
宿泊学習_04:20
_宿泊学習。
それは学生において人生で1度は必ず経験するとされている学校行事の一貫。
よく知りもしないクラスメイトと班を組み、クラスメイトと同室で過ごし、眠り、朝を迎える。
勿論、寝室は同性と組む。
情が湧いた程度の関係しか築いていない人と組む。
国語や数学などの普段の授業を受けなくて済む!とこれを楽しみとしている方も居るだろう。
けれどわたしは、憂鬱でしかなかった。
そもそも何故定期テストまで1週間もないのに宿泊学習なんていうイベントがあるのだろう。
それが不思議でしかない。
丸1日ではなく、1日と半日。
その長い時間をクラスメイトという他人と過ごす。
眠る時も、食事の時も、恐らく、お風呂の時も。
こんな人とべったりくっつくことあるか?
そう思ってしまう。
ぼくはぼくに社会不適合感を感じてしまう。
髪を切ってから以前の数倍声をかけられるようになった。
その様子を一番近くで見ている友人の執着も強まった。
生憎その子とは同室同班。
きっと一日中手を繋がれたり抱きつかれたり、座った時は上に乗ってきたり乗らせてきたりするのだろう。教室という場所でないから、一層。
言っていた、『 宿泊学習の時は基本一緒に居れるね 』と。
そうだね。と笑って返したが内心複雑だった。
好いてくれる方が嫌われるより良い。
けれど執着は違うだろう。
“ 友達 ” の一線をいつか超えてきそうで怖かった。
ただでさえ距離が近いのだ。
もっと詰められると思うともっと自分に嘘をつかなくてはならない。
そこまで悩まなくてもいいだろ。
確かにそう思う。
けど、怖いじゃん。
お友達という関係なのに
普段から距離が近いのに
更に距離が縮まるなんて。
相手がどう思っているのかはわからないけれど
わたしは、これ以上近づいて欲しくない。
カタワレや兄弟だけが、わたしの、ぼくの、近くにいて欲しい。
人間不信、というのだろうか。
違う気もするが。
ある程度信頼があっても一緒に居たいとは思えない
当たり前だが、一緒に居たい。と思えないと
同じ空間にいてしんどくなる。
それが勘のいい相手だときっと気づかれてしまう。
長時間良い空気や雰囲気を保つのは難しいから。
「 どちらにせよ、行くしかない、よな 」
昨夜準備した荷物を横目に短パンと肌着、Tシャツを纏ったぼくは耳に刺したイヤホンから大きな音を流す。
好きな音、好きな声、好きな言葉。
それらを全て鼓膜に流し込む。
眠ることなくぼんやりと過ごす。
これが浪費だろう。少しでも勉強すればいいのに。
やる気は勿論起きない。
短パンを履いたことによって冷えた脚に布団を被せる。
暖かさが冷えた身体にはよく染み込む。
夏場に近しいのに寒いとジャージやトレーナーを着るぼくは、その感覚が何気に大好きだった。
現在AM4:00。
この駄文しか綴っていない小説を書き始めて30分近く経っている。
30分でこのクオリティ。
才能なんて言葉は欠片も似合わなくて。
自嘲するように笑う。
ふと嫌なことを思い出す。
昨日の夜、小学生の頃からの友人に「明日一緒に行こう」と言われたこと。
独りでいくよりはいいだろう。
それでも、なんとなくその子とは距離を置いていた
何故かはわからないけれど。
断ろうにも断れなくて、
『6:20に家出るけど大丈夫?』
と返信する。
数秒後にぽこっと狐のスタンプが返ってくる。
OK!と。
溜息が漏れる。
「 わたしの家からじゃ、6:20分にでたら35分には間に合わないっての、 」
愚痴を吐露した。
誰に聞かれているかも分からない愚痴。
ふっと笑い出す。
あはっ、と、いつも通り可笑しくなりそうな笑い声で。
次第に乾いた瞳に涙がたまる。
ぽたぽたと落ち始めたそれはどう言った感情なのかはわからない。
考えたくもない。
あーあ、なんでぼく、断れないし、言えないんだろ
冷えた気持ちでそう言い思い放つ。
後悔となって振りかぶってくるであろう事柄の数々
トラウマになりそうな、黒歴史になりそうなことの数々。
締まりの悪い言葉たち。
2日間近くは、愚痴なんてできないだろう。
何せ、スマートフォンの持ち込みは厳禁なのだから
…しにたいなあ、
ふと思う
そんな勇気、とうに朽ちているのに。
考え始めたらキリがないと思い、イヤホンをぎゅっと握り、音量を上げる。
痛いくらい響き渡る音には救われる。
虚無になっていても、やる気が起きなくても。
そう、痛くないとダメなんだ。
痛みが、痛感が、生きていると、感じさせてくれるのだから。
あと1時間。
あと1時間聞き流したら、準備をしよう。
眠ることなく浪費した数時間。
長いようで短かったその一時は夜に置いていこう。
朝方の陽の光に焼き尽くしてもらおう。
そう思い駄文を締めようとし、耳元で鳴り響く音達に集中した。
無事に乗り越えられますように。
そう願って。
…いきて、かえってこれますように。
愛する人たちの元へ、戻れるように。
逝かず、生きて。
還るのではなく、帰って。
ただいま、と笑えますように。
強く強く、望み。願い。
強く、冀った。