見ておこう。 まず命術ついて。これはその人が誕生した生年月日・時間・場所など、不変的な情報をつかって占いをする。占星術、四柱推命、数秘術などがここに含まれ、その人の性質や才能、相性、結婚などの時期を見るのに適してる。 つぎに卜術。これは、タロ

          見えないものを見る、についての体験と考察

          メタリックな音と、ピタゴラスの数秘と、草野球

          占いというものは、知識や技術であり、同時に思想でもある。 僕はもともと占いにはまったく興味がなかった。ところがあるとき、数秘術について書かれたものを読むことがあって、「ちょっとおもしろいな」という感じをもった。数秘という名前からして、ちょっと惹かれるものもあった。英語でいえば numerology 、つまり「数字の学問」という意味だ。 起源をたどると、かなり古くからあるようだ。きちんとした文献は残っていないので、いまに伝えられる発祥の物語にどれほどの信憑性があるかはたしかに

          メタリックな音と、ピタゴラスの数秘と、草野球

          レモン色の柑橘と、ユングの星座

          占うという漢字は、画数こそ少ないが、複数の字の組みあわせで構成されている。つまり、会意文字ということになる。分解すれば「ト」と「口」からできていて、トは占いにあらわれたものをさし、口は神のお告げをうけとる器という意味である。 どちらも古代中国で生まれた亀卜という占いがある。読み方は「きぼく」。文字通り亀の甲羅をつかったもので、これに錐で穴をあける。そこに熱した棒を突き刺し、それで生じたひび割れなどを見て吉凶を占った。トはそのひびの形だ。 ひび割れは、まったくの偶然によって起

          ¥150

          レモン色の柑橘と、ユングの星座

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          占術師口上 -乱世に思う-

          我、占術師にして流離人。 官学に学ぶも野に下り、名を借り名を潜めて世を渡る。幾多の世事俗事に関わる事を生業としつつ、占術師になりてのちは出世蓄財金策など外事の相談から、結婚出産跡継という内事の悩み、さらには夫婦親子嫁姑の諍いに至るまでを扱うこと多数。 なかでも色恋艶事濡事はとりわけ多くの女人にとって身を焦がし身を捩るほどの最大事なり。已むに已まれぬ事態となりて、行く場所を失い心の支えを無くして、駆込寺に飛込むが如くに占術の助けを借りんと、縋る思いで訪う人も少なからずあり。

          占術師口上 -乱世に思う-

          シュルレアリストたちの骨牌 続・トランプの来歴

          マルセイユという響きには、どことなく懐かしさがある。 ここを訪れたのは2度、滞在期間にすれば1か月足らずだけれど、地中海に面したこのフランス第2の都市に不思議な親しみを覚えている。ここには大都市の喧騒はなく、多くのヨットが停泊する旧港付近はむしろ人情深い下町の感じと、港町らしい荒くれた気配が相まってぞわぞわした。 ずいぶん前になるが、ある夏の日、このマルセイユの路上で、彫金などの飾りや手編みの手工芸品を打っている一群を見かけた。そのなかに、トランプ占いのようなことをしている

          シュルレアリストたちの骨牌 続・トランプの来歴

          タロットの起源である、トランプの来歴

          「タロットで、見てほしい」 という依頼を、ごくたまにうけることがある。 占い手法を指定しているわけだ。一般的にはクライアントにとって、手法よりも結果が気になるところだろうが、タロットへの思いが強い人もいるのだろう。たしかにこのカードがもつ妖しさは独特のものがある。 ただし歴史は意外にあたらしく、15世紀ごろにキングゲーム用のカードとして開発されたといわれている。ルネサンス期が始まろうとする時代で、場所はイタリア、貴族たちの遊びとして考案されたようだ。 ただし元をたどっていく

          タロットの起源である、トランプの来歴

          センチメンタルな旅、古本屋の午後

          「そういえばここに、小さな本屋があったな」 と思う。 何度も文庫本を買ったことがあるし、雑誌の立ち読みもした。私鉄沿線の大学町の街角だ。本屋の横にはクリーニング店もあったが、それももうない。町が寂れたわけではなく、移り変わっているということだろう。僕も雑誌の立ち読みはしなくなった。 思えば、新刊書店が数をへらすまえに、古本屋が姿を消していった。 ところが最近、都市部ではこだわりの古本屋をあちこちで見かける。以前のように無口な親爺が奥の席で店番をしているという感じではなく、年

          センチメンタルな旅、古本屋の午後

          ヒメジョオンの花で思いだす、京都の美人占い師

          5月が深まるころ、ヒメジョオンの白い花が斜面を埋めつくす。地面から1メートルほどの高さまで真直ぐに茎を伸ばし、いくかの小さな花をつけている。それらが風でゆらゆら揺れていた。 僕はときどきマンションの裏のベランダにでて、ほんのわずかな時間、頬杖を突いて、この群生を眺めている。繁殖力の強い野草だ。花のあとに実を結ぶと枯れてしまうのだけれど、1株がつくりだす種は膨大な数にのぼる。毎年、この花が斜面をおおうのもそのせいだ。 繁殖力という話をしてみよう。 ある銀行系のシンクタンクによ

          ヒメジョオンの花で思いだす、京都の美人占い師

          四月が残酷なのは、芽吹きの苦悩なのか

          冷たく晴れて、風の強い日だった。 午後、運河になった狭い海に、ノコギリの歯のような白い波が立っている。 僕は自転車に乗って、運河沿いの公園を走っていた。青葉になりはじめた桜の並木がゆらゆら揺れて、木漏れ日がまぶしかったのを覚えている。なんだか気持ちがざわつくのを感じていた。いまから2か月ほどまえのことだ。    四月は残酷きわまる月 そう書いたイギリスの詩人がいる。その詩の一節ががふと頭に浮かんだのは、どこか荒れた感じの四月の風景を見たせいだろう。 自転車でむかっているの

          四月が残酷なのは、芽吹きの苦悩なのか

          自己紹介 début/海辺の散歩者

          はじめまして。 海辺の散歩者、と申します。よろしくお願いします。 気どった名前にしてしまって気恥ずかしいですけれど、これは数万年前にアフリカ南西部に暮らしていた人類の愛称です。その人骨が海辺で発見されたのですね。現地のアフリカーンス語では strandloper。英訳すれば beach walker です。なんとも詩情溢れる名前じゃありませんか。 彼らはいまの人類、つまりホモサピエンスよりかなり小さく、狩猟採集生活をしていたようです。ただし頭の容量は僕たちよりも大きくて、そ

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