【科学エッセイ】数理最適化で改善できる課題
AIの発展が目覚ましい。
例えば、ChatGPTは、最強の文房具であり、DeepLは、美しい英語を綴る英文校正サービスである。
AIの発展に伴い、以下の推測・推定・推理結果が参考になったので紹介しておきます。
①読解力と母国語の能力の重要性が益々増すのではないか。
②座学の必要性が以前よりも更に増すのではないか。
③AIが登場して仕事が奪われるどころか、AIにより、ボトルネックが解消される過程で益々仕事が増えるのではないか。
④これまで以上に、人間には、泥臭い修行が求められて、仕事の量も桁違いに増えていくのではないか。
⑤AIは、人間の優秀さを適切に評価できる真贋鑑定装置だとも言え、プロと一般の差が明確化するのではないか。
⑥その過程で、この時代に生き残れるのは、以下の人間ではないか。
・コツコツと机に黙って座って勉強できる人間(机は、聖域。棚は、生きざま。)
・集中力の出力先を適切にコントロールできる人間
・類まれなる芸術的センスとそれをハイクオリティな完成品へと組み上げる執念を持つ人間
但し、⑥項は、今の時代の優秀な人間が、既に、持っているものでしかない様に思われます。
そう、AI時代が到来しても、結局、全てが何もかも同じで、変わらない可能性もゼロではないのかもしれません。
そこで、AIと並んで、今、注目されている数理最適化手法について、参考例を含めて簡単に紹介してみます。
まず、日本には、大学レベル、さらには、それ以上の数学を扱う一般向け月刊誌が「数学セミナー」、
「現代数学」、
「数理科学」と3種類も存在しています。
ずっと市場規模が大きいはずの英語圏において、これらの雑誌と対応するような雑誌類は無いようです。
そう考えると、日本で全国の普通の本屋で売っているような数学関係月刊誌が3種類も存在しているのは驚異的です。
以前、「数理科学」を定期購読していましたが、同雑誌は、1963年から現在まで刊行されている歴史ある月刊誌で、数学やそれに関連する記事を高校生からプロの研究者まで幅広い読者層に届けています。
さて、2015年頃、機械学習や深層学習を活用する動きが活発になり、如何にデータを活用するかこそが、今後のビジネスの勝敗を分ける鍵であるという認識が広がりました。
AIや機械学習は、未来の予測を立てるための手法であるのに対して、数理最適化は、どのように行動したらよいか計画策定・意思決定するための手法です。
しかし、AIや機械学習だけでは「どうすればよいのか」まで具体的な施策を検討することができません。
そのため、AIや機械学習でデータを導きだした後に、数理最適化で意思決定を支援するという流れです。
数理最適化は、問題の最適化を実現するための最適解を、問題の構造や数学的な性質に基づいて発見するという決定論的な手法です。
一方、AIや機械学習は、コンピュータシステムがデータからパターンや知識を学習し、未知のデータに対して予測を下す人工知能です。
つまり、数理最適化は、最適化問題の解を数学的に導くアプローチであり、AIや機械学習は、膨大な情報や経験からなる学習データに基づいて予測を行う人工知能です。
日常生活を例に挙げて説明すると、明日の降水確率を算出するのがAIや機械学習であり、傘を持って外出した方が良いかどうかを決めるのが数理最適化手法です。
ここで、数理最適化手法に依る課題解決と相性が良い業界・ビジネスは、以下の通りです。
1.輸送・物流業界
・輸送ルート最適化
・配送スケジュール最適化
・在庫最適化
2.製造業
・生産計画最適化
・生産ラインのスケジューリング最適化
・資源割り当て最適化
・品質管理最適化
3.エネルギー業界
・電力供給最適化
・発電スケジュール最適化
・エネルギーネットワークの最適設計
4.ロジスティクス業界
・倉庫配置最適化
・在庫最適化
・配送ルート最適化
5.航空業界
・航空機のスケジュール最適化
・機体割り当て最適化
・クルーのスケジューリング最適化
6.ファイナンス業界
・投資ポートフォリオ最適化
・リスク管理
・取引戦略の最適化
【参考記事①】
データをアクションにつなげる技術「数理最適化」とは?
https://www.brainpad.co.jp/doors/knowledge/01_mathematical_optimization/
【前編】数理最適化の新時代到来~最適化→予測でDXは加速する~
https://www.brainpad.co.jp/doors/knowledge/01_mathematical_optimization_dx_1/
【後編】数理最適化の新時代到来~最適化→予測でDXは加速する~
https://www.brainpad.co.jp/doors/knowledge/01_mathematical_optimization_dx_2/
この数理最適化手法の内、数理計画で扱う線形計画問題の最適解を求めるアルゴリズムであるシンプレックス法(「ピボット操作」により「基底解」を繰り返し更新して最適解を求める)をシステム開発に適用したことがあります。
1.数理計画問題とは?
・ 狭義には数理(数学)を使って計画を立てるための問題
・広義には与えられた評価尺度に関して最も良い解を求める問題(最適化問題)
2.数理計画で扱う基本的なモデル
・線形計画問題(線形最適化問題)
・ ネットワーク計画問題(ネットワーク最適化問題)
・非線形計画問題(非線形最適化問題)
・組合せ計画問題(組合せ最適化問題)
数理最適化とは、ある性質(制約条件)を満たすもの(解)の中である指標(目的関数)が最小あるいは最大となるもの(最適解)を求めるための数理工学的方法論を指しており、最尤推定(※1)など統計数理に関する応用も枚挙に暇がない状況です。
※1印:
既知の観測データをもとに、そのデータが得られる確率が最大となるような母数の値を推定する手法です。
推定統計では一番よく使われる推定値算出方法です。
そして、数理最適化は、ある意味で悪魔の証明との戦いといえます。
悪魔の証明とは、もともと所有権帰属の証明の困難性を比喩的に表現した言葉だったようです。
今では、消極的事実の証明の困難性を表しています。
通常、事実の有無の証明が問題になる場合、「ある」(積極的事実)という証明は難しいのですが、「ない」(消極的事実)という証明をすることは著しく困難、あるいは不可能です。
言い換えると、ある解が最適解であるという命題は、本質的には、制約条件を満たす解には、その解より目的関数を良くするものは存在しないという消極的事実です。
一般に「ない」ということを証明することを悪魔の証明といわれています。
制約条件を満たす解が有限個であれば、すべての解を列挙し、各々について目的関数の値を計算すればよいようにも考えられます。
しかしながら、この方法では、問題が大きくなると、現実的な計算時間では不可能になります。
このような現象は、しばしば組合せ爆発(※2)とも呼ばれています。
※2印:
コンピューターの計算理論において、問題を解く上で必要な条件や要素の組み合わせが増加することにより、計算量の爆発を伴うこと。
計算時間が問題の規模の指数関数または階乗に比例して大きくなるため、事実上、有限時間内で解けなくなる場合がある。
悪魔の証明は、この組合せの爆発内に隠れた悪魔を探し出す行為とも言えます。
また、制約条件を満たす解が無限にある場合は、そもそもすべての解を列挙することすら不可能です。
ところが面白いことに、問題がよい性質をもつ場合や、なんらかの仮定のもとでは、最適性の証明が可能となる場合があります。
例えば、凸性(※3)や制約想定(※4)等のもとでは、最適性条件を満たすラグランジュ乗数を見つけることができれば、それが、今、着目している解が最適解であることの証拠(悪魔の証明)となっていると言えます。
※印:
※3:凸最適化とは、最適化問題の分野のひとつで、凸集合上の凸関数の最小化問題である。
※4:微分可能な関数からなる非線形計画問題において、KKT 条件(※5)が最適性の必要条件となることを保証するための条件のこと。
※5:クーン・タッカーの必要条件(Karusch-Kuhn-Tucker necessary conditions)とは、不等式を含んだ制約条件において、最大値や最小値が存在するための条件である。
なお、ラグランジュの未定乗数法 (Lagrange multiplier) は、多変数関数における条件つき極値問題を解く方法を指しています。
確かに、例えば「地球上に未確認生物はいる」という命題を証明するためには、実際に、未確認生物を見つければよいのに対し、「地球上に未確認生物はいない」という命題を証明することは難しい問題です。
どんなに探しても見つからないという悪魔の証明に対しては、探し方が悪いせいだという反論の余地が有るのも事実ですが、視点や発想を変える事で、悪魔の証明を解き明かせる可能性がゼロではないことは面白いですね(^^)
【参考記事②】
ラグランジュの未定乗数法と例題
https://manabitimes.jp/math/879
高校数学の美しい物語
https://manabitimes.jp/math
【参考資料】
「変化の激しい分野で最先端の情報を追いかけることを続けていると、自然と書物から遠ざかることになる。
査読から出版されるまでのタイムラグを待てず、論文すら遅く感じてしまい、他の手段に頼ることが多くなる。
ネオマニー(新しいものへの熱狂)に浸りきるならますます書物は不要の存在に思えてくるだろう。
しかし過去とは、二度と省みられない廃棄物なのではない。
それは我々の現在を支える大地なのだ。
焦りに我を失い、浮わついた自身に気付いた時、自分がどこへ向かっているのかさえ見失った時、再び現在という地表を踏みしめるために、書物の遅さ・変わらなさは救いとなり恵みとなる。
ある部分で未来を追い求めていても、それ以外の部分では、人は旧態依然とした存在にとどまらざるを得ない。
書物は、人の改訂されざる部分を、静かにいつまでも待っていてくれる。」(「独学大全」からの引用)
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