第十九回:吉永小百合とマヒナ・スターズ
片岡義男『ドーナツを聴く』
Text & Photo:Yoshio Kataoka
ビームスが発行する文芸カルチャー誌 IN THE CITY で好評だった連載が復活。片岡義男が買って、撮って、考えた「ドーナツ盤(=7インチ・シングル)」との付き合いかた
一九六四年から一九六五年にかけて日本で市販されたシングル盤が十枚ある。吉永小百合と三田明の『若い二人の心斎橋』のB面は和田弘とマヒナ・スターズの『いとはん可愛いや』という歌だった。心に秘めたままけっして人には語らない、という意味で吉永が陰だとすると、いつでもOK、昼間でも来い、というかたちで、マヒナ・スターズは陽だったか、などと僕は考える。
題名が二十もある。小説を書くとしたらどの題名を使いますか、と訊かれたら、『お座敷小唄』かなあ、と僕は答える。『お座敷小唄』という題名で短編小説を書いてもいい、と僕は思う。小唄はいいとして、お座敷が問題だ、というようなところから物語を始めるのも悪くない。
二〇一五年に『たぶん、おそらく、きっとね』という小説を一冊の本として、中央公論新社から僕は刊行した。書き下ろし小説、と帯にうたってある。キャバレーのハウス・バンドでテナー・サックスを吹いている男性が主人公だった。その彼が電気ギターのリーダーから、今夜は女性の歌手がきて『お座敷小唄』を歌うけれど、なにか新しい歌詞があったほうがいいからお前すぐに作れ、と命令される。
その命令を受けて、主人公は『お座敷小唄』の新しい歌詞を、三つ作る。ここでその三つを披露しておこう。その小説のあらゆる部分を僕が書くのだから、『お座敷小唄』の新しい三つの歌詞も、僕が書いた。1、2、3と番号をつけておく。
1
歌はひばりかこまどりか
酒は人肌もう一本
つけて頂戴注いどくれ
酔えば天下は俺のもの。
2
いまは部長の下の下
月よ見ていろ俺だって
部長くらいにゃなれるはず
なれなきゃお月さん御免なさい。
3
東の空に陽が昇り
西のお空に陽が沈む
夜のあいだはこの私
あなたのハートを照らす月。
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