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新しい学校教育 鈴木先生の1日

学校経営のあり方について、ふと思った。担任は担任、クラスをまとめる仕事に徹して、勉強を教えなければいいんじゃない?

例として○○小学校3年1組、鈴木先生(男30歳)の1日を追ってみよう。

鈴木先生は、小学校教員免許+担任特別免許を持っている。この担任特別免許は文部科学省が作った。特別な勉強、研修を終え、面接に合格した教員にのみ与えられる免許だ。クラス経営学、社会心理学、法学に長けている。

20XX年5月X日。朝の会で鈴木先生は出席をとり、今日1日の流れ、連絡事項などを話す。これは今とほぼ変わらない。しかし担任に特化したプロフェッショナルな教育を受けた鈴木先生は、出席をとる際、子どもの僅かな変化も見逃さない。

○△君は3日連続同じ服だ。あの袖の汚れは昨日の給食のカレー、洗った後もない。朝はいつも眠そうだし家庭環境が気になる。休み時間に、一緒に遊びながら話を聞いてみよう、などなど。子どもの様子から今自分がすべき行動を考え、実行するのだ。それができる能力と余裕が鈴木先生にはある。

1時間目は算数だ。3、4年生算数担当の五十嵐先生が教室に来る。ちなみに五十嵐先生は3年1組の副担任でもある。副担任に特別免許はいらない。

「キャー!!いがらしせんせいっー!!」

イケメンでまだ25歳と若い五十嵐先生は、女子に絶大な人気を誇る。男子には?もちろん人気。若いお兄さんはそれだけで憧れの対象。何より教え方がうまい。

「今日は分数の復習だぜぃ!みんな!ケーキは好きかー?」

「好きー!」

「じゃあ、これから皆にケーキをあげようじゃないか!おっと大変、5個しかないぜ!このホールケーキ!このクラスは30人もいるのに!」

そういうと五十嵐先生は、ノリノリでお手製の教材、丸いケーキを上からみたような絵をホワイトボードに貼り付ける。しかし絵がうますぎる。図工担当の吉田優子先生に描いてもらった可能性が高い。なにせ2人は……。

「さあ、これをどう分ければいいのかな?シンキングターイム!」

皆、一斉にノートを開き、図をかく、計算を始めるなどするが、4人程、全く鉛筆が進まない子どもがいる。鈴木先生はそれを見逃さない。そう、何と鈴木先生は、基本的にどの教科もサブで入っているのだ。4人のうち2人は鈴木先生のヒントで分かった様子。2人はヒントの意味すらわからない様だ。やはり掛け算、いや引き算からやり直す必要がある。後で五十嵐先生に相談してみよう、メモメモ。

2時間目は英語だが、担当の先生は妊娠3ヶ月目、悪阻がつらく4月からずっと休んでいる。なので鈴木先生が代わりに教鞭を取っている。発音が若干カタカナ英語であるが、専門外なのでここは仕方ない。

3時間目の音楽では、音楽担当の先生と一緒にピアノで連弾「ドラゴンクエスト ロトのテーマ」を披露。鈴木先生は音大のピアノ科出身で、ピアノを見ると弾かずにはいられない、どうしても出過ぎてしまうのだ。その辺りは気をつけた方が良さそうだ。

4時間目は生活。今日は花の観察だ。生物担当の先生と、皆を連れて中庭に行く。花を見つけて観察、各自、紙に絵や特徴を書く。おや、△□さんが一人でいる。こういう時、いつもは女子3人でいるのに。そういえば20分休み、校庭にはいなかったな。いつもは3人で縄跳びをしていたが。ちょっと様子を見てみよう。鈴木先生はこういった変化に敏感だ。

給食の時間。○△君はシチューをガツガツ食べ、2回もおかわり。「残ってるパン、全部持って帰っていいですか?」とも聞いてきた。やはりおかしい。20分休みに一緒にボールをした時は「大丈夫」と言っていたが、ネグレクトの可能性もある。確か6年生にお姉ちゃんがいた。後で担任の先生にお姉ちゃんの様子を聞いてみよう。鈴木先生の頭の中に、今日中にやることリスト1番に、この事項が加わった。

昼休み、五十嵐先生が教室の様子を見てくれる。束の間の休息、鈴木先生は音楽室でピアノを弾きまくる。吉田先生が「素敵な音色ですね」と聞きに来る。リズムをとり、長い髪が揺れる。石鹸の香りが漂う。昨日も、一昨日も聞きに来ていた。もしかして、オレのこと…。

なお、昼休みの前にあった掃除だが、今はプロの業者に任せている。よってトイレ、教室ともいつも綺麗なため、子ども達には綺麗に使おうという意識が高い。対処できない程に汚してしまった時は、ブザーを押せば清掃要員がくる。たまにミッキーの顔をモップで描いていく。

5時間目は道徳。唯一の、鈴木先生の担当科目だ。鈴木先生は教科書を開かず、ホワイトボードに一文を書く。

 みんなちがって、みんないい

「この言葉を知っている人はいるかな?」

皆、手元にあるタブレットを押す。イエス2人 ノー26人。

「何人か知っているようだ。発表してくれる人はいるかな?」

鈴木先生の呼びかけに、△□さんがおずおずと手を挙げる。

「金子みすずさんの詩に出てくる言葉です」

小さな声だが、皆に聞こえたようだ。

「そうだ、そして先生の好きな言葉だ」

鈴木先生は「わたしとことりとすずと」を朗読、解釈について力説する。そういうのを子どもに考えさせるのが「道徳」だが、時々子どもに問いかけながらも「一人一人違う良さがある。自分の良さ、友だちの良さを認めよう」と熱く語り、子どもたちもよく聞いていた。子どもというのは、自分が認める先生の話なら聞くのだ。

どこまで伝わったのかは分からない。ただ、帰りの会の後、今日ずっと一人でいた△□さんの席に2人が駆け寄っているのが見えた。

「△□ちゃん、ごめんね」「ごめんね、一緒に帰ろう」「……うん、いいよ」

そんなやりとりが、鈴木先生の耳にもうっすら聞こえてくる。良かった。

さあ、放課後だ。外部に頼んでいるので、部活動の担当はない。6年1組の担任を捕まえ○△君のお姉ちゃんの様子を聞こう。五十嵐先生にも同席してもらい、校長にも報告をしよう。それから、明日の図工の準備を手伝おう。吉田先生はきっと図工室にいる。今日こそ聞くのだ。「好きな曲教えてくれますか?家で練習してきます!」


おわり

この話は、下記の記事を受け書きました。極端かもしれませんが、全く出来ない話ではないと思います。人は財産。そこに税金を使って欲しいです。










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