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文章と自分のリハビリ【Long版 ③】空が泣く
只今、こころの充電中につき。
一日一題、お題にそってものを書いて投稿するサイトに出したものより。
・◇・◇・◇・
以下は、前回予告しました、《空が泣く》をお題に書いた文章です。
(もともとのサイトでは、段落の頭を下げずに書くのをマイルールにしてますが、note ではしっくりこなかったので、1マス下げてます)
・◇・◇・◇・
「空が泣く……って、そりゃあ、雨が降るってことだろ?」
いったいそのなにが不思議なことなのか、意味有りげな口調で切り出したアイツを、オレはそうさえぎった。
「そうですよ。たしかに雨ではありますね」
「雨ではありますね……って、なんだよ、そのふくみのある言い方は」
アイツは落ち着きはらってモンブランにフォークを刺した。一口食べた。美味で美味でたまらない、とでもいうふうに目をとじながら。オレもしかたなく、アイツが手土産で持参したモンブランを食った。たしかに、美味かった。きっとこれが高級洋菓子店の味ってヤツだ。しかし、オレは話の続きが気になり、パティシエの妙技の極みを味わうどころではない。
結局、アイツは一口一口、味わいを堪能するが如く、ゆっくり無言でモンブランを食べ続けた。つまり、オレは、アイツが全部平らげるまで待たされたってわけだ。
「教えたら一緒に来てくれますか」
コーヒーをすすりながらアイツはオレの目を真っ直ぐ見た。
「かなり過酷な探検にはなると思います。だからこそ、この話は、キミにもちかけようとおもいました」
オレはポーカーフェイスを保つのも忘れ、うっかり片側の口角を持ち上げて反応してしまった。アイツが言うのなら、その過酷は掛け値なしの過酷だ。
「オレ以外の誰も行けないところなら、何処へだって、オレは行く」
オレは急に生きている実感が湧いてきた。
「教えろ。どこでどんな雨が降るんだ」
アイツは地図と古文書のコピーを取り出し、とある箇所を指さした。
「ここに……空が泣くと黒い雨が降る、と書いてあります。実際に涙のように塩味もする、とされています。この現象は現実に起きているのか、起きているとしたら黒い塩味の雨の成分は何なのか、調査をしたいのです」
古文書の文字は見たこともないような絵文字だった。いったいどうやって解読できたのか、アイツのIQの高さについては、オレも脱帽するしかない。しかし……
「過酷と言う割には、調査したいことが、妙に……ショボくないか?」
すると、アイツがニヤリとした。
「それは表向きの口実です。ホントに潜入したいのは……」
知性をたたえた、と褒めるしかない端正な唇をオレの耳元に寄せてアイツが囁いた単語に、オレは目を見張った。
「正気かよ!?」
「正気ですよ。私はいつでも正気だったでしょう」
ソファにゆったりと腰掛けなおして、アイツは再び言った。
「一緒に来てくれますか……もちろん、来てくれるのでしょう?」
こういうときのアイツは、むかっ腹がたつほどイケメンだと思う。
「行くよ。とうぜん行くさ」
たぶん、いまのオレの表情は、ギラギラとニヤニヤでたぎり立っているはずだ。
「で、報酬は?」
アイツは小切手を取り出し、サラサラと数字を書き付けた。それはとんでもない桁数の法外な数字だった。
(終)
・◇・◇・◇・
この日のお題《空が泣く》って、要するに、雨が降る、ってことでしょ……でも、ホントに泣いてたら、降ってくるのは涙で、塩味がするんだろうな、っていう単純な思いつきから。
アマゾンの奥地か、雲南省とかビルマとかラオスとかの国境あたりなら、そんな伝承や事実があってもおかしくなさそうだ、とイメージしたので、イケメンふたりが秘境への危険な旅に繰り出す物語の発端、として書いてみました。
ていうかですね。都会のテレビ局に秘境あつかいされがちな県の県民として、つい、ゆっちゃいますが、この設定、アマゾンや雲南省あたりの地元に住む人びとからすると「塩味の雨だなんて、そんなバカなことあるわけねーよ。へんなイメージでオレらを見んなよ!」ってのが正直な感想だろうな、と思わんでもないです。
ええ、マジで。都会のテレビ局のみなさん、私もたまにはいいたくなります。あなたたちの秘境は私らのふつーで、暮らしぶりだって、ごくふつーに暮らしてますですよ、って。
「川口浩探検隊」がテレビ番組として成立していた西暦2000年以前ならともかく、どんな奥地にもスマホがある現代において、「アマゾンの奥地か、雲南省とかビルマとかラオスとかの国境あたりなら、そんな伝承や事実があってもおかしくなさそう」っていうオイラのもつイメージ自体がもはやどうだか……都市からの遠隔地に対するある種の蔑視ではないか、とあらためて自省してなくもないです。はい。
さて。登場人物の「オレ」と「アイツ」にゆっくりとモンブランを完食させながらひっぱって、過酷な探検になる、とまで「アイツ」に発言させたあげく、いざ、「雨だけど塩味」というコトを読者に明かそうとした瞬間、それだけだとインパクトに欠ける、ということにはたと気がつき、
「ここに……空が泣くと黒い雨が降る、と書いてあります。実際に涙のように塩味もする、とされています」
と、急遽、「黒い雨」が降ることに変更しました。
だけど、それでもなお、「ショボっ!」と感じたので、
「過酷と言う割には、調査したいことが、妙に……ショボくないか?」
書き手と読み手の抱く素朴な疑問を「オレ」に代弁してもらいました。ショボいと指摘されたからには、もっと凄げな何かを持ち出さざるをえず、
「それは表向きの口実です。ホントに潜入したいのは……」
と、「アイツ」にいわせるほかはありませんでした。
だから、この時点まで、「アイツ」の本当の目論見が別にあるだなんて、書き手である私も知りませんでしたし、ホントに潜入したいのはどこか……というのは、いまだに謎です。
本質的には、「雨だけど塩味」っていう設定が読者にあたえるインパクトの強弱を目測しそこねていた、というだけのことなのですが、なるほど、こんなふうにして物語って勝手に転がるんだなぁ、なんて、感心した一件です。このほかの文章でも、書いてるうちに話しが変わっていった、っていうのはわりとあります。覚えてはないけど。
他人が設定したお題でいきなり書いて勢いで投稿する、ってどんだけ意味あるんだよ?、と思わなくもないですが、こんなふうに、だからこそ経験できることがあったりして、とにかく引出しを増やしたいひとには、この方法、オススメします。
・◇・◇・◇・
ということで、本題です。
前回の Long版でも「一人称」での語りのむつかしさを感じたのですが、今回も、うーん……となりました。
ひとつめは、書き手自身の使う語彙と、一人称の視点人物「オレ」の使う語彙は、どこまで一致させていいのか、っていう問題。
アイツは落ち着きはらってモンブランにフォークを刺した。一口食べた。美味で美味でたまらない、とでもいうふうに目をとじながら。オレもしかたなく、アイツが手土産で持参したモンブランを食った。たしかに、美味かった。きっとこれが高級洋菓子店の味ってヤツだ。しかし、オレは話の続きが気になり、パティシエの妙技の極みを味わうどころではない。
結局、アイツは一口一口、味わいを堪能するが如く、ゆっくり無言でモンブランを食べ続けた。つまり、オレは、アイツが全部平らげるまで待たされたってわけだ。
このシーンを、さらさらさら……ッ、と書いた直後に、気がついたんですよ。
いま、なにげに「食べた」と「食った」を使い分けてたぞ?
……って。
登場人物の「オレ」と「アイツ」は、先の note にもかきましたが、
少女漫画や BL 漫画にでてくる、「いかにも」なイケメンデコボココンビにしたれ!、と思いながら書きました。
「オレ」は、頭ボサボサでさっぱり気質のワイルド系、「アイツ」は、端然と頭髪をなでつけた腹黒インテリ系で、俳優でいうなら、安田 顕さんと及川光博さんのおふたりに、30代にもどっていただいたようなイメージです。
というような人物像です。
だから、書き手である私のなかでは、
安田顕風の 「オレ」 …… 食う
及川光博風の「アイツ」…… 食べる
と、動作を書き分けるのは、キャラの味付けとしてごく当然の行為なわけです。これがいわゆる、三人称の神の視点、といわれる視点で書かれた文章なら、なんら問題は無い。
だけど、この文章はそうではなく、一人称の「オレ」視点、「オレ」が語り手の文章です。
はたして、
安田顕風のワイルド系の「オレ」は、
日ごろから「食う」と「食べる」を使い分けながら物事を叙述するようなキャラなのか?
ということを、ふと、疑問に思ってしまったんですよね……。
だって、もし、「オレ」がどうしようもないレベルのガサツさだったら、そもそも普段使いの語彙のなかに「食べる」が存在してない可能性だってあるわけです。
うーん、だけど……いちおう、「オレ」は大学は出てる、という設定にしておきたいので、日常では「食う」でも、あらたまった場所では「食べる」を使い分ける常識はあるはずです。でも、だからといって、旧知の仲である「アイツ」の所作に対して、わざわざ特別に「食べる」を用いるのだろうか……?
などということを考えはじめたら、底なしの沼にハマってしまいました。さすがにこーゆーときは、小説教室なんかで、ぱっと講師の先生に質問できるのはいいな、なんて思います。
みたいなことを悩んでたら、さらに気がついてしまいました。
つまり、オレは、アイツが全部平らげるまで待たされたってわけだ。
そう、こんどは、
「アイツ」の動作に対して、「食う」よりさらにガサツな「平らげる」を用いている!
ではありませんか。しかも、われながらしっくりきてすらいる。そのときは掘りさげる余裕がなかったので放置しましたが、あらためて考えてみると、
① アイツは落ち着きはらってモンブランにフォークを刺した。一口食べた。
【「オレ」が見た「アイツ」の映像の叙述】
② オレもしかたなく、モンブランを食った。
【「オレ」が認識した「オレ」の動作の叙述】
③ 結局、アイツは、ゆっくり無言でモンブランを食べ続けた。
【「オレ」が見た「アイツ」の映像の叙述】
④ つまり、オレは、アイツが全部平らげるまで待たされたってわけだ。
【「アイツ」の行動に対する「オレ」の感想】
①〜③ は、要するに、それぞれがモンブランを食べている姿の映像です。それに対して、④ は、「くそ〜、待たされた〜」……といういまいましさのこもった、「オレ」の感想です。これを「全部平らげるまで」でなく「全部食べるまで」に変えたら、「オレ」のイライラした心情が削がれてしまいます。なので、ここはガサツな表現で正解。
ということで、話しが長くなってきたので、とりあえずざっくりまとめちゃいます。
「オレ」という人物は、旧知の仲である「アイツ」の所作に対して、わざわざ特別に「食べる」を用いるだろうか?、という疑問は残りつつも、「オレ」と「アイツ」の動作を映像として述べるときには「食う」と「食べる」を使い分け、「オレ」のひとりごとなど、心情について述べるときはガサツな表現をメインで、というルールで書いていくのなら、ひとまずはOK、としたものではないか、と思いました。
・◇・◇・◇・
さて。一人称で語らせていくむつかしさを感じたもうひとつの点。それは、書き手が見たいものを、うっかり語り手に語らせてはいけない、ということ。
この点への注意が足らなかったおかげで、文章に BL 風味がついてしまいました……(_ _ ;)
もうみなさんもお気づきでしょう。以下の部分です。
すると、アイツがニヤリとした。
「それは表向きの口実です。ホントに潜入したいのは……」
知性をたたえた、と褒めるしかない端正な唇をオレの耳元に寄せてアイツが囁いた単語に、オレは目を見張った。
「正気かよ!?」
「正気ですよ。私はいつでも正気だったでしょう」
ソファにゆったりと腰掛けなおして、アイツは再び言った。「一緒に来てくれますか……もちろん、来てくれるのでしょう?」
こういうときのアイツは、むかっ腹がたつほどイケメンだと思う。
やらかしたッ……と感じつつも、止めることも修正することもできませんでした。1ヶ月という時間をおいたので、いまならもうすこし客観視できます。
とにもかくにも、この文章を書いてたときには、少女漫画そのもののコマ割りとか映像が見えてたんですよね。だから、このシーンはいわば、マンガ家から読者への、胸キュンサービスのシーンとして見えてました。
たとえば、この太字の部分とか……
すると、アイツがニヤリとした。
「それは表向きの口実です。ホントに潜入したいのは……」
知性をたたえた、と褒めるしかない端正な唇をオレの耳元に寄せてアイツが囁いた単語に、オレは目を見張った。
たぶん、なんとなくわかってもらえますよね……女性読者が「オレ」に感情移入してるとして、「オレ」の耳元に、ミッチーによく似たイケメンの魅惑の唇が……とかって、キャーッ!、恥ずかしい。みたいな。逆に、男性読者にとったら、相手がイケメンだろうとなんだろうと、単なるナイショ話。ふつーにふつーの行動なんですけどね。
ここはもっとちゃんと、ふつーにふつーの行動として映る叙述をするべきでした。まったくもって、唇に注目しすぎ!
ただし、どこかに容姿についてイメージできる表現は書いておきたいので、
すると、知性をたたえた、と褒めるしかない端正な唇をゆがませて、アイツがニヤリとした。
「それは表向きの口実です。ホントに潜入したいのは……」
スッとオレの耳元に寄ってきてアイツが囁いた単語に、オレは目を見張った。
というふうに、語句を移しかえて、唇に注目するタイミングをズラしておくべきでした。
それから次に、このセンテンス。
こういうときのアイツは、むかっ腹がたつほどイケメンだと思う。
このひとりごとは、ストレートに、書き手の感想にほかなりません。この瞬間、ミッチーによく似た「アイツ」に見とれているのは書き手であって、「オレ」ではありません。だけど、書き手と「オレ」の分離がうまくできてなかったから、あたかも、「オレ」が「アイツ」に見とれているかのようになっちゃった!
うまくいえないのですが、もう一枚、層を噛ませて、ちゃんと「オレ」の感想にまで落とし込まないといけませんでした。
こういうときのアイツは、なるほど、たしかにイケメンだと感心せざるをえない。オレより上だと思いしらされるのには、むかっ腹がたちはするが。
というふうな感じに書けてたらよかったかもです。
実は、いままでは、一人称の視点で物語を書いたことって、ほとんどありませんでした。いつも、頭の中で妄想をしっかりふくらませてから文字を書きはじめていたので、三人称の視点、いわば、ジオラマ製作者として、ジオラマの上からキャラたちを眺める視点に立つことが簡単にできました。
だけど、このように即興で書くとなると、キャラと書き手である自分とが同一化しやすい一人称の視点が、やはり楽ではあります。つまり、ジオラマの中に入って、トンカチでジオラマ自体をこしらえながら書いていく感じです。ただし、見切り発車で余裕がない状態で書くだけに、キャラと自分との分離にまで配慮が至りにくい。これが、一人称の短所でもあるなぁ、というのが学びです。
なにごともやってみないとわからないものですね。
・◇・◇・◇・
さて。
ほかにも、前半のどこかで、登場人物の容姿についての情報をもりこんどくべきだったなぁ……とか反省点はありますが。
ロゴーンです。
今回はめずらしく、文章の硬さが「A 適切」でした。たいがいは、Eなんですが……めずらしい。いつもよりカタカナ語や会話文の比率が高かったせいかなぁ。
一致指数 ベスト3
① 浅田次郎 69.9
② 松たか子 62.1
③ 小林多喜二 61
一致指数 ワースト3
① 岡倉天心 25.5
② 橋本龍太郎 34.2
③ 伊藤正己 35.7
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![五百蔵ぷぷぷッこ / 140字のもの書き / Espansiva の中の人](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/7818814/profile_f8c73301bec7eada6a7073cd1e2ae72c.jpg?width=600&crop=1:1,smart)