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吊_09/15

うとうととしながら薄い布団を結んで作った不格好なロープに首を通した。
飛び降りること以外死ぬ手段を取ろうと思えなかったぼくは過去の僕を切り捨てて衝動的に首吊りロープを作った。
理由としてはねむくて、ただしにたくて。
たったそれだけ。
推し様の首を絞めるというシチュエーションASMRを聴きながら自殺の真似事をしてた。
実際その音声動画は2022年…2年ほど前のもの。
探し出すのには少し苦労したけれど、胸の内にある気持ち悪さを消すにはこうするしか無かったのではないかと思ってしまったんだ。


しばらくASMRを聴いてこういうのだったなあ、と思い出す。
そして自分は愛に飢えていたのではないかと一瞬思う。
そんなわけないか、
一人きりの空間で首を振る。

もちろん死ねるなんて思ってない。
しねたら、なんていう中途半端な気持ちでやった。
なんでこんなことしてるんだろうとはぼんやりし始めた意識の中で何度か考えた。
地道にふわふわとしてくる身体と頭。
あー、そのまま、と笑いそうになった自分を押さえつける。

途中凄い音がした気がしたがそんな音には数秒程度の意識を向けすぐに自分の世界に戻った。
ぐわっ、とし始めた頃に動画が終わる。
そして眠気がぼくを襲った。
何も考えないで無造作に作られたロープから離れ、布団に横たわった。
謎の満足感と達成感を少し感じて息を吐く。
首はそこまで締めてない。
ちゃんと加減した。
だから生きてる。
生きてしまっている。

…ねむい。

ただこう、おもう。

死ねない
死なない
死ねない。

結論僕は意気地無しという所に間違いは無い。
だからもういいんだと思った。
身内に見つからないようお手製ロープを解いて元の姿に戻す。
そしてその布団ごと被って大きい息を思い切り吐いた。

うん


今日も死ななかったよ、ぼく。



誰に伝える訳も無くぽつりと声に出した。
そう、今日も死ななかった。
…死ねなかったから。

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