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成瀬あかりのお仲間たち

数年ぶりに会う中学生になった甥っ子への手土産の本を選んだ時の話。
自分の息子にも誕生日のたびに何冊かの本を選び、これまでに20冊ほどは贈ってきたが、私が知っている限り本人が読んだのは2冊だけ。

夏目漱石芥川龍之介レイチェルカーソンなど、新潮文庫の100冊から選んだり、星を継ぐもの電気羊などの定番のSFだったり、哲学や経済学や地政学や建築学やアートや法律や気候などに関する年相応の推薦図書だったり、自己啓発っぽい論理的思考とかレポート作成術みたいな実用書だったり、その時その時で私なりに真剣に調べて選んだつもりなのだが、とにかく刺さることなくひたすら積まれていった。興味を持って読了したのは「かがみの孤城」と「13歳からのアート思考」くらいだったと思う。そもそも本を選ぶこと自体がすでに楽しいので、結果的にそれが積まれていたとしても構わない。いつか読まれるかもしれないし。

さて、甥っ子の本選びについて、よそ様の家庭に老害をまき散らすのは本意ではないので、一冊は自分の息子にアドバイスを求め放課後ひとり同盟を選んだ。もう一冊は剣道部に所属しているという情報から、武士道シックスティーンを選んだ。ネットで買ってもよかったのだが、ジュンク堂で購入した。(ジュンク堂に立ち寄る口実に利用したというほうが正確かもしれない)

サイバーパンクなジュンク堂池袋本店

さてさて、プレゼントではあるけれどブックカバーがしてあるだけなので、渡すまでに時間があったから、自分でもしれっと読んでみる。どちらも漫画以上にスイスイと読める。読書ってこんなに楽しかったっけ?と思えるほどで、ようするにいつもは自分の知能に見合わない背伸びした本を読んでたみたい。放課後ひとり同盟はそれぞれ独立した物語の短編集なんだけど、それぞれのエピソードで登場人物が少しだけ被っていて、視点を切り替えて別々の物語が展開する構成が面白い。表紙の挿絵にもなっている一話目の物語の主人公は、それこそ成瀬あかりのような独特な風格と話し方をする快活な女子高生で、せっかく尖った面白キャラなのに、それ以降のエピソードに登場しなくなるのがもったいないと思った。武士道シックスティーンに関しても、主人公は五輪書を愛読する宮本武蔵マニアの剣道少女で、武士のような生き様をしたぶっ飛びキャラである。青春スポコン小説としてもとてもおもしろい。こんなにおもしろい作品でも本屋大賞にノミネートされないんだと思うと、私が知らいないだけで面白い作品を書く作家さんって沢山いるんだなと思った。ちなみに、息子から借りて「かがみの孤城」も読んだのだけど、こちらは児童文学といった感じでまぁまぁの印象だった。子供の頃に大好きだったドラえもんの大長編のような作品で、ナルニア国物語とかはてしない物語のファンタジー要素や、時をかける少女のようなタイムリープ要素や、他にもいろいろな名作の鉄板の要素をうまいことマッシュアップさせたような本だった。

甥っ子に選んだ本は、どちらもアマゾンレビューの評判がとても良く、武士道シックスティーンに関しては、漫画化もされているし実写映画化もされているようなので、私が知らなかっただけでとても有名な作品のようだ。成瀬は天下を取りにいくを読んだときには、ずいぶんと面白い本が出てきたもんだと思ったけど、放課後ひとり同盟武士道シックスティーンも、成瀬あかりと同人種の女の子が主人公であり、岩倉美津未も含め、これが現代風なんだなと思った。ピーチ姫だって冒険に行く時代だ、少なくともタッチ浅倉南や、ろくでなしBLUES七瀬千秋が時代錯誤なのは理解できる。あれはあれで良かったけれど、成瀬あかりのお仲間たちもとても魅力的だ。

武士道シックスティーンのカバーには、剣道少女のイラストが書かれている。これがまた成瀬あかりによく似ているなと思ったら、同じイラストレーターさんの絵だった。本の表紙に先入観を与えるイラストが描いてあるのが苦手だから、新潮文庫岩波文庫を好んでいるけど、こういった新書の楽しみ方もありなんだなと思えた。

甥っ子が読んでくれるかはしらんけど、成瀬あかりのお仲間たちに出会えて、すでに私が十二分に楽しませてもらいました。

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