#3 ローカルだから、カフェは面白い(1)
私は、富山県射水市を流れる内川のすぐ側にあるカフェ「uchikawa六角堂」を経営しています。今年でオープンして7年になりますが、年間2万人くらいのお客さんが訪れるカフェになりました。
移住した土地で、素敵な町並みと出会い、そこで見つけた築74年の空き家をリノベーション。なぜ、こんな田舎の片隅の漁師町でカフェをやろうと思ったのか、どれほどの勝算があったのかとよく聞かれます。
今まで新聞、雑誌、テレビなどのマスコミの取材では、読む人、観る人にわかりやすく伝わるため、あんまり面倒な説明をしてきませんでした。いつか、独占取材か何かで、自由に思いを語るチャンスが訪れたときに話そうと思っていました。
しかし、このコロナの影響によって、多くの飲食店や観光施設が大打撃を受け、これから店をどうしようかと悩んでいる方に向けて、私の経験や考えが少しでも参考になればと思い、この記事を書くことに決めました。
その前に、私の活動背景を知っていただいたうえで、本題のところに入っていこうと思います。
まちづくりのコンサルだった東京時代
多摩美術大学でプロダクトデザインを学んだあと、地方の活性化に取り組むシンクタンク(地域交流センター)に入社しました。ひらがなの「まちづくり」が当たり前のように使われる以前の頃、社会実験の思想や、「道の駅」制度の発想を生み出したNPO活動の老舗団体でした。
学生の頃、グッドデザイン商品選定制度の生みの親で、戦後日本のデザイン教育に力を入れた平野拓夫先生から色々なデザイン思想を学びました。その1つが「社会システムをデザインする仕事」という概念です。
その言葉が忘れられずに、「社会システムをデザインする仕事」にもっとも近い、当時としては珍しかった「まちづくり」のシンクタンクに就職しました。1996年のことです。
上の写真は、2004年にあった大水害で、河川のショートカット工事をしたことで生まれた敷地(新潟県長岡市と見附市にまたがる)を地域活性化の起爆剤とするための計画を練っている様子。市民参加のワークショップで、まちの未来を考え、それを計画し、市民が主体となり実行するというハードルの高い課題でした。市民ボトムアップ型の提案により、国や県を動かして「道の駅パティオにいがた」を整備しました。私はこのプロジェクトの総合コーディネーターです。
今で言う「地方創生」ですが、こういった分野を仕事にしている人たちの中で、私のようにデザインを勉強した若者が、異質な存在だったに違いありません。先輩たちは、社会学や理工学系の人が多く、今のように、まちづくりとデザインの親和性が市民権を得ている時代とは大きく違っていました。
北海道と沖縄を除く全国各地、津々浦々のまちに行きました。東京から電車を乗り継ぎ、何時間もかかる過疎地域にもよく行きました。
政府や自治体からの仕事が多く、観光や商店街、農業や環境など分野は様々で、その都度、その分野や地域のことを勉強し、まずは一升瓶片手に地元のコミュニティにダイブします。
ある程度の専門性は一緒にタッグを組む有識者に任せて、私たちは、プロジェクトのコーディネートに専念します。
よそ者かつ門外漢の人間が、自分なりの視点や切り口、アイデアを持って、地元の主体者と一緒に考え、計画し、実践します。このプロセスを通じて、多様な立場の利害関係や思惑をアウフヘーベンすることが理想です。
東京から来たよそ者が、その地域の関係者や市民の皆さんに受け入れてもらうまでが、一番大変な仕事でした。
合意形成ではなく、クリエイティブしたい
クライアントが私たちに期待することは大きく2つです。1つは「多様な考え、意見をまとめて大きな方向性を出す」もう1つは「実現可能な第一歩を踏み出す」です。
私たちは、基礎調査をもとに仮説を描き、そのプランを持って多くの人と一緒に、まちづくりの計画をワークショップや社会実験によって取りまとめていきます。そのプロセスが合意形成そのものとなります。
そういった仕事を約15年間に、200プロジェクトくらい担当しました。自分で営業も、取りまとめも出来るようになってからも、自分の仕事が地域のためになっているのだろうか、社会を豊かにする一助になっているのだろうかと、不安と疑問の毎日でした。
時々、「社会システムをデザインする仕事」という言葉が、ふと頭に浮かびます。そのたびに「それって、今の仕事で出来てる?」と自問自答します。出来ているかと言うと、出来ていません。
出来ていないと思う理由は、デザインは細部に至るこだわりの集積だと思っているからです。95%の完成をもってしても、エンジンは動かない、そんな感じです。私がある地域の仕事から去るとき、そのプロジェクトの地元関係者や参加した市民の皆さんの手に委ねることを意味します。それがいい意味で、よそ者の私が目指すべき仕事のあり方でした。
いい仕事が出来たとしても、いいデザインはできていない…。
さらに思うことは、その細部のデザインは、その地域に住み続けて、ずっと見守り、困ったときには手を貸し、協力できる人間でないと務まらないのだと。
私は、デザインがしたい。そう思って、地域のプレイヤーであり、地域課題に取り組むクリエーターである道を選び、妻の実家がある富山県に移住しました。
「まちづくり」への違和感
何かといいますと、ふわっと上からまとめる感じや、一致団結して大人数が動く感じが、どうも違うと言いますか、「まちづくり」を手法や行動に置き換えてしまった途端に、妙に違和感を覚えてしまいます。
個々の生活者が、自ら出来る最大限の社会貢献をすれば良くて、特別なことではありません。自分を犠牲にしてやるような活動でもありません。「まちづくり」は、無償ボランティアではありません。
大事なことは、自分が好きで、楽しく、やりがいを持って行動したことが、まちの活性化に貢献していた、、、という結果です。
私が考えるまちづくりの理想は、CSV(Creating Shared Value)という概念がぴったりとあてはまります。社会的な価値を創造する、という言い方をしますが、私と社会の良き関係づくりのほうが、地に足が付いた感じがしますね。
私が良いと思ってやったことが、結果的に社会に役立つ活動だった、という理解で良いと思います。今や多くの企業が、CSRからCSVへの発想転換をしています。日本にも「三方よし」という言葉がありますが、それに近いかもしれませんね。
これもまた、アウフヘーベンみたいなもので、社会的価値と企業的価値を抽象化させていくと、シェアできる価値が生まれてきます。もう、ネットの広告モデルがそのような形になっているはずです。
個の活動、企業の事業から生み出す社会的な価値
もう結論を言いますと、これなのです。私のやりたいことは、ふわっと上から被せる風呂敷のようなものでなく、既存のツールをインストールすることでもなく、皆で話し合って意見をまとめることでもありません。
自らの活動や事業が共感を生み、多くの人の豊かさに貢献することかなと思います。大学生のときに聞いた「社会システムをデザインする仕事」が、腑に落ちるまで約20年、随分と長い時間がかかりましたが、つまり「CSVのデザイン」なのかなというところに行きつきました。
ですから、富山に移住してやるべきことは、自らの事業をベースに、足元では地域の、広くは社会の貢献につながる事業をデザインすることです。
ふわふわ空気のように漂う事業ではなく、小さくても、ガツンと具体性のある杭を打ち、自分という人間の存在と、考えを表明していくことをしようと考えました。
移住して間もなく、何の心の準備もないまま、その場所が、ある日突然見つかってしまい、構想や戦略などを後回しにしてでも、ここを何とかしようという思いに駆られました。
2010年、富山県に移住して間もなく、妻に誘われて訪れた場所は、蛇行した川沿いに建ち並ぶ古い町家群の風景。そのまちの三叉路の角地に建っていた元畳屋さんだった空き家がここ。六角形の屋根の佇まいに一目惚れして、取り壊し寸前だった家屋を譲ってもらいました。
そういえば…、と思い出されるのは、東京時代の仕事です。地方の商店街をなんとか元気にしよう、という取り組みには、何度も関わりました。そういった仕事の中での私のこだわりは、1つでも良いから小さな活動や事業をやってみること、そこから得た体験を次に活かすこと、計画は雑でも良いから利用者の反応をより多く得ること、です。
コンサルであれば、一店舗、一店舗、店主さんに耳障りなアドバイスをするのかもしれませんが、それはよく言う「魚を与えるより、魚の釣り方を教える」ほうが良いというセオリーのように、何も意味をなさないように思います。
誰しも体験したことからしか、本質的なことを学べないですよね。私は、体験したからことから学ぼう、走りながら考えようという本当の意味を自分では、それこそ体験的に理解していなかったように思います。
商店街の皆さんが苦労していること、例えば、商品ラインナップとか、情報発信とか、商品棚のレイアウト、飾り方、ネーミングなど。ある程度のデザイン的な思考で客観的に見ているために、「あ、それ、もっとこうしたほうが良いのに」という気づきが沢山あるのです。
そういう体験を何度もしていると、もう自分で店やってみて、「はい、こちらが体験できるモデル店舗でございます」みたいにしたほうが良いのではないかと思ったのです。やってみたら違ったとか、思いもよらない結果になったとか。
その経験を経て、地方で自分がプレイヤーになるなら、まず何かの店を持とうという気持ちは固まっていました。
続きは、ローカルだから、カフェは面白い(2)へ
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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