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【本棚のある生活+α】2024年5月に読んで面白かった本

昨年(2023年度)から、思い付きで始めた月イチペースで、面白かった本と見応えがあった映画を、ご紹介してきました。

「騙されたとおもっていっぺん騙されて新潮文庫の紐は甘いよ」(西村曜)

そう言えば、本についているスピンと呼ばれるあの紐は、現代では、新潮文庫の本にしかついていません。

また、天アンカットというのは、天小口と呼ばれる本の上部をわざと切り揃えない手法のこと。

ギザギザして不揃いなうえにコストも手間もかかるのですが、そこには、本へのロマンが隠されているんですよ(^^)

元来、ヨーロッパの製本は、

「フランス装」

と言い、紙を折ったまま閉じる形になっていて、ペーパーナイフで切ることで、読むことができるようになっていました。

それで、読み終わったら、自分好みの豪華なものに、製本し直すという風習があったそうです。

天アンカットは、そのなごりというわけです。

さて、新潮文庫は、前述のスピン同様に、天アンカットにもこだわっていて、スピンもちゃんとあるし、全て、天アンカットになっています。

そう、アナログには、アナログなりのノスタルジアな奥深さがあるんだよね(^^)

そこで、岩波書店で、40年、本作りに携わった人が説く「本の正しい扱い方」を紹介しておきますね。

1.本の開き方

新しい本を開く場合に、よくいきなり強く開く人があるがそれはダメです。

開かない本でも、開く本でも、このような本の開き方をしますと、本の背貼りが完全にやられてしまう。

かがり糸がゆるんで、折り丁がずり出てこわれてしまう。

そこで、最初に本を開く場合には、机の上かやわらかいものの上に静かにおき、まず双方の表紙をのど元まで開くようにする。

次に本文を前から十ページぐらいめくり、のど元まで開いてから指先で軽くおさえ、また、巻末の方から同じように十ページぐらいをめくって、のど元まで開いてから指先で軽くおさえるようにします。

このようなことを本の中央まで交互に二、三回ずつくり返しますと、本が開きやすくなります。

現在の本の中には、用紙の選択や背加工の工夫によって、開きやすいようにつくられているものもありますが、出版物全般からみますと、まだまだ開きの悪い本が大部分を占めています。

したがって、新しい本を開く場合には、以上のような注意を忘れないようにしてほしいと思います。

2.本の読み方

さいきん、本製本を二つ折りにして読んでいる乱暴な本の扱い方をよくみかけます。

普通、本を読むためには、一八〇度開けば十分であり、本はその読み得る状態を考えてつくられています。

本は金属などでできていませんから、常識をこえた本の読み方をしないように心掛けるべきであります。

また、週刊誌でも持つようなつもりで、書籍を丸めて持ち歩いているのをみかけることがありますが、これなども本の限度をこえた扱いであり、本をつくる立場からしますと、ぜひやめてほしいことの一つです。

3.ページのめくり方

本を読み進めるためにページをめくるには、天(上部)を軽くめくるというのが、正しいめくり方とされています。

しかし、大部分の人びとは、下部をつまんでめくるように習慣づけられています。

下部をつまんで乱暴にめくると、とじ糸がゆるみやすく、ページが折れ込んだりする場合もあって、本の保存力を著しく弱めることになります。

しかし、注意してめくれば、一般にはそれほど影響がないものです。

また、指先につばをつけてめくることや、読みさしのページの小口を折っておくようなことは、本のためにやめてもらいたいことであります。

そのほか、読書をする前後に、手を洗うという習慣をぜひつけておきたいものであります。

4.函の出し入れ

函から本を出す方法にはいろいろありますが、手づかみで函の中の本を出そうとすると、かえって本が出なくなるものです。

そこで、机の上か膝の上に本の背をのせ、静かに函を上に抜くようにしますと、楽に抜き出すことができます。

また、函に収める場合には、まず函の下部と本の下部とを合わせるようにしてから、函の頭の方から本を入れるようにすれば、スムースに本を収めることができます。

このようなことは、一寸した工夫でありますが、知っておきたい本の扱い方であります。

5.本の保存

書架に収めるというのが本の普通の保存の仕方でありますが、この場合、出し入れも容易にできないほどぎっしりつめることは、相互の本をいためることになります。

本は楽に出し入れできる程度にならべるのが、適切な収め方であります。

また、大きな本や重い本・厚い本につきましては、無理に書架に収めるよりは、机の上か手ごろの場所に平積みしておく方が、本の保存の上からいってもよいことであります。

また、本自体の保存の上で、とくに問題になりますのが、革製の本であります。

革の場合には、油気がなくなりますとボロボロになってしまいます。

革の防腐剤としては、卵白液やワセリンまたはパラフィンなどをベンジンにとかしたものが使われます。

これらを、五、六年ごとに塗るようにしますと、革の質をそこなうことなく、いつも生き生きとした感じを保つことができます。

なお、革類にかびが生じた場合には、まずきれいな布片でふき、かびのために生じた斑点は稀薄なアルコール液でふきとるようにします。

そして、アルコールが乾いたら脱脂綿か柔かい布で、革の細孔にワセリンを塗り込むようにすることです。

ということで、2024年5月に読めた本の中から、特に面白かった本(1冊)のご紹介です。


【特に面白かった本】

「アメリカは自己啓発本でできている」尾崎俊介(著)

この本を読んでみて知ったのですが、意外なことに、

「自己啓発本」

がジャンルとして確立しているのは、

「米国と日本くらい」

なのだそうです(^^;

その成立の過程を、紐解きながら、ベストセラーを軸に、米国で、どのように読み継がれ、広がってきたかを探ったのが本書です。

ここで、NHKラジオで、本書に関する著者の尾崎俊介さんが話をしていたので、紹介しておきますね。

■アメリカ文学者、自己啓発本のとりこになる
――尾崎さんの本業はアメリカ文学者ですが、本の冒頭には「俺は日本一の自己啓発本研究者になる」との宣言が載せられています。
自己啓発本のどんなところに魅力を感じているんでしょうか。
尾崎:
私も研究を始める前までは読んだことがなかったんです。
先入観なしに読み始めたところ、確かにインチキくさいもの、安易なノウハウ本があることもわかりました。
しかし全体として見ますと、自己啓発本という世界には1本の筋が通っていました。
それは「運命なんていうものはない。あるのは一瞬一瞬の選択肢だけだ」という考え方なんですね。
これは、世のすべての自己啓発本が異口同音に主張していることだと思います。
つまり、人は生きていく中で常に選択肢にさらされているわけです。
例えば仕事から家に帰って夕食を食べたあと、本を読んで勉強するか、テレビを見ながらグダグダするかという選択肢に迫られるわけです。そのどちらを選んだかによって、あなたの人生のその先が決まってくる。
だから自覚しているかいないかは別として、人は常に自分の未来を自ら選択しているのだという、これが世のすべての自己啓発本が言わんとするところなんです。
この考え方を知って、私は非常にびっくりしました。
またそれと同時に、もしそれが真実であるならば、私自身も自分の人生を運命に任せないで、自覚的に主体的に選択して自分の人生を切り開いてみようというふうに思ったんですね。
そういうふうに決意したことによって、私の人生はいいほうに変わったと思います。
そういう感覚、手応えがあるものですから、私は自己啓発本のとりこになりまして、なんとか多くの人に読んでもらいたいなと決意した。
そんな感じなんです。

■自助努力系の『フランクリン自伝』
――この本では、“自己啓発本、発祥の地”とされるアメリカの作品が列挙されています。
冒頭を飾るのが、100ドル札の顔となっている18世紀を生きたアメリカ建国の父、ベンジャミン・フランクリンの自伝です。
尾崎さんはこれを世界初の自己啓発本として、「努力すれば成功できる」という、今も続く自己啓発本の一大ジャンルを築いた、というふうに書いています。
『フランクリン自伝』はどんな点で重要だと言えますか。
尾崎:
ベンジャミン・フランクリンというのは18世紀の人で、どちらかと言いますと貧しい家庭の出身なんです。
でも彼はそれを運命とは捉えなかった。
自分自身の才覚と不断の努力で自分の人生を切り開き、アメリカがイギリスから独立する際にも非常に大きな貢献をして、「アメリカ建国の父祖」と呼ばれるようになりました。
ですから彼が晩年に自伝を書いて、自分がどうやって一庶民から国の重要人物にまで成り上がったかを記したときに、人はそれを立身出世のノウハウ集として読んだんです。
ですからフランクリンの自伝は、アメリカ初、それから世界初の自己啓発本という位置付けになっているわけです。
肝心の中身ですけれど、フランクリンは若いときに、勤勉とか節制、誠実といった徳目を13個、自分に課しまして、これらの徳目をマスターすることを心がけたんです。
その結果として、立身出世ができたと自伝の中に書いているわけです。人格を高めれば立身出世できるという考え方は、自己啓発思想の中でも人格主義と呼ばれているんですけれども、フランクリンの自伝以降、人格主義の伝統は今日まで続いて、1つの大きな流れを作っているんです。
例えば、日本で今でも人気のコヴィーという人が書いた『7つの習慣』という自己啓発本がありますけれども、フランクリンの自伝の伝統をくんだ、人格主義にもとづく自己啓発本だと言っていいと思います。
――「自助努力系」自己啓発本という言い方もされていますね。
尾崎:
そうですね。

■引き寄せ系の『「原因」と「結果」の法則』
――そしてジェームズ・アレンの『「原因」と「結果」の法則』です。
ここで説かれているのは「努力しなくても、こうなりたいと思えば、なれる」です。
尾崎さんは、夢と現実がイコールというのはとんだお戯れだとしながらも、こうした思想を「引き寄せ系」として、フランクリンが作った「自助努力系」と並ぶ自己啓発本のジャンルだと指摘していますね。
尾崎:
確かにジェームズ・アレンの『「原因」と「結果」の法則』という本を読みますと、「夢というのは心に強く願うだけでかなう」なんてことが書かれているものですから、最初読むとびっくりしちゃうんです、本当かなぁ、なんてね。
でもよく考えてみますと、そういうことは実際にあるわけです。
例えば今アメリカの大リーグで活躍している大谷翔平選手だって、恐らく子どものころから野球が好きで、どうやったら野球がうまくなるのか、ずっと考え続けてきたと思うんです。
常に心の中に抱いてきたことが、現在の大谷選手の活躍を支えているのだとすれば、確かに心に強く願ったことは実現すると、言えるわけです。

何か大きなことを成し遂げるためには、まず自分の心の中にしっかりとした目標、ビジョンと言ってもいいと思いますが、それを持つことが重要であるという考え方、これを自己啓発本の世界では「引き寄せの法則」と呼びます。
強い思いが現実を引き寄せるということですけれども、この引き寄せの法則という考え方は、ベンジャミン・フランクリンの人格主義と並ぶ、自己啓発思想史上の2大潮流となっています。
その意味で、ジェームズ・アレンの『「原因」と「結果」の法則』は引き寄せ系自己啓発本の代表作の1つと言っていいんじゃないかと思います。

■行き過ぎたポジティブ・シンキング
――続いて、自己啓発本の重要な要素としてある「ポジティブ・シンキング」については、1998年発表の世界的ベストセラー、スペンサー・ジョンソンの『チーズはどこへ消えた?』が取り上げられています。ただ、ほどなくしてこの本に端を発したポジティブ万能主義は批判的に捉えられるようになりました。これにはどういう経緯があったんでしょう。
尾崎:
この本は非常に売れたんですけれども、これは一種のぐう話でありまして、チーズというのは要するに幸福の言いかえですね。人間は一度つかんだ幸福を失うとがっかりしてしまって、先に進めなくなることがよくあるわけです。けれどもそれではいけない。立ち止まっていないで、次の新しいチーズ、新しい幸福を探すために行動を起こしなさいと、この本は言っているわけです。過去のことにこだわらず常に前に進めと言っていますから、この本はポジティブさの重要性を説いているとしてすごく売れました。2800万部も売れたと言われていますね。
この本が売れたこともありまして、20世紀の終わり頃から21世紀初頭にかけてのアメリカには、ポジティブ全盛時代というのがやってまいります。ポジティブでありさえすれば、すべての問題は解決するという考え方がまん延するんです。でもそうなるとそれはそれで不都合なこともありまして、例えば重い病気にかかったときでも、くよくよしないで病気にかかったことをポジティブに捉えて、むしろ感謝しなければいけない、などということを言われるようになってしまいました。
こういうちょっと行き過ぎた、ポジティブ主義と言いますかアメリカの社会風潮に対して、バーバラ・エーレンライクという人が批判の声を上げます。ポジティブであることは確かによい面もあるけれど、ポジティブ礼賛が度を越すと、“ポジティブ病”になってしまう。“病気”ですよね。そんなふうに主張したんです。私も、エーレンライクの批判は当たっていると思います。今、『チーズはどこへ消えた?』のブームが一段落しているのは、このような批判があったからだと思います。いずれにせよ、行き過ぎはよくないということですよね。

■不遇な自己啓発本の伝道師として
――尾崎さんは、自己啓発本がさらされている不遇を吐露して本をしめくくっています。どういった不遇を問題視していますか。
尾崎:
最初に言いましたように、自己啓発本には、玉石混交と言いますか優れたものもあればあまり優れていないものもあるんです。だけどそれを言ったら、人間社会にあるものはすべて玉石混交なわけでありまして、例えばおいしいレストランもあれば必ずしもそうでもないレストランもあるし、非常に腕のいいお医者さんもいれば、ちょっと感じの悪いお医者さんもいたりしますよね。それと同じように、自己啓発本にも確かにいいものと悪いものがあるんです。
ただ、自己啓発本に関して言いますと、1冊のよくない自己啓発本を読んだ人がすっかり嫌になってしまって、自己啓発本の世界そのものを全否定してしまうことがあるわけです。これは他の世界ではあまりないことでありまして、例えば、1人、感じのよくないお医者さんに当たったからといって、医療のすべてを否定してしまうことはありませんよね。玉石混交といっても、普通、人は全否定はしないわけです。ですから私は自己啓発本の研究者として、また1人の愛読者として、玉石混交の玉に当たるような優れた自己啓発本をえりすぐって紹介し、1人でも多くの読者の方にそのすばらしさをお伝えできるような、自己啓発本の伝道師的な仕事を今後していきたいなと考えております。
――『アメリカは自己啓発本でできている』の著者・尾崎俊介さんでした。尾崎さん、ありがとうございました。
尾崎:
ありがとうございました。

確かに、米国で「建国の父」の一人に数えられる思想家フランクリンの「自伝」は、節制や規律、勤勉等、13の徳目を訴えた世界初の自己啓発本とされています。

この自助努力の思想こそが、

「19世紀から現代にいたる米国の発展と繁栄に重要な役割を果たし、その後の自己啓発本の原点になった」

とみなせて、やがて、社会が成熟すると、立身出世を目指すためではない、オルタナティブな生き方を説いた自己啓発本も登場することに。

例えば、米国文学の傑作であるソローのエッセー「森の生活」は、

「森の生活 上 ウォールデン」(岩波文庫)H.D. ソロー(著)飯田実(訳)

「森の生活 下 ウォールデン」(岩波文庫)H.D. ソロー(著)飯田実(訳)

「世間の評価から離れて、“シンプルな豊かさ”を勧めた本」

でしたね。

1960年代以降は、女性の社会参加の拡大と軌を一にして、女性向けの自己啓発本が増加していきます。

90年代には、スポーツのコーチングを応用した本も人気を博する等、その時代のニーズに応じて、種類も多様化していましたね。

ただ、この記事にある通り、本の読み方に注意すれば、さほど問題にはならないと考えています。

みなさんは、どういうふうに読書していますか?

本のジャンルによっても、読書の方法は、違うと思うのですが、例えば、小説以外の専門書や自己啓発の本を読む時、本を読んでいたのではなく、実は読まされていたのではないかと思うことってないでしょうか。

何を読んでも、その時は没頭して、筆者の云わんとしている事を理解していたつもりだったはずなのに、読んだ後は、なるほどと思うのですが、結局、読んだという事実しか残らず、後には、何が言いたかったのかも忘れていることが、多かったことってないでしょうか?

私自身、自分の記憶力の無さを痛感した時期もありました。

もしかすると、あの頃は、読むことに意義があっただけなのかもしれないって、ちょっと反省したりもしています(^^;

このことを色々分析してみると、本の内容を把握していないのは、実は、記憶力や理解力の無さだけの問題ではなくて、実は、本の読み方が悪かったことに気づきました。

それは、自分の頭が良くないことを前提にして読んでいた(本当のことではあるのですが・・・)ので、筆者や作者が絶対であり、正しいと思って読んでいたんですよね。

もっとも、当時は、筆者を信じきって読むこと、没頭することが、読書の一番の楽しみ方だと思っていたんです(^^;

つまり、途中「ん?」って疑問に思うところもあったのですが、疑いを持って本を読むこと程つまらなく、また、内容の理解に苦しむことは無いと思っていたので、自分でもその部分は、曖昧にしていたんだろうなって思います。

要は、

「わかったつもり」

になっていたんでしょうね(^^;

所謂、本に読まれていたとも言えるかもしれません。

そこで、どういうふうに読書したらいいのかというと、先ず、筆者が絶対正しいことを書いているとは限らないことを念頭において読む。

次に、データ類や事実関係と、筆者の見解や思想を、完全に切り離して考えること!

つまり、その本を読みながらにして、筆者と、自分の見解を比べるように、結論づけるのが大切です。

特に、SNS等を中心として、誰でも「書く」時代でもあるし、読んだ本のデータや語句は、鵜呑みにせず、辞書、辞典、年鑑、白書、教科書といった参考図書(レファ本)を揃えておくと便利ですよ(^^)

私の読書の一番の目的は、情報を得ることですが、情報を得るということは、自分が知らないことを知ること、あるいは、自分が、その本で、何を重要視するかということが、ポイントになります。

書物は、お金を出して購入するのだから、どうせ読むのなら、読まされるのではなく、是非とも読みたいものですね(^^)

【二言三言】

「愉悦の蒐集 ヴンダーカンマーの謎 <ヴィジュアル版>」(集英社新書)小宮正安(著)

[ 内容 ]
博物館の元祖であるヴンダーカンマー(不思議の部屋)は、一六~一八世紀ヨーロッパで盛んに造られた。
そこにはいわゆる美術品、貴重品の他に、一角獣の角、人相の浮かび上がった石など珍奇で怪しげな品々が膨大に陳列されていた。
それは、この世界を丸ごと捉えようとしたルネサンス的な一切智、万能主義のあり方を示しており、今日の細分化された学問の対極にあるともいえる。
本書は、ヴンダーカンマーを再発見し、かつての愉悦に充ちた知を取り戻そうとする試みである。本邦初公開の珍しい写真・図版等を多数掲載する。

[ 目次 ]
第1章 遊べ!ヴンダーカンマー
第2章 宇宙の調和を求めて
第3章 術のある部屋
第4章 ヴンダーカンマー縦横無尽
第5章 バロックの部屋にて
第6章 ヴンダーカンマーの黄昏

[ 問題提起 ]
ヴンダーカンマーは、不思議の部屋のことです。

ヨーロッパの王侯貴族が、金と権力を惜しげもなく注ぎこんで、集めまくった珍奇なオブジェを集めた部屋のことです。

今日の博物館や美術館の先駆けともいえるのですが、悪趣味、ガラクタの山ともいえます。

近代の合理的な美術にあきた人々が、その悪趣味の集積に、異端の美学をさがしはじめた。

私たちにとっては、澁澤龍彦や種村季弘等が、秘密への案内者でした。

それは、ごく少数の偏愛者に開かれる部屋でもありました。

しかし、この本は、ヴンダーカンマーを一挙に開放し、その魅力を、ふんだんに見せてくれます。

[ 結論 ]
おびただしい写真が挿入され、とても楽しい本になっています。

かつては、ごくわずかな、ぼんやりしたヴンダーカンマーの写真に、想像力をふくらませていたものです(^^)

それが、数多いヴンダーカンマーを、これほど豊かに、旅してゆけるようになったのであるから、この時代に生まれて良かったと思います。

この本を見ながら、〈蒐集〉という人間の不思議な情熱について考えさせられます。

いかなるガラクタであろうと、集積がある量を越えると〈驚異〉に転化していきます。

なんのための蒐集なのかはわからなくなり、蒐集そのものが、目的になってしまう。

ヴンダーカンマーのあるものは、美術館へと展開するのですが、あるものは行きどまりで、化石化していきます。

なぜ、今、ヴンダーカンマーなのか。

この本のヴンダーカンマーをめぐる、かつてのペダンティックな、おどろおどろしさから、自由なあっけらかんとした旅を読んでいると、ガンダムやセーラームーンのフィギュアを集めるアキバ系のオタク文化にまでつながっていくような気がしました。

現代においては、すべての合理的分類が無効になっているかのようです(^^;

[ コメント ]
私たちは、分類するよりは、ひたすら集めつづけ、あらゆるものを寄せ集め、奇怪なヴンダーカンマーを作っているかもしれませんね。

現代はそっくり、巨大なヴンダーカンマーになってしまったのではないかと思わざるを得ない場面に出くわしたことありませんか?

【補足情報】

科学的知識を語るなら、「再現性」を押さえないと恥をかく時代がやってきたので、科学リテラシーはこれで一段上がるために、本書がおすすめです。

「Science Fictions あなたが知らない科学の真実」スチュアート・リッチー(著)矢羽野薫(訳)

1.ビジネス上の意思決定を経験と勘と事例のみに基づき行おうとするもの。

2.そこに再現性のない科学的知見を取り込んでしまい振り回されるもの。

3.再現性を吟味した上で科学的知見を取り込むもの。

【リストアップした書籍】

「現代化学史 原子・分子の科学の発展」廣田襄(著)

「アメリカは自己啓発本でできている」尾崎俊介(著)

「科学文明の起源―近代世界を生んだグローバルな科学の歴史」ジェイムズ ポスケット(著)水谷淳(訳)

「実践・倫理学」(けいそうブックス)児玉聡(著)

「ザリガニの鳴くところ」(ハヤカワ文庫NV)ディーリア オーエンズ(著)友廣純(訳)

「原点からの化学 化学の理論〈改訂版〉」(駿台受験シリーズ)石川正明(著)

「化学の歴史」(ちくま学芸文庫)アイザック・アシモフ(著)竹内敬一/玉虫文一(訳)

「さかしま」(河出文庫)J・K・ユイスマンス(著)澁澤龍彦(訳)

「クララとお日さま」(ハヤカワepi文庫)カズオ イシグロ(著)土屋政雄(訳)

「技術哲学講義」M. クーケルバーク(著)直江清隆/久木田水生(監訳)

「太陽の簒奪者」野尻抱介(著)

「Science Fictions あなたが知らない科学の真実」スチュアート・リッチー(著)矢羽野薫(訳)

「国家の債務を擁護する 公的債務の世界史」バリー・アイケングリーン/アスマー・エル=ガナイニー/ルイ・エステベス/クリス・ジェイムズ・ミッチェナー(著)月谷真紀(訳)岡崎哲二(監訳)

「「協力」の生命全史―進化と淘汰がもたらした集団の力学」ニコラ・ライハニ(著)藤原多伽夫(訳)

「Why We Fight The Roots of War and the Paths to Peace」(English Edition)Christopher Blattman(著)

「化学史への招待」化学史学会(編)

「1日1万歩を続けなさい 医者が教える医学的に正しいウォーキング」 大谷義夫(著)

「アルコール依存症治療革命」 成瀬暢也(著)

「戦争と交渉の経済学 人はなぜ戦うのか」クリストファー・ブラットマン(著)神月謙一(訳)

「イスラエル 人類史上最もやっかいな問題」ダニエル ソカッチ(著)鬼澤忍(訳)

「世界で一番美しい化学反応図鑑」セオドア・グレイ(著)若林文高(監修)ニック・マン(写真)武井摩利(訳)

「ある行旅死亡人の物語」武田惇志/伊藤 亜衣(著)

「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」(集英社新書)三宅香帆(著)

「あの人はなぜ相手の気持ちがわからないのか もしかしてアスペルガー症候群!?」(PHP文庫)加藤進昌(著)

「なぜこんな人が上司なのか」(新潮新書)桃野泰徳(著)

「2028年 街から書店が消える日 ~本屋再生!識者30人からのメッセージ~」小島俊一(著)

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