小説 待ちわびたミステイク
「カルーアミルクと、ビールを下さい」
彼が店員さんに頼む。
「あと卵焼きとキムチ豆腐と、焼き鳥をタレでお願いします」
相談して決めたお品を続けて私が頼む。乾杯の前なのに、久々に会った彼の頬は薄っすら赤くほころんでみえる。
「見たことある店員さんだったね」と彼が言うので「うん、あの若い男の子、ずっと居てくれたんだね」と私は答える。仕事帰りに待ち合わせて、よく来た地下の居酒屋。最後に来たのは、パーテーションも消毒液も席に置いてない1月だった。
「こちらカルーアミルクでございます」
四角いお盆を持って現れた男の子は、カラメルが乳白色に溶けたようなグラスをカランと置く。
「ビールです」
続いて、並々ビールが注がれた大ジョッキをドンと置く。
「やっぱり、そうだよね」
男の子が去ってから私が言う。
「絶対、そうくるね」
彼が泡立つビールを前に、久々の苦笑い。
私達は、いつもそうだったように目の前に来た飲みものを交換し、「乾杯」と言ってグラスを小さく上げた。
時刻は8時をまわったようだ。小さな笑い声が離れた席から聞こえてくる。
この記事が参加している募集
ありがとうございます。励みになります。