【課題演習】電磁波とは?
ある有名な会社の入社試験で、次のような問題が出題されました。
「1本の電線に電流が流れた時、この電線から電波が放射されることを、中学生にもわかるように簡単に説明しないさい。」
一見、易しそうな問題ですが、これは、非常に難しい問題です。
電波やアンテナの専門書には、多くの数式が出てきますが、中学生には、数式を使わないで説明しなくてはなりません。
電波やアンテナが本当に解っているならば、数式を使わないで説明できるはずです。
この課題によって、我々の周りにある、色々な”波”についての共通の性質と異なる性質に慣れることにより、理解の一歩を踏み出すことを目的としています。
そこで、上述の問題に対する解答例を以下に説明してみたいと思います。
【解答例】
「電線に電流が流れることは、電線の中で電子が動くことである。
電線は、両端が切れているから、電流は直流ではなく、電子が電線の方向に振動している電流である。
直流が流れるためには、導線が閉じてループになっていなければならないからである。
これは、金属の棒など弾性体の各部分が棒の方向に振動しているのと同じ現象と考えることができる。
例えば、導管を縦笛の様に吹いた場合、振動している棒から音が聞こえる。
これは、音が、この棒から出て空気中を伝わり耳まで到達したからである。
この様に、棒の振動が空気中の振動となって伝わる事が放射である。
電気の場合も、まったく同じであり、電子の振動が空気中に電気的な振動となって伝わるのが電波の放射である。
電波の放射は、電波が放射されない場合を考えると分かり易い。
例えば、送電線等の電線に電流が流れているのに電波が放射されないのは、直線の電線が無限に長い場合で有り、無限に長い直線の棒が、棒の方向に振動しても音が聞こえないのと同じである。
しかし、電線を曲げると、そこから電波が放射されるため、電波の放射を抑えることの方がむしろ難しい問題となる。」
以上が、易しく表現した解答例ですが、これでも、まだまだ、難しいと推察されます。
やはり、電磁波が本当に解るためには、どうしても電気力線と磁力線を解る必要があります。
これを頭の中に描けるようになれば、目に見えない電磁波が”見えてくる”はずです。
【参考記事】
「電波」と「電磁波」のちがい
https://www.arib-emf.org/01denpa/denpa01-02.html
【電磁波の基礎知識】
電子の持っている電荷は電界を作ります。
これが移動する(電流が流れる)とその周りに磁界を発生させます。
電荷が一定方向に移動するのが、直流で、電荷が行き来するのが 交流ですが、交流では電流が変化すると磁界も変化し、 この磁界の変化は変化する電界を発生させ、電界の変化は変化する磁界を発生させます。
このように連続した変化が有限な速度(光速)で伝わるのが電磁波です。
電磁波は真空中を光速で伝わる波で、電波や光も電磁波です。
1864年にジェームズ・クラーク・マクスウェルが、電磁波の存在を理論的に予言し、 それを1888年にハインリヒ・ヘルツが実験的に発見しました。
1897年にマルコニー(Guglielmo Marconi)ウェイトのアイスルから20マイル離れたプールまで無線通信に成功しました。
電磁波は、電磁放射(electromagnetic radiation)ともいいます。
【マクスウエルの方程式とはなにか】
全ての電磁気現象はマクスウェル方程式によって理論的に説明されます。
電磁気現象の中でも、マクスウェルを世に知らしめたのは、電磁波の予言と、その理論的伝播速度が実験的に得られた光の速度(光速)と一致していたので、光も電磁波の一種であると予言したことです。
ところがその電磁波の理論的伝播速度が大問題になったのです。
どうして大問題なのかというと、その光(電磁波)の速度は、ニュートン的な速度(例 音の伝播速度では空気を媒介して圧力が伝わることから、媒質である空気が移動していると音の伝播速度も変化する)というものではないからなのです。
そのために電磁波の伝播媒質としてエーテルを想定し、電磁波の伝播速度はそのエーテルに対しての速度だろうということでエーテル論が出たのですが、理論的にも実験的にも全て否定的なものでした。
マクスウェル方程式から得られる真空中の光の速度は、定数である真空中の透磁率と誘電率から決定されます。
従って、真空中の光の速度も定数(媒質の速度の影響を受けない)でなければなりません。
いよいよニュートンの法則に翳りが見え始めてくることになり、20世紀最大の理論の一つである相対論が生まれるきっかけがここにあったのです。
第1式 電場(電界)の源は電荷である。
(上から一枚目の図を参照。)
E は電場(単位は V/m)、ρ は電荷密度、e0 (≒ 8.854 pF/m)は真空の誘電率、電場は電荷から放射状に出ている。
第2式 磁場(磁界)には源がない。
(上から二枚目の図を参照。)
B は磁束密度(単位はWb/m2)、磁荷(単磁極、モノポール)というものはなく磁場はループ状になっている。
第3式 磁場の時間変化が電場を生む(電磁誘導)。
(上から三枚目の図を参照。)
t は時間
第4式 電流、電場の変化(変位電流)が磁場を生む。
(上から四枚目の図を参照。)
J は電流密度(A/m2)真空の透磁率 μ0 = 4π×10-7乗 W/Am
というような実験的事実を数学的に方程式という形にしたものがマクスウェル方程式です。
電場の変化による変位電流によっても磁場が発生することをアンペールの法則に付加えたので、アンペールの法則は、アンペール・マクスウェルの法則と呼ばれています。
第1、2式では、電場は電荷から放射状に出ていますが、磁力線はどこかを起点とすることも終点とすることもできないことから、閉曲線でなければならなりません。
これは磁気単極子(モノポール)が存在しないことを前提にしています。
モノポールの存在は現在確認されていませんが、将来その存在が確認されれば、第2式の右辺は磁荷密度を真空中の透磁率で割ったものになります。
第3、4式では、電流、電場の変化(変位電流)が磁場を生み、磁場の変化が電場を作り、電場の変化による変位電流によっても磁場が発生することから、電磁波の存在を示唆しています。
このように、 全ての電磁気現象はマクスウェル方程式によって理論的に説明されます。
【電磁波の伝播と光速とはなにか】
マクスウェルの方程式から、電磁場の伝播速度(真空中の光の速度)は次の関係で与えられます。
電磁波の速度を表わす定数 c が光速に一致するという事実により、マクスウェルは光が電磁波の一種であると予言していました。
この式は真空中の光の速度は定数である真空中の透磁率と誘電率から決定されることから、真空中の光の速度も定数です。
ヘルツによってそれが実証された当時は、電磁波が存在することは、電磁波を伝達する媒体であるエーテルが存在しなければならないとする考え方があり、エーテルの存在が証明されたと理解されたのですが、マイケルソン・モーリの実験、 その後の、ローレンツによる慣性系(一定の速度で移動する空間)においても光の速度は変わらないことが示されると、この式が示している光速が不変であることが事実であると認めざるを得なくなり、これをきっかけにして20世紀最大の物理学上の発見であるアインシュタインの特殊相対性理論へと大きく発展していきました。