【映画鑑賞】今月のベストムービーはラストマイル(2024年8月 7本)
8月って何してたっけ?と手帳を遡っています。
8月は盆休みがありましたね。私はあいも変わらず「心と身体」について探求する事と映画とダンスに終始しております。
その内の「心」についてですがここ一年私は名越康文さんの心理学講座とそのお弟子さんの体癖論講座に多くの学びを得ています。その面では格段に成長しました。成長って言葉は殆どの人は仕事の成果など経済に結びつけて考えています。それについて疑問を持つ日々です。双方ともオンラインで1年くらい受けているのですが盆休みに東京の現地で講座を受けてきました。よくよく考えたら泊まりがけで行くってオンラインだったら涼しい部屋で快適に受けられるのにこの暑い最中新幹線で2時間かけて行くって阿保でしょ?でも行きたい!って言う自分の気持ちに正直になって行きました。この辺が対費用効果や世間常識、世間体を多少考慮に入れていた病気前の自分とは異なります。
でも行って良かった。そこまで両先生と深く交流できたわけではないのですが画面越しの向こう側を見るって感動でしたし色々発見がありました。体癖講座のオンライン画面が無茶苦茶デカくていつも画面オフ参加していたのごめんなさい!って思いましたね。いや先生が上目使いでチラチラどこかをみているのはわかっていたのですがああ、あれはこんなデッカい画面を見てたからなんやとか、いつも声だけ聞こえているあの人はこんな人なんや、とか。自分が2次元で見ていた世界が3次元になるって感動ですよ。とりあえず行って良かった、価値があったと感じた日々でした。
【第1位】ラストマイル
日本の社会派ドラマ。去年社会派ケン・ローチ監督が描いた「家族を想う時」と重なる。
ただこの作品は娯楽作品なので富裕層にあたる満島ひかるのキラキラファッションも前半では随時にあり目の保養になる。
恐らくAmazonから着想を得たDaily Fastで働くセンター長の舟渡エリナと梨本孔。デリファスで新販売されたスマホが突然爆発する。犯人は?どうやって?目的は?決して止める事を許されない物流。
自分が思うにAIやインターネットは人を豊かにしたのだろうか?と思う。効率化した結果全体としては平均としては潤っているのかもしれない。だがそのシステムの一部は動かしているのは人間である。疲れ知らずの機械とは違い、人間は過労により疲れ、壊れるのだ。それはこの映画の爆発音のように。
手段と目的を履き違えてはいけない。機械により便利になるって事はうかうかすると機械に使われることになる、と私は思う。
物流の機械に飛び降りる事で止めようとした山崎の誤算は人間は人の生命よりも会社組織の動きを止めない事を優先するのだ、という事だったのだ。それは2度の休職をした自分も同意する。会社の理念、言葉に気をつけないと飲み込まれるのだ。仕事に全身全霊捧げる事はこの映画で誰かが言うように「死んでも止めるな」という発想に繋がるのだ。
もう一つの要因はインターネットにより顔と顔を合わせなくて済む事になった。Daily fastのセンター長のエリカも下請け羊急便の八木も煩雑にやり取りするが顔を見合わせる事はない。それがストレスを増加させるのだ。そして昔は顧客の喜ぶ顔がラストワンマイルという運送業者の誇りとなっていたのだ。少しスピードを落とす事、顔を見合わせる事、そして明日への余剰を残す事。エリカが本社の責任者サリーに言い放ったように「爆弾はまだ残っている」のだ。その爆弾が爆発させない程度にお互いに支え合うしかない。仕事よりも人間を優先する事。
【第2位】うんこと死体の復権
人間は食って寝てウンコをしていれば生きていける。そのうち食べる事と睡眠は意識している人は多い。だが排泄に関しては無知である。これは盲点であると言う事に気付かされる。何故ならそれはタブーだからだ、気持ち悪いものであるからだ。食事中に食べる事や睡眠の話はしてもウンコの話はしない。
環境やSDGsを考える上でウンコの話は確かに丸ごと抜けている。野糞歴四半世紀に及ぶ伊沢さんは奇人、変人だが同時に途方もなく正直な人だ。ウンコがする事により活性化する虫がいて菌があり彼らによって無害化されたウンコは土壌を活性化させる。伊沢さんは「人間の生み出す最も価値のあるものはウンコではないか」とまで言い切ってしまっている。今のウンコは水洗で固めて何処かで焼かれている、そこにはぐるっと回って循環している流れを断ち切っている。この映画はウンコや死体の魅力や真実や力に気づいてしまった人の物語だ。この映画は確かに関野吉晴監督しか取れない学び大き作品だろう。
【第3位】ヴァタ〜箱あるいは〜
とても良い映画で監督の深い思索があちらこちらに見てとれた。だがこの作品のような良作品は一目に触れずに埋もれていく。マダガスガルの歴史、文化の深い理解、そして今の日本に必要なメッセージがてんこ盛りであった。
マダガスガルはアフリカの東洋とも言うべき国である。舞台挨拶した監督によると1700年程前にインドネシアから舟で渡ったのが祖先らしい。この映画は6年前に出稼ぎに出て亡くなった少女ニーナの骨を故郷に持ち帰り祖先になる為の物語である。その帰り道でのマダガスガル楽器による音楽が響き会う中、生けるものは死者と当然のように邂逅する。
ひょっとしたら文明の国日本には無くなった話だが昔の日本では死者との邂逅が当たり前だったのかもしれない。解像度をあえて落とした音楽、映像は逆にそこに魂みたいなものを浮かび上がらせる結果となっている。この映画のタイトルVATAはマダガスガル語で箱を意味するが地方によっては身体を意味するのだそうだ。
我々の身体は祖先から受け継いだ連綿とした生命の証をほんの一時期とどめておく箱に過ぎない。楽器という箱も連綿と受け継がれて来た音楽を虚空に響かせる箱に過ぎない。だがその両方には記憶がある。音楽を通して死者と邂逅できる。その神話のようなストーリーの中に死との向き合い方の一つの在り方が見えるのだ。
【第4位】時々私は考える
色々驚きがあった映画。アメリカの映画というよりは北欧の映画に見えた。スターウォーズのあの弾けるようなデイジー・リドリーがこんな植物的な中性的な女性を演じてしかも制作にも携わっているとは思わなかった。
この映画は地味である。2種体癖の女性の生活と恋愛の物語だ。場面はアメリカのオレゴン州の漁港街でのデイジー・リドリーが演じるフランの職場がメインとなる。彼女の職場の仲間も悪い人達はおらず適切な距離感とプライバシーの守られたオフィス作りになっている。そんな中でも引っ込み思案のフランは定年退職する女性へのサプライズパーティーに恐る恐る顔を出しケーキだけ取って自分の机に戻って食べる小動物ぷりがなんか良い。そんなデイジーの趣味は妄想。クレーンが倒れてきて巻き込まれたり、大蛇が事務所内に近づいていたり、海辺で自分が干からびているようなクレイジーな妄想をずっと繰り広げている。
ロバートという余り仕事が出来なさそうな禿げた髭面の映画好きの表面的にはナイスガイが新しく入ってくる。そこも北欧のアキカウリスマキみたいなコメディが繰り広げられる。自己紹介に好きな食べ物をいうとか、一緒に映画を観にいったロバートが明らかにテンションが上がっているのに「あの映画は嫌い」とあっさり言うフランとか雨ガッパを散々ディスるロバートに対し最後フランは「私は雨ガッパ好きよ」とバサっと切る。
盛り上がっているのか、惹かれあっているのかデートなんかわからん2人はホームパーティーに招かれて食事前に殺人事件をロールプレイングゲームをする事になる。7種系の陽キャってゲーム好きだよね。陰キャ的にはあんなゲーム嫌だなぁって思う。
ネガティヴ過ぎるフランに対しロバートは怒ってフランは家で泣く。それは乾いた大地に雨が降ったように思えた。そして晴れ上がったフランの顔には植物的な匂いが消え動物的な血が通った顔に変わっていた。脱皮したんだね。特に面白い事が起こってないのに決して退屈しない。観終わった後素敵やん、最高やんて思える映画だった。
【第5位】地球交響曲第7番
地球交響曲はここ数ヶ月観ているがこの7番は特別な回だった。高野孝子さん、グレッグレモンさん、アンドリュー・ワイル博士。
感じたのは男性性と女性性の融合の大切だ。それを自分の内部で成り立たせる事。高野孝子さんはグリーンランドという北極極地を4ヶ月で横断するという過酷な旅では「闘う力とともに受け入れていく力が大切だ」と仰った。グレッグ・レモンさんは1987年全身に散弾銃の弾を浴び瀬死の重傷を浴びる。その彼がたった2年後にツールズドフランスを制してしまう。それはリハビリを頑張ったという努力より受容していく力を増した意識変容によるものではないか。アンドリュー・ワイル博士も同様な事に仰っていた東洋医学にある薬草は様々な相反する作用がありそれが身体の知性に働きかけるのだという言い方をされていた。
東洋と西洋も結局は陰と陽だろう。高野さんが仰るように身体は通路なのだろう。どんなエネルギーを受けているのか敏感になる事。
高野さんは世界を飛び回る中で長野の家では畑を借りて昔ながらの田んぼの耕し方をしているのだそうだ。効率で大きな機械を使うと小さな生命は逃げる事が出来ないで多様性を失うそうだ。
グレッグ・レモンさんは撮影当時48歳という事であったが60歳くらいに見えた。肉体的なダメージはやはりあるのだろう。彼が弓道や神道など日本文化に本当に興味を持っている事が分かった。それは彼が生死を彷徨うような経験がある事と無関係ではないだろう。「自分の命など宇宙140億年のほんの一部に過ぎない」「成功は幸せの副産物の一部てしかない」アンドリュー・ワイル博士の自宅良いなぁ。アメリカのアリゾナ。祈りのストーンサークル。動的瞑想。ホリホックというコルテス島という統合施設。いつか行ってみたいですね。
【第6位】Mommy
世はお盆休み。この和歌山カレー毒物婚入事件を取り扱ったドキュメンタリー映画なんぞ予約なんかする必要なかろう、とたかを括ったらなんと生まれてはじめての立見だった。
和歌山毒物カレー事件は1998年。林真寿美容疑者の名前はきっとある程度の年齢なら誰もが知っている。オウム真理教が起こした地下鉄サリン事件1995年とともに20世紀末に起こった無差別テロとして脳に刻まれている。その目撃証言が如何に曖昧であるか、科学検証が如何に杜撰なものかが明らかになっている。林真寿美被告には2009年に死刑が求刑されている。
それが明らかになった後、余りにもモラルがない林家の実態が明らかになる。この家族は保険金詐欺家族だったそうだ。ヒ素を呑み入院し高度障害者になる事によって何億ものお金をせしめている。それをワイワイやるのが林家の日常だったということが林真寿美の夫と息子によって明らかになる。
「火のないところに煙はたたない」という諺がある。この家族にとって林真寿美被告が求刑されたのは必然だったのか、悲劇だったのか。そのモヤモヤを解消されないまま映画は終わった。
【第7位】Chime
怖い。45分という短さに助けられたのかもしれない。
チャイムはあんまり関係なくて音がこの映画を支配している。田代という松岡の料理教室に通う変わった男性が狂って自死をする。松岡の家庭は一見中流以上に見えるが大量の缶を捨て続ける奥さんや急に笑い出したり先輩の会社に20万投資したいという中学生の息子も怖い。
松岡も怖い。前触れもなく殺人&死体遺棄するし、彼が面接を受けているカフェで狂った男が殺人未遂をする。全ては関連しておらず、投げっぱなしで、最後まで回収されない。
そしてこの映画の短さも後から思うと怖い。