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#好き003 春琴抄

佐助、それはほんとうか、と春琴は一語を発し長い間黙然と沈思していた佐助はこの世に生れてから後にも先にもこの沈黙の数分間ほど楽しい時を生きたことがなかった。

この一文の不快感が何よりも印象的である。
今となってはマゾヒズムというものを認識し、谷崎潤一郎という作家を認識してしまっているため、これを不快とは感じることができなくなってしまったが、初めてこの作品を読んだ時、確かに驚きとともに不快な感情を覚えた。

佐助に感情移入し、一途で献身的な佐助に自分を重ね酔いしれ、春琴との関係が羨ましいとさえ感じ始めていた。この一文さえなければ、小悪魔的な春琴と、それを生涯支え続けた佐助との純愛物語で終わったのに、それをすべてをぶち壊し、かつ強烈な印象を私に刻みこんだ。


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