第二十五回:映画音楽の時代、というものがあった
片岡義男『ドーナツを聴く』
Text & Photo:Yoshio Kataoka
ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。片岡義男が買って、撮って、考えた「ドーナツ盤(=7インチ・シングル)」との付き合いかた
シングル盤が活躍したのは、一九五五年から一九七五年までの二十年間だった、と僕は認識している。前後に五年ずつ加えて、合計三十年、シングル盤は活躍した、というとらえかたも、あるだろう。どちらでもいい。
シングル盤が活躍した日本は、映画の時代でもあった。こんどあそこでロードショウ公開されるのは、イタリー映画か、フランス映画か、またもやアメリカ映画なのか。監督は誰なのか。主演するのは誰なのか。そして、音楽は?
新しい映画は新鮮な娯楽だった。圧倒的にアメリカから、そしてわずかに、イタリーやフランスなどのヨーロッパから、新しい映画が日本で公開された。アメリカやヨーロッパの軽音楽を好んで聴く人たちのあいだに、映画音楽、というジャンルは確実に存在した。
自分のものとして持っているシングル盤から、映画音楽のものを抜き出してみた。簡単だった。すぐに十枚になった。『トラ、トラ、トラ』は僕の早とちりだ。同名の映画のサウンドトラックからだと思ったのだが、ザ・ヴェンチャーズの五人の来日記念盤だった。
サントラはサウンドトラックを四文字に短縮した日本語だ。オリジナル・サウンドトラック盤、と明記してあれば、映画フィルムに光学録音した音楽その他を、そのままシングル盤に映し取ったものだと考えていい。映画を観ながら聴いたものすべてが、そのままに何度でも楽しめる。サウンドトラック盤あるいはサントラ盤だと、意味するところは広いから、どれがどうという評定はここでは出来ない。
『キングコング』のオリジナル・サウンドトラック盤には、「キングコングの叫び声入り」と、うたってある。ブルース・リーの『ドラゴン危機一発』と『ドラゴン怒りの鉄拳』はともに「オリジナル・サントラ盤」だ。『ドラゴン危機一発』では「ブルース・リーのセリフ入り」となっているが、『ドラゴン怒りの鉄拳』では、「ブルース・リーの絶叫・肉声入り」となっている。
『軍用列車』『トラ・トラ・トラ』『男と女』『モアー』『MASH』など、貴重品ではないか。ピエトロ・ジェルミが監督して主演したイタリー映画『刑事』の主題歌ふたつを、アリダ・ケッリという女性の歌で、聴くことが出来る。「映画サウンド・トラックより」とうたってある。映画の時代が日本で始まって間もなくの頃の、サウンドトラックだ。