小説noteでお花見 桜の下で
風がひとひらの花びらを運んできた。私は、髪に付いた桃色のそれを指でそっと摘む。指先に乗った桃色の花びら。懐かしいな。高校生だった頃を思い出す。
通っていた高校の校章は桜だった。2年生の時、塾で会った男の子に気づかれ、声をかけられた。私がおしとやかなお嬢様だと勘違いした彼。でも結構ガサツだって知ってからも、付き合い続けてくれたよね。2人とも芸術学部がある大学を目指して頑張ったけど、私だけ東京に出てきてしまった。地元より一足早い桜を、1人で見上げたっけ。
「せーんぱいっ。卒業おめでとうございます」
いつもの声に振り向いたら、カシャッ、不意に1枚撮られた。
「袴姿もアップの髪も、すごーく似合ってますよ!どこの女優かと思いました」
細身の身体に不釣り合いなスーツを着た彼が、おどけたように言う。
「ちゃんと撮れてるの?見せて」
近づいて覗きこもうとするも
「写真学科の腕を舐めんなよー」
後ずさりしながら、カシャカシャ撮り続ける彼。
まさか1年遅れで追ってくるとは。「どうしてもこの大学に通いたかったんだ」って言い張ってたけど、半分は私がいたからだよね?いまだに素直に認めないけど。
「あと1年がんばってプロのカメラマンになるんでしょ?」
「もちろん。そしたらどんな顔も撮らせてね、大女優さん!」
レンズから目を離した彼。優しく私だけを見つめる目。あの頃と何も変わってないね。
「当然でしょ!ここで学んだ演技力を、全国民に見せつけてやるんだから!」
そう言って、私は満開の桜を眺めた。
こちらのお題に参加させて頂きました。yuca.さん、素敵なお題をありがとうございます。
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